表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/368

第48話 祝詞のお悩み相談室

 アニエスを介して盗賊アジトで襲われた事を報告し、勇者の能力らしき物の正体を告げて家へ帰ってきた。そして夕食を済ませた後、徒人は祝詞の部屋を訪れていた。その部屋は鏡台とタンス代わりの籠が置いてるだけで殺風景な光景だ。

 その中央に座布団を敷いて座っている風呂上がりで浴衣を着てる祝詞が座していた。


「相談されるのは良いけど対価は貰うよ」


 祝詞がニヤニヤしている。正直、美人には似つかわしくない嫌らしい笑みだと徒人は思った。徒人は彼女の正面にあった座布団に座る。


「なるべく安めにしてくれ。一応防音結界は張るから」


 徒人はアニエスに教わった通りに防音結界を張る。


「これで(わたくし)を襲うのね。いやらしい事をするんでしょう!」


「そういう冗談は嫌いじゃないですけど祝詞に対してそういうつもりじゃないから」


 徒人は笑いながら否定する。


「クソっ! そういう事を言われる方が腹立つ! 胸か! 胸か! このおっぱい星人め! 魔王のおっぱいに釣られたのか!」


 祝詞の言葉に徒人はトワと風呂に入った時の事を思い出す。小は大を兼ねないのであるとか座右の銘にしたくなる。トワさんと風呂に入りたい。1時間前に上がったばっかりだけど。


「あの人、そんなに胸を強調する服は着てないでしょう」


「女同士を甘く見ないで欲しいな。サイズとカップくらい分かるよ。男の視線も!」


 完全に裏目に出た回答だった。こうなった以上話を変えるしかない。


「話が脱線してますけど対価は何ですか?」


「……魔王トワとの関係は後で詰問するとして取り敢えず髪を乾かすのを手伝って。それをしながらでも口は動かせるでしょう。ドライヤーないから長髪を維持するのは大変なんだよ」


 この人も面倒臭いとも思わなくもないが異世界に来て苦労してる女子陣には多少の同情はしたくなる。


「分かった。タオルで拭けばいいのか」


 頼むよと祝詞はタオルを渡して背を向けた。徒人は祝詞の後ろ髪をタオルで拭き始める。


「それで話したい内容は?」


「悩みがあるんだが聞いてくれるか?」


(わたくし)で聞ける事なら」


 祝詞は自分も前髪をタオルで拭きながら言った。


「俺って潜入してるのに凄く目立ってる気がするんだけど……あと一応、人間を裏切ってる訳だし悪役なのかなって思うんだ」


 徒人は声を絞り出した。こんな事はトワさんに相談できない。


「スパイは疑われるな。正体がバレるな。なんだから許容範囲内でしょう。酷い事して目立つくらいなら多少ヒールっぽい人間だと思われてるだけの方がいいでしょうし、一応、貴方はスパイを倒した英雄だけど……もしかしてギャップに悩んでるの?」


 祝詞はズバズバと指摘する。はっきり言われると辛い。


「簡単に言うとそうなるな。だから祝詞にしか相談できない」


「さすがにその件を魔王トワに相談する事は出来ないわね」


「だよな」


 徒人は話を続けながら祝詞の髪から水分を拭き取る。


「今のままでいいんじゃないの? 出来る限り目立たないようにしたら、と言っても勇者もどきに狙われてるなら無理よね。人間、目立たず波を立てずに生きていくなんて難しい事だから。それに徒人君は悪い意味で目立ってたし」


「え? 何それ。何かしたけ?」


 徒人は手を止めて思い出そうとするが思い出せない。


「手を動かして。ほら、こっちの世界じゃなくて日本での話。女子をいやらしい目で見てるって凄くがっついてると言う噂があってね……それでみんなから引かれてたじゃない」


 徒人は部屋から逃げ出したい心境になってきた。


「ううう、元の世界での事を持ち出されるとこんなに凹むのか」


「落ち着いて。(わたくし)は嫌いじゃないよ。そういう姿勢は男の子に必要だし、今は落ち着いてるじゃない」


 EDになったせいだなんて言えない。徒人はタオルを動かしながら泣きたい心境だった。


「もしかして地雷踏んだ? そしてその辺りを優しくされて落ちたの?」


 祝詞がこっちを向くが徒人は顔を背けた。


「悪かったわ。そこら辺は二度と追求しないから」


 祝詞が正面を向く。


「祝詞は全部理解してトワさんと会談したんだよな?」


「魔王トワの目的は勇者の抹殺とか無力化でしょう? 地上の覇権ってタイプではないのは分かったけど……強いて不安挙げるなら彼女の最終目的かな」


「知ってて手を組んだのか。度胸あるな」


 我ながら頭悪そうな一言だったと徒人は反省する。

「この間も言ったけど、ろくでもないのは人間も同じだから。ユリウスは責任を十字架教に擦り付ける気だし、十字架教はドンパチやるつもりだし、そして、(わたくし)は全体の一部でしかない色街に被せた。(わたくし)も含めてろくな人間が居ないよ。かと言って体勢転覆とか(わたくし)たちには実現不可能。ならば保身の為に取れる選択肢を増やしておくべきでしょう。逃げ道を作るのもリーダーの仕事だよ。それにこの大陸の覇権争いってなんか人間か魔族かとか言うレベルの話じゃなくて権力闘争みたいな側面が見えるんだよね。(わたくし)からみたら余計に」


「そっか、地雷踏んだか。すまん」


 徒人は取り敢えず謝っておいた。だが祝詞はそれがお気に召さなかったようだ。


(わたくし)の地雷なら踏んでもいいよ。むしろ聞け。むしろ、無理矢理でも聞かせるから」


「善処するよ。あとレオニクスの件はどうする? 人質を取られてるような感じは無いが──」


 徒人は祝詞の髪が十分に乾いたので手を止めて聞く。


「彼方が言ってた通り怪しい兆候があるのは確かね。ただ、無理やりやらされてるのか自分で動いてるのか……ユリウスの命令で動いてるのか? 他の勢力の移行で動いてるのか見極めないと。色街の件は勇者の件で押し通せたけどレオニクスは仲間でもあるからバックを探らないと対処のしようがない」


「そうだな。あいつがこの家に居ないのがマシなのかね。こっちも家の中で腹の探り合いしたくないし」


(わたくし)たちを監視できないと言う事は逆に(わたくし)たちに監視されないと言う事でもあるから彼が仮にスパイとして24時間張り付きなかったのとこの家は日本家屋だからプライバシーが無い事を嫌ったのかもね。いずれにせよ、彼が情報を流してるのか或いは違うのか、彼にバレないように確証を掴まないと」


 祝詞は平然と言ってのけた。


「俺もこんな風にチェックされてたのかと思うと笑えない」


「どうだったかな」


 祝詞ははぐらかすように笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ