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第51話 聞きこみが大事

 一度、寝直して日が昇ってから土門に連れられて徒人たちはレオニクスへの連絡役としてアニエスを家に置いて熊越パーティが滞在している家へとやってきた。


「あんたたちか。何をしに来たの?」

 洋館風の建物から出てきたのは少女戦士だった。彼女は染めていた髪が黒に変化して目元が腫れて頬が痩せたような印象を受ける。


「神前さんの位牌に手を合わせに来ました」


 最初に口を開いたのは祝詞ではなくて土門だ。


「そういう事なら上がって。線香上げて行って」


 仲間を失った影響か、少女はドアを開けて中へと招く。土門が真っ先に入るのを見届けてから祝詞に続いて徒人も家の中に入った。和樹と彼方は顔には出さないが興味なさそうにしているように見える。

 徒人はつい靴を脱ごうとしてしまったが日本家屋と違って安物の絨毯が敷き詰められて靴を脱ぐ必要がなかった。

 土門はこの家に来た事があるようで無言で先へ先へと進んでいく。


「ちょっと人の家なんだから勝手に進まないで」


 土門はその一言を受け、その場に留まる。


「そう言えば、名前を聞いてなかったな。俺は神蛇徒人だ。こっちから」


「名乗らなくていいよ。全員知ってる。こっちは一回も名乗った事なかったね。あたしの名前は来栖麻美(くるすあさみ)だよ。あんまり覚える必要もないかも」


 徒人の自己紹介を打ち切って彼女は来栖と名乗った。


「熊越さんは居らっしゃる?」


「リーダーなら食堂で位牌の前にいると思う。これからどうするか決めかねてるみたいだから」


 来栖は祝詞の言葉に答えつつ、先頭を歩く土門を追い抜いて自分が先頭を歩く。エントランスを抜けて廊下に出てしばらく歩くと来栖が立ち止まった。食堂に着いたらしい。


「ここが食堂よ。リーダーが位牌を持って歩いてるからここにあると思う。ごゆっくりどうぞ」


 来栖がドアを開けて中へと通された。中には大きなテーブルの中央近くの椅子に座っている熊越が見えた。彼女はテーブルの上にある手作りと思われる位牌をぼんやりと見つめている。


「こんにちは」


 祝詞が一声掛けるが食堂の主は反応しない。ふっくらとしていた容姿は雰囲気のせいもあって神前早希の葬式の時よりも痩せたように見える。


「ちょっとリーダー! お客さんだよ」


 来栖の声に熊越はゆっくりと入口の方を見た。


「土門君、きてくれてありがとう」


 ようやく反応した最初の一言はそれだった。来栖はそれを見て外側からドアを閉めてどこかへ行ってしまう。


「土門君、後で説明してもらうから」


「別に隠してた訳じゃない。熊越は幼馴染みなんだ」


 小声の祝詞に土門は堂々と言い放った。その対応に祝詞は唇を強く閉じる。彼を責めているのではなく気が付かなかった自分を責めているように見えた。


「だからこのパーティを気にしてたのか」


 徒人の言葉に和樹が若干居心地の悪そうに肩を竦めた。だから和樹がこのパーティに無関心だった時に土門が怒ったような態度を取っていたのかとやり取りを思い出す。

 取り敢えず、全員が神前の位牌に手を合わせてから祝詞が口を開いた。


「余り聞きたくない事を聞くけど答えてもらえる?」


「答えられる事なら」


 位牌を見つめたまま、熊越が呟く。スキル的には徒人は自分が問い質すべきなんだろうが下手にこじらせるのを嫌って黙っている事にした。


「神前さんは勇者関連の事で何かを悩んでいなかったかなと思って聞いておきたいの」


「悩みがあったから蘇生しなかったと言うの? あたしたちが負担だったから早希ちゃんは生き返らなかったと言わせたいの? ええ、そうよ。早希ちゃんに頼って甘えて守ってもらって」


 祝詞の言葉に逆ギレした熊越が椅子から立ち上がって叫ぶように喚く。だがそれは途中で嗚咽にかき消された。


「ゆーちゃん、取り敢えず座って」


 土門が宥めつつ倒れた椅子を直してそれに熊越を座らせて落ち着かせようとする。


「別にそんな事は言ってない。俺たちが襲撃された件で勇者に関する噂が流れてるからそれを確かめたいだけだ」


 徒人は黙って居られなくて一部の事実を伏せて説明する。


「じゃあ、先にあたしの問いに答えてよ。貴方たちなら知ってるんでしょう? どうしたら早希ちゃんは死ななかったの?」


 立ち上がろうとする熊越を土門が抑えた。だが彼女は噛み付きそうな視線を徒人たちに向ける。


「ちゃんと話し合うべきだったとしか俺には言えないよ」


「当方は女だけの集まりで破綻したようにしか見えないけどね。遠慮しすぎたんだよ。命賭けるのになあなあにしてしまったのが代償になってしまったんだ。あとついでに思い出したけど当方を男と見間違えるような洞察力だからだよ」


 和樹と彼方が冷たい意見を言う。特に彼方は男と見間違えられた事を根に持っていたようだ。

 そんな2人を土門が非難するように見つめている。


「随分、はっきり言ってくれるのね。そっか。そんな風に言い合えるから貴方たちはトップ12に食い込んでるのね」


 恐らく自分でも感じていたのか熊越は憑き物が落ちたような表情になった。


「言いたい事を言い合わないとストレス溜まるからな。男女入り混じって組んでるし」


 その場に居た祝詞パーティの全員が徒人の意見に頷いた。


「それで落ち着いたのなら神前さんが何を思っていたか分かる?」


「悩んでたのは確かだけど何もあたしたちには言ってくれなかった。ただ、街外れの貴族に手紙で呼びだされてから様子がおかしくなった。『このままで良いんだろうか』って呟いてた」


 その返答に祝詞は渋い表情になった。


「街外れに住んでる風変わりな貴族なんて1人しか居なかった気がするんだけど」


 祝詞が左手で顔を隠しながら考え込む。

 ここでも色街と繋がるのか。こうなったら貴族の屋敷を調べてみるしかない。


「確認するがどこの貴族の屋敷か分かるか?」


「あたしには何とも。ただ早希ちゃんの日記に何か書いてあるかも」


 熊越は土門に付き添われながら食堂を出て行った。


 そしてしばらくして日記らしき本を持ってきて祝詞に手渡した。役立つなら持って行ってくれと。

 日記を借りて徒人たち一行は熊越たちの家を出た。

 

「彼女たちは大丈夫かな」


「自分たちで立ち直らないとどうしようもないだろう。俺たちは俺たちで出来る事をするしかない」


 祝詞の懸念に徒人はぶっきらぼうに答えた。土門は面白くなさそうに眉毛を歪める。そんな態度に不安を感じていたが今は問い質さずに居た。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は26になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は23になりました。[知識欲4]と[成長促進4]が5にレベルアップしました】

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