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第47話 一度見た技は通じない

 だが宙に舞ったのは彼方の首ではなく仮面の男の血だった。彼方はいつの間にか取り出した脇差しを右手に持ち、斬撃を防ぐのと同時に左手に持ち替えた長船兼光で仮面の男の右腕を斬り落としていた。


「神楽独楽!」


 そして両手に持った刀を起用に使いながら彼方は独楽のように回転して仮面の男を攻撃する。だが奴は既に攻撃の届く範囲の外に居た。

 本来は何もない筈の空間にヒビが入る。そして微かに空中に血が舞う。徒人の目には仮面の男が2人いるのが分かって走りだす。同時に今までの違和感はこれだったのかと確信する。


「勇者かなんだか知らないけどせこい手だね」


 両手に持つ刀で2人の仮面の男を牽制する。

 徒人は魔剣を鞘から抜き放ち右腕のない仮面の男の胴を凪ぐ。彼方と背中合わせになってお互いに仮面の男と相対する。


「まだ来なくてもいいのに」


 彼方が笑っている。心なしか嬉しそうなのがだった。


「これで2対2だろう。双子とか言うオチか?」


「そこは分からない。分身能力とかかもしれないし」


 彼方は脇差しを左手の裾の中に戻して長船兼光を両手で構えた。


「コケにしてくれたな。次こそは殺す。次こそは」


 2人の仮面は同時に距離を取り、転移宝玉の欠片をレンガの上に叩きつけてその場から消えて行った。気配察知のスキルを使うが人の気配も鼠などの小動物の気配もなかった。


「能力までは暴けなかったな。あ、神蛇さん動いたら駄目だからね」


 その言葉を受けて徒人は罠感知のスキルを発動させる。そこら辺に糸や透明なガラス片のような物が空間に固定されていた。


「いつの間に」


「戦いながらバラ撒いてたから」


 彼方は罠が発動しないように長船兼光で糸やガラス片を斬り落とす。


「ちょっと待ってくれ。罠ごと凍らせる。氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」


 和樹が加減して部屋全体を凍結させた。空中にあった糸もガラスのような罠も凍り付いて無効化される。


「うげぇ。いっぱいあるな。突っ込まなくて良かった」


「土門君、貴方は突っ込むような役目じゃないでしょう。レオニクスさん、ヤバそうなのの解除をお願いします」


 祝詞は淡々とレオニクスにお願いする。


「……聞いてなかった。すまん」


 レオニクスはこの部屋の罠の解体に取り掛かった。数分ほどで罠の解体は終わったのだが迷う事なく危険度が高いのから解体していく様はプロの盗賊としての仕事のそれなのだが余りに迷いがないのに徒人は気になった。

 最初から知っていたかのように見えたから。それに徒人を含めた祝詞パーティがここに来るのは朝決まった事だ。それにレオニクスだけこの部屋に入ってから積極的に動こうとはしなかった。


「派手にやらせてもらう」


 彼方は凍り付いた糸を片っ端から切って落とした。徒人も解除しようと思ったが彼女があっと言う間に片付けてしまったのでやる事が無くなってしまう。仕方ないので魔剣を鞘に収める。


「レオニクス、引き続きこき使って悪いけどこの部屋に何かあるか探してくれる?」


「はいはい。人使いが荒い事で」


 祝詞に言われてレオニクスが辺りを家捜しするが元々祭壇しか置いてなかった上に何も出てこなかった。


「罠だったのかね。元々、情報が漏れていた可能性も考慮すべきか」


「まだ2度目だ。偶然の一致も捨てきれないがな」


 徒人の独り言にレオニクスが反応する。普段からは考えられない事だ。嘘を吐くと人は饒舌になると言うが……


「たまたま仮面の男の所を引いたと?」


「ないとは言い切れない」


 土門の言葉にレオニクスがぶっきら棒に答えた。アニエスは常にレオニクスを監視できる位置でこちらを眺めている。何か遭った時に対応できるようにしてるのだと思うが彼女の真意は分からない。


「難しい顔して情報なんて漏れっこないよ。裏切り者なんて居ないんだから」


 祝詞が笑顔で言った。勿論、その笑顔の下には腹を探る為に言ってるのだろう。しかし、徒人にはレオニクスに探りを入れているように見えた。

 だが当のレオニクスはこちらを一瞥して鼻を鳴らしただけですぐに部屋の捜索へ戻って行く。


「笑顔が怖いんだ……」


 そう言った途端に土門は祝詞に向こうずねを軽く蹴られていた。


「取り敢えず出ようよ。何も見つからないならここに居る理由がない」


 殆ど1人で仮面の男たちを相手していた彼方がため息を吐く。ただでさえここに来るまでが面倒だったので本当に疲れてるだろう。


「ではかえって仮面の男の謎を引剥した彼方の激励会でもしますか」


「じゃあ、神蛇さん、カルナさんからサーモンもらってきてよ。あれ食べたいよ」

 返ってきた答えに徒人は絶句する。しまった。とんだやぶ蛇だった。


「分かった。カルナの弱みを握って脅してでも頼んでおくよ」


 我ながら酷い返答だと思いつつ、徒人は横目でレオニクスを見る。雰囲気はいつもと変わらなかった。脅されてる訳では無いのか──

 徒人たち一行はカビの臭いがする盗賊団のアジトだった廃教会から和樹の魔法で脱出した。

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