第52話 貴族邸潜入
神前の日記に書かれていたのは貴族の名前がカイルスで貴族の屋敷で起きた出来事に関してではなく勇者の真実について1人で来いと言われて屋敷へ行った事とそこで知った事に関する事を口外できないで悩んでいると言う事実だけだった。
行って調べて確かめるしかないでしょうと祝詞の言葉にレオニクスを加えて深夜に貴族の屋敷を調べることになった。アニエスには外で周囲を警戒してもらうので内部では自分たちでなんとかするしかない。
街外れにある貴族カイルスの屋敷にはあっさりと辿り着いた。今、徒人たちが居るのは屋敷の正面にある鉄格子の扉。そこから見えるのは人気のない広い庭園に洋館。ローマ風の国家にこの建物は良いのかとも思わなくもないが日本家屋まであるこのサラキアで文句垂れても仕方ない気がする。
「ここはな、幽霊屋敷と言われてて地元の住民も近寄らない。だが衛兵たちの巡回地点でもある。気を抜くなよ」
徒人も[気配察知]のスキルを使って人の気配を探るが深夜の時間帯に街外れにある屋敷の周囲には誰も居ない。他に存在する物があるとしたら天空に輝く三日月くらいだった。
「予定通り裏口から入ればいいの?」
「正面から入った方が疑われない」
祝詞の問いにレオニクスが鉄格子の扉に触った。罠が作動するのかと思われたが扉はあっさりと開いた。鍵が掛かっていなかったのかのように。
「行くぞ」
徒人は祝詞の顔を見る。彼女もこっちを見つめており、決意を固めていた。
「鬼が出るか蛇が出るか……行くしかないよな」
徒人が呟いたが誰も緊張のせいか誰も反応しなかった。
[罠感知]のスキルを使いながら庭園を抜けて全員で玄関へと辿り着く。レオニクスが鍵を開けてドアを開け放つ。
「開いたぞ。来い」
レオニクスが屋敷の中へと入っていく。土門、彼方、祝詞、和樹、そして徒人が最後に入ってドアを閉める。屋敷内部を、エントランスを調べてみるが特におかしい所はない。だが屋敷全体が叫んでいるような奇妙な印象を受けた。
「……なんだろう? この館なんか変?」
祝詞が立ち止まって薄明かりの中で床や壁に天井、シャンデリアまで見てチェックしている。
「呪いでも掛かってる?」
「徒人、茶化してる?」
「ここは異世界で呪いや魔法の存在がある世界なんだから茶化さないぞ。それに俺も変な感じを受ける」
月明かりの中でこんな事を言い合ってるんだから笑えない。祝詞はその回答に納得したのか矛を収めた。
「ライティング!」
和樹が取り出したロッドの先端に明かりを生み出す。そして上から黒い布を被せて光量を調整する。燃えたりしないのかと思わなくもないが要らない事を突っ込んでる場合ではない。
「取り敢えず、どこから探す?」
「客間? 日記にヒントか何か書いてあったか? 俺はさっぱりだったけど」
祝詞の提案に徒人は適当に言ってみる。彼方は考える気なしと言わんばかりに黙って周囲の警戒に徹している。
「俺に考えがあるから客間から頼む」
「オレも消去法的に客間から調べるべきだと思う」
和樹と土門も同意してくれたがこのエントランスからどう行けば客間かどうか分からない。
「こっちだ。予め建物に地図を頭に叩き込んでおいた」
レオニクスはエントランスの奥にある廊下へと歩き始めた。徒人は祝詞を見つめる。彼女は土門と彼方が続いてから後ろに着いて行く。和樹もそれに続いたのを確認してから徒人は最後尾で後ろを警戒しながら歩く。
すぐにレオニクスがある扉の前に立ち止まってドアノブを回す。仕掛けはなかったのか、簡単に開いた。客間にはソファーと暖炉とテーブルがあるだけだが全体的に違和感を受けた。
徒人は先程から[罠感知]のスキルを使っているがそれだけでは足りないと感じて精霊さんもこき使っているが罠の反応はない。
和樹が客間に入ってまっすぐに暖炉に向かって移動する。残りの全員で慌てて客間に入るがやはり罠らしき反応はない。
「おい。お前は罠感知スキル持ってないんだから無茶するな」
レオニクスが言うのも聞かないで和樹は暖炉の上に突き出ていた燭台を下に引っ張った。同時に音がして仕掛けが作動したのか暖炉が天井に収納されてその奥に通路が現れた。
「急に弄らないで。罠に引っ掛かったかと思ってびっくりするから」
「一応、構造上吊り天井とかはないよ」
彼方の抗議の声に土門が冷静に答えた。
「それでもいい気分じゃない」
「すまない。縦読みしたら燭台と書かれてたから試しておこうと思ったんだ」
和樹は後頭部を左手で掻きながら右手でロッドの先端を暖炉のあった奥の空間へと向ける。石剥き出しの通路がそこにあったが徒人には罠の存在は分からない。レオニクスが駆け寄ってきて中を覗き込んでいる。
「カビ臭くないな。最近使った形跡があるみたいだからこっちで間違いないと思う」
黙っていた彼方が鼻を鳴らしながら口を挟む。
「じゃあ、進みましょうか。夜が明ける前に調べないと」
祝詞の判断にレオニクスが先頭に立って隠し通路へと足を踏み出した。




