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第44話 魔王(ヤンデレ)からは逃げられない

 その場は時間が切れたのか、トワの追求をどうにかやり過ごして家の自室に戻った徒人だが夜更けにアニエスが持ってきた大きな鏡で話が一変する。


「ご主人様、あの方がお話があるそうです」


 アニエスは防音結界を張って部屋の中央に大きな鏡を置いてドアを閉めて出て行った。あの人は勿論トワしか居ない。


「これはどうやって使うんだ?」


『もう聞こえていますよ』


 好きな人の声であるのに徒人は背筋が凍り付くのを感じた。そして鏡には自分の顔ではなくトワの顔が映り込んでいる。表情がにこやかなのが反応に困った。


「怒っていますか?」


『怒っていませんよ』


 女性の変化に疎い徒人にはそれが嘘なのか分からない。仕方ないので自分の聞きたい事を聞いて話を逸らす事にした。


「自分で調べてみたんですが俺にはユニークスキルがないような気がするのですが」


『他ならぬ徒人の頼みなんですから断りませんよ。発動せよ。魔王の(まなこ)!』


 トワの鴇色が光ってスキルが発動する。なんか撫子色の唇が濡れてるように見えた。そして心なしかはしゃいでいるように思える。


『ばっちり徒人の能力とスキルを把握させて頂きました。それこそ丸裸にしたかのように』


 機嫌は直ったようだが虚ろ目のトワさんは不吉な事を言っていた。もしかしてミスったのかもしれないと思い始める。


「かなり物騒な事を言ってる気がしますが……」


『ユニークスキルはありますね。覚えていないか。或いは習得して居ても秘匿されているだけかもしれません。ちなみに3つ覚えられるみたいですがわたしには見えません』


 鏡に写るトワは満足そうに見えた。


「魔王のトワさんでも見えないんですね」


『覚えてない物は見れません。覚えてるものはたっぷり見ましたよ。許可されて見たんですから何も問題無いですよね?』


「不安になるような事は言わないでもらえますか?」


 トワの輝くような笑顔が徒人を不安にする。


「ちなみにどこまで見たんでしょうか?」


『把握できる事実を全部です。全部。徒人はわたしに結婚を申し込んだんですよ。婚約者として相手の事を知るのは当然の権利じゃないですか』


 徒人は付き合ってくれとは言ったが結婚してくれと言った覚えはないので必死に思い出そうとする。学生で未成年なので酒を飲んで酔っ払う訳がない。だとしたら意識がもうろうとしていた状態の時だが──この間の時だろうか? だが思い出せない。


『徒人、告白した時にわたしの年齢を聞いてますよね?』


「人間に加算すると──」


『そこは言わなくていいです。言わなくて! わたしもそろそろ年貢を収める頃だと思うんです。だから付き合う場合は結婚を視野に入れるのは当然じゃないですか』


 徒人はそういう風に取られるのかと思いつつ、別に嫌じゃない気分だった。ただ元の世界に帰れたとして両親はなんと思うだろうか。650歳離れた魔族の女性を連れてきたらビックリするんだろうなと考えると頭が痛い。ただあの両親なら結婚する事自体には文句は言わなそうだ。しかし、気にすべきはこっちに来てからした事ではないのかと──

 思考の沼に囚われかけて徒人は頭を振る。


「トワさん、遊んでたんですか? あ、年貢の納め時とかあんまりいい言葉じゃない気が……」


『……あ、遊んでません。た、ただ、仕事にかまけてと言うか言い訳してないでそろそろ身を固めるのは女性として当然の事かと思っただけです』


 トワが慌てて反論する。あたふたして先程までの怪しい雰囲気は薄れていた。安堵しつつ、徒人は笑いを堪える。


「なるほど」


『それより徒人650歳の歳の差が気になりますか?』


 その言葉で徒人は再び極寒の地へ放り出された気分に陥る。トワの目はまた虚ろ目に戻っていた。


「いえ。人間の基準なら12歳ですよね。干支一回りなら大丈夫かと」


 徒人が宥めようと言葉を発してみる。


『徒人はお風呂場でわたしを弄んでおいて歳の差を気にするんですね。結構酷い人ですね』


 トワの瞳に黒い炎が宿る。


「別に気にしてませんよ。離れすぎてて実感沸かないですし……それにトワさんと一緒にお風呂には入りたい」


『じゃあ、今すぐに来てください。今すぐ入りましょう』


 トワの撫子色の唇の端によだれがこぼれていた。


「今日は遠慮しておきます。夜も遅いし、祝詞に朝帰りを疑われてるので」


『徒人は将来の妻よりも他の女の機嫌を優先するのですか? それは少し冷たくないですか? わたしはとっても寂しいです』


 トワが普段のモードに戻って悲しそうに問い掛けてくる。


「……転移陣はここから開けましたけ?」


『予め陣を用意している場所と防音結界が発動条件なんで大丈夫ですよ』


 鴇色の瞳があからさまに期待していますよと言わんばかりの視線を徒人に向けた。


「そっちに行きますから同じベッドで寝ましょう。それで良いですよね? 絶対に朝一番で起こして下さいよ」


『はい。勿論です。絶対に起こしますから。これが世に言う魔王(ヤンデレ)からは逃れられないと言うやつですね』


「トワさん、絶対に使い方を間違ってますから」


 徒人は思わずツッコミを入れていた。


『そうなんですか? じゃあ、転移陣の使い方ですが──』


 もう決定事項のようにトワは転移陣の説明をし始めた。


 結局、徒人は流されるままにトワの寝室へ行く。そして結果として朝帰りする羽目になってしまった。

 トワに文句を言ったら「だって、徒人の寝顔が可愛いからもう少し見ていたくて」と言い訳していた。それで追及の手を止めてしまう自分に徒人は男の性を感じて情けなくなってしまう。

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