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第45話 勇者対策

 勿論、朝帰りになってしまって徒人はアニエスに誤魔化してもらった。だが事情を知っている祝詞の表情は笑顔で居るのだが発しているオーラはドス黒く淀んでいた。これでは白咲ではなく黒咲いや暗咲と呼んだ方が良いかもしれないと徒人は青くなっていた。

 彼方のリハビリも兼ねて森の回廊の次の場所である水の回廊で探索して素材を売り払ってウェスタの巫女神殿へ寄って昼過ぎには家に帰ってきていた。理由は彼方に無理をさせないのと和樹が錬金術師の魔法を一通り覚えたので転職する為である。

 食事を済ませてから彼方の提案でパーティメンバーは庭へ移動した。提案とは勇者対策だ。そして彼女の相手をする事になったのは徒人だった。他のメンバーは縁側に座り、祝詞はお茶をすすっているし、和樹は錬金術で何かを生み出す練習をしていた。そして土門は縁側に座って遠くを眺めている。


「殆ど全員で行動しないといけないのは面倒だな」


「でも徒人と和樹を狙ってる気がするんだけどね」


「いや、たまたまだろう」


 徒人は和樹と祝詞の意見を否定する。だが2人は分かってないなと言う雰囲気を出していた。


「勇者発言は奴にはお前が勇者と思う根拠があるんだよ」


「いや、ないだろう。俺はユニークスキルを覚えてないんだぜ」


 和樹が言った言葉に徒人が肩を竦める。俺が勇者だったら死ななきゃならんじゃないか。ま、裏切れば問題はないが──


「そうなのかね。無意識に発動させてかつ相手の分析能力が発動したら隠蔽するユニークスキルとか言うオチじゃないのか?」


 その言葉に徒人は押し黙る。可能性から言えば、ないとは言えない。


「持ってきた。神蛇さん、相手をお願い」


 ついでに街の武器屋で買ってきた木製の小剣と竹刀を腰のベルトに挿して彼方が物置から戻ってきた。そして徒人に竹刀を投げて渡す。


「木の剣とか無かったのか? 微妙に勝手が違うからやりにくいんだけど……あとあいつ本気出してきたら動きが変わってたんだが」


「そのくらい再現できるから問題ないよ。それにあんまり硬いの使うと怪我するじゃない」


 彼方は正論を言っているが彼女の技量を考えたら普通に怪我しそうなんだが──


「彼方、やっちゃいなさい!」


「任せて任せて。しっかり叩きこむから」


 祝詞の言葉の真意を分かってるのか分かっていないのか彼方が親指を立てる。

「はい。神蛇さん、準備出来たら仕掛けてきて」


 竹刀を正眼に構えて徒人に対して横向きに立っている彼方を正面に見据えた。

 徒人は彼方に斬りかかる。彼女は左腕だけで反応して小剣で竹刀の軌道を逸らして体勢を正面に戻し、右の小剣で徒人の左脇下を正確に狙ってくる。そしてその一撃は寸止めで止まった。だがそれでもジワジワと痛みが伝わってきて辛い。徒人は思わず膝を地面に付いてしまう。


「まずは一本。当てる気はないけど昼飯を吐きそうになったらごめん」


 彼方は徒人に手を差し伸べる。


「さすが剣道少女」


「リーダー、当方は剣道少女じゃないよ。剣術少女ね。剣道なんか古流剣術のついでにやってただけ。剣道なんて真剣にやってないよ。所詮、スポーツだし」


 そんなやり取りをしてる間に徒人は彼方の手を取り、立ち上がる。


「簡単にあしらわれるとちょっとショック受けるぞ」


「それはそこら辺の雑魚とは違うもの。切った張っただし」


「その割には遅れを取ってしまったな」


 縁側で戦いを見ている土門の言葉に彼方が口をすぼめる。


「油断は油断だね。だから今度は当方がやり返す番。1対1なら譲ってもらうから」


 彼方の漆黒の瞳に黒い光が宿る。徒人は無言でおかっぱ頭に竹刀を振り下ろしてみた。だが不意を突いたにも関わらず、彼方は左の小剣で軌道を反らし、右の小剣で徒人の喉を刺す動作をして手前で止める。

 先程と違って圧迫感があるだけで徒人の喉に痛みはない。


「ナイスナイス。そうそう。そういう感じで良いんだよ。とにかく二刀流になれないと対策が打てないから」


「それは分かるが彼方はどう稽古してるんだ? 俺では相手にならんだろう」


「なってるよ。自分が行動しながら逆側で考えつつ、徒人の行動も可能性の計算として取り込んで考えてるから役に立ってるよ」


 彼方はサラリと言ってのけた。つまり、将棋とかなら3つの盤上と向き合いながらその1つで徒人の相手をしてると言い放ってるのだ。

 徒人はちょっとムカついて彼方が右の小剣を戻すのを見計らって竹刀で彼女の左脇を狙う。完全に騙し討ちの一撃ですらも戻しかけていた右の小剣の切っ先を竹刀の竹の隙間に突き刺すことで防いでいた。そして左の小剣は徒人の目の前に突きつけられていた。


「むー、今のは駄目だな。あ、神蛇さんの事じゃないよ。当方の防ぎ方が良くないなって話」


 彼方は右の小剣で竹刀を弾いて徒人が体勢を崩した隙に距離を取っていた。


「分からないから教えてくれるか?」


「本来、神蛇さんが持ってる武器は剣なんだから竹刀の隙間に刀を差し込んで防ぐとか反則だから今のは取られた方に勘定入れとくね」


「なるほど。でもさっきから動きを読まれまくりなんだが」


 徒人は答えを聞きながら竹刀を構えて地面を蹴って斬りかかる。竹刀は彼方に届く前に左の小剣に弾かれて飛んでいき、右の小剣は徒人の心臓の延長線上に添えられるように突きつけられていた。


「簡単だよ。神蛇さん、さっきから意図的に腹部を避けて攻撃してくるから上からに限定されてる。だから読み易いんだよ。それに積極的に攻めてきてくれてるから」


「彼方を女だと思って手加減してる訳じゃないんだがな」


「別に不思議じゃないよ。稽古で強い人と実戦で強い人は違ってたりするし、かの新選組でも実戦でも稽古でも強い人は少なかったし、神蛇さんは実戦派なんだよ」


 彼方の説明に納得のいかない物を感じながらも徒人は竹刀を取りに行こうとする。


「待ってくれ。俺が代わる」


 縁側で観戦してた土門が名乗り出た。


「なら任せる。これ以上やるとかえって自信を無くしそうだ」


 徒人は土門と入れ替わる形で縁側に座る。


「謙遜しないで。今まで殆ど剣を握った事がなくてここまでやれたら才能ある方だよ。じゃあ、次は土門さんが相手か」


 彼方はそれだけ言って竹刀を握りしめた土門と対峙する。


「女だから手加減してたんでしょう? ちょっと彼方が喜んでるような感じがしたよ」


 祝詞が使ってない湯のみにお茶を注ぎながら徒人に差し出す。意図的に目を瞑っているので表情が読めない。


「そうか。でも祝詞は俺が女斬った所を見てたじゃないか」


「徒人君の返しは冷たいな」


 祝詞は瞼を開いて碧色の瞳を徒人に向ける。


「俺は彼方に手加減してる余裕ないと思うんだがな」


 もう少し戦えると思ったが完全にあしらわれてしまった。そんな徒人の落ち込みを察したのか祝詞が話題を変えるように口を開いた。


「……そう言えば、色街のパーティメンバーが解放されたらしいよ。ま、もっとも謹慎処分みたいだけど」


 祝詞の話を聞きながら徒人は当然の事だと思う。恐らく色街のパーティメンバーに十字架教との繋がりなどないのだから。


「そうなるだろうな。問題はランキングか。俺たちも総合だとちょっと下がって12位くらいで人の事は言えないが……」


「その事ですが何でも色街があの日に会っていた貴族が十字架教に近いらしいので手入れが入ったそうです。その絡みでこっちにも命令が来るかもしれません」


 台所から戻ってきたアニエスが口を挟んだ。


「アニエス、それはどういう命令なの?」


「あくまで噂ですが十字架教は金持ちから窃盗を繰り返していたと言う話ですが本当かどうか確証がありません。その内容は悪徳貴族から盗んで貧しい貧民街の住民に配っているとか噂もありますがこれも確証はありません。むしろ、自分たちの評判を上げるための細工である可能性もあります。どっちにしろ盗賊の討伐命令があるかもしれません」


 アニエスが祝詞の問いにサラリと答えた。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は25になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は22になりました。[剣技6]が7にレベルアップしました】

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