第43話 ユニークスキル
トワはあっさりと言ってのける。辺りを見れば、衛兵たちは一部を残して仮面の襲撃者たちを探しに移動したようだ。
レオニクス以外のパーティメンバーは全て彼方の周囲に集まっていた。
『それだと奴が勇者になりますよね?』
『はい。そうなりますね。アニエスに話して聞いてみた方が詳しい説明をしてくれるかと』
トワに言われてアニエスを見る。徒人が気を取られてる間に彼方の話が進んでいた。
「と言う訳なんです」
「それは勇者のユニークスキルですかね。分身と言う事は複合星座である双子座か魚座の可能性があるかと」
「魚座? 双子座じゃなくてか?」
徒人がツッコミを入れる。そう言えば、この世界も星座は地球と同じなんだろうか。
「双子座だけじゃなくて魚座も星上では複数書かれてるのよ。双子みたいにね」
脱力状態から復活した祝詞が説明してくれる。
「全然知らなかった」
「当方ですら知ってるのに……男子は駄目駄目だな。と言うか、神蛇さん、余計な横槍を入れないで話が進まないから」
「すまん」
本当に要らないツッコミだったので徒人は素直に謝る。
「分身を創りだして位置を入れ替える簡単なスキルですが使い所次第ではかなりの良スキルかと」
「自分と分身の位置を入れ替えるとかチェスのキャスリングみたいなスキルだな。必殺技使った時点で入れ替わられたらキツイな」
「それより、勇者は蟹座の神前以外に居たのか?」
一番肝心な所を聞くのを忘れていたのでそれを問う。
『帝國の召喚した稀人ではなさそうですね。別の派閥みたいです』
その問いにはトワが答えた。
「少なくとも衛兵たちが追っている時点で執政官殿や元老院の配下ではないでしょう」
その場で説明するアニエスも似たような事を口にする。徒人は映画を見てると隣からイチイチネタバレされてるような気分に陥った。
『徒人、わたし、何か悪い事してますか?』
ヤンデレモードでトワが話し掛けてくる。
『いえ、何でもないです。ご解説ありがとうございます』
考えたら思考がバレるのを忘れていた。徒人は出来るだけ考えないようにする。ですよねぇとトワさんが喜んでいた。
「どこの手の者か分からないのか」
「多分、十字架教の連中じゃないか」
声がして振り返ると東口側からレオニクスがこちらに歩いてきていた。
「遅いわね」
「遅れてすまないな。帰ってくるのに手間取ったんだよ」
祝詞の叱責の言葉にレオニクスは悪びれた様子もなく変わらぬペースで歩いてくる。
「十字架教の連中だと言う根拠は?」
祝詞が問う。
「装備と痛覚遮断している事を利用した戦闘方法だな」
「そんなエグい戦い方が主流なのか?」
戦闘を見ていなかった土門が聞き返す。ん? レオニクスの方が来るのが遅かったから見てなかった筈なのだが──周囲を見渡して見るが転移宝玉の欠片と呼ばれた物の破片しか落ちてない。
なんかトワさんがこっちを注視してるような感じを受けるが彼女は何も言ってこない。
「そりゃ神の為に死ぬのが奴らの教義だからな」
「所謂、聖戦か」
和樹が吐き捨てるように言った。
「そういう事になるな」
レオニクスは冷たく肯定する。暗い空気が重く伸し掛かってくる。
「そう言えば、リーダー、服が汚れるのが嫌いなのは分かるけどさすがに仲間の血を避けるのは酷くないか?」
土門がそんな空気の中で意外な事を問いただした。確かに祝詞は彼方の血を避けるような動きをしていた。
全員の視線が祝詞に集まっていくのが分かる。
「……折角、ユニークスキルの話が出てから私のユニークスキルに関しても話すべきか。私は汚れへの忌避と言うユニークスキルを持っていてね。そのスキルは無傷時の回復力をアップさせるんだけど傷を負ったり、服でも血で汚れると回復力が低下してしまうの。重要な欠陥なんだけど言い出しにくくてね」
意を決して祝詞は蒼色みたいにも見える黒い前髪を手で弄びながらパーティメンバーにだけ聞こえる小声で言った。
『とんだ欠陥スキルですね。と言うか巫女って面倒ですね。穢れなき事を強要されるなんて……あ、わたしは穢れてませんから徒人』
トワさんが変な所で言い訳するので徒人は極力考えないようにして言葉を紡ぐ。
「だから蘇生の時に血を避けたのか」
「うん。すまない。どうしても言い出せなくて……何とかしようと思っている内にこんな事に」
珍しく祝詞が困惑した表情でモジモジしている。ちょっと珍しくて可愛いかもしれない。かもだが──
「一応、回復量なんだ。でもあんまりいい気分じゃないな。自分の血で阻害されて蘇生しなかったらやだな」
そこで彼方が口を挟んできた。蘇生には関係なさそうなスキルだが実際に自分の身に置き換えられると辛い。
「確かに嫌だな」
「自分の番だとちょっと困るな」
和樹と土門が呟く。祝詞はバツが悪そうにしていた。
『徒人、誰が可愛いんですか?』
徒人の心の中に凄く冷たいトーンでトワの声が響く。
『可愛げがあるって意味で可愛いって意味じゃないです』
徒人の頬を凄く冷たい汗が流れていった。ファウストと対峙した時よりも怖い。
「成主悟参上! 敵はどこだ!」
場違いな声とその右手に短刀を持ち、狼の毛皮をそのまま被ったような服装をしている成主が広場に現れ騒ぎ出す。
「あっち」
祝詞はあらぬ方向を指差した。そもそも転移で消えたのでどっちに逃げたというのはない。
「ご協力ありがとう!」
成主はフリスビーを投げられた犬のようにその方向へと消えて行った。
『徒人? この世で一番可愛げがあるのは誰ですか?』
『トワさんです』
徒人は心の底からそう言った事を自分で祈った。




