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第42話 勇者の特殊能力

 飛んできた彼方の頭部を和樹がしっかりと受け止めた。その表情は目が見開き驚愕の表情で固まっている。胴体の方は石畳の上に長船兼光を握りしめたまま仰向けに倒れていた。そんな彼女の姿を見て怒りを覚える自分に徒人は身勝手な奴だと思う。


「まさか本当に切り札まで使う羽目になるとはな」


 仮面の男は左の小剣に付いた血液を振り落としながら忌々しそうに吐き捨てる。


「捨てるなよ。後で蘇生させるから。それと何とか自分の身を守ってくれ」


 徒人は前に出て仮面の男と相対する。和樹を庇いながら戦えるような相手ではない。


「長くは持たないから早めに頼む」


「ああ。長引かせない」


 和樹に答えると同時に徒人は石畳を蹴って仮面の男に襲い掛かった。だが双剣持ちと対峙が初で勝手が分からず、逆に押し返される羽目になってしまう。だが敢えてそのままの展開で押されてるふりをする。先程に意趣返しだ。

 蛇のような動きから繰り出される双剣の剣撃は確かに手数が多くて厄介だがその一撃一撃は軽い。剣技も左右の小剣を重ねるように使ってでこちらの攻撃を受けるなど未熟な部分が目立つ。なのにいまいち攻め切れないのは何故だろうか。これが彼方を焦らせた原因だと徒人は確信する。

 剣技では彼方には遥かに劣る。問題は彼女を殺した時に奇妙な能力と言うかスキル。早期決着には危険を覚悟であれを誘ってカウンターを入れるしかない。


「獅子連光斬!」


 徒人は左右の斬撃と上からの斬り下ろしの連携技を敢えて使う。仮面の男が微かに笑ったような声を漏らす。右の斬撃、左の斬撃を放つが手応えはない。そして余力を残した上からの斬り下ろしを放つ。その剣撃は虚しく空を泳ぎ、石畳に突き刺さる。

 ヤマカンで後ろに現れると思った徒人は突き刺さった魔剣を中心に素早く半回転し後ろを向く。思った通りに引っ掛かって仮面の男は後ろに現れていた。或いは自信の現れか。そして彼方の時と同じく左の小剣が迫る。

 魔剣を捨てて徒人は間合いを更に詰めて漆黒のガントレットで小剣を弾き、仮面の男の鼻らしき部分に頭突きを食らわせる。本来なら痛いんだろうが今の徒人は怒りで痛覚を麻痺させている為に感じない。


「頭突きだと」


 仮面の男は驚愕の声を漏らし、両手で顔を抑えて後ろによろめく。仮面は顔を隠す為だけの物だったのか、ヒビが入って割れ目から素顔が見える。恐らく日本人と見て間違いない。

 その隙に徒人が右手で魔剣を石畳から引き抜き、下から天に斬り上げるような斬撃を放つ。仮面の男の左大腿部を斬り裂き、動脈を割く。途中で魔剣を止めて切っ先で喉を抉るように突く。

 だが仮面の男の二の腕を浅く抉っただけに留まる。

 仮面の男は動きを変えてまるでダンサーのような体捌きで徒人から離れる。徒人はその間に彼方の胴体がある位置まで移動して仮面と再び相対した。


「誰か知らないけど、そこまでにしてもらおうかしら」


 決して大声ではないが怒りのこもった祝詞の言葉が広場に響く。彼女が広場の東側から土門と衛兵を連れて助けに来た。和樹が居た入り口にも衛兵たちが駆けつけ、彼を守るように立つ。


「ご主人様、申し訳ありません。遅れました」


 いつの間にか現れたのか、アニエスが彼方の胴体を守るように隣に立っていた。


「ここまでか。だが偽りの勇者よ。貴様だけはこの手で殺す!」


 左太ももから相当量の出血があるにも関わらず仮面の男は地獄の底から出しているような憎悪のこもった声を出す。


「勘違いするな。俺は勇者じゃない。それにこの手で殺すと言うのは俺の台詞だ」


 徒人の言葉が言い終わらない内に仮面の男は球体を地面に投げつける。同時に煙が発生し、奴の敵意と殺意が気配が消えた。同時に残ってきた他の襲撃者も同じようにして姿を消していた。


「転移宝玉の欠片ですか。随分とお金の掛かった襲撃者ですね」


 アニエスがため息を吐く。


「それより彼方だ。和樹! 首を!」


「おうよ!」


 和樹が駆け寄ってきて彼方の頭部を持ってくる。その服と手は彼方の血液にまみれていた。そして首とくっ付くように頭部を置く。ワンテンポ遅れて祝詞が彼方に駆け寄り、血に濡れないように屈んで蘇生魔法を唱え出す。

 彼方に蘇生しなかった神前早希の姿がダブる。


『大丈夫ですよ、徒人。彼女は蘇生しますから』


 心の中にトワの声が響いてきた。こんな状況なのに彼女の声が聞こえて安堵する自分に徒人は何とも遣る瀬ない気分になる。


『む。信じてませんね。彼女の腕とかに触れて下さい。胸とかお尻とかじゃないですよ! 怒りますからね!』


 大丈夫ですから。と心の中で言いながら左手で彼方の左手に触れる。


『発動せよ。魔王の(まなこ)!』


 トワが叫ぶと同時に彼方の情報が心の中に入ってくる。無理やり脳に情報を入れ込まれてるような凄く気持ち悪い状態で徒人は右手で頭を押さえる。


『ごめんなさい、徒人。ちょっとだけ我慢して下さい。あ、ここです』


 トワが何かを止めてその部分を示す。直接、頭に入ってきた部分に一行文字が書かれていた。『刀谷彼方、魂の残留と蘇生を希望。蘇生成功率は限りなく高い』と。


「ここに倒れ、迷えし魂よ、天が与えし定めですらも理の外に置く。清浄なる光の下僕たる白咲祝詞が命じる。彼の者に現世に帰還する力を与え給え! 《リザレクション!》」


 祝詞が唱えたリザレクションの発動と同時に彼方の体が光りに包まれた。光が消えると同時に彼方の首が元通りに繋がり、傷跡も消えて周囲を汚していた血が消える。同時に彼方の口から呼吸音が聞こえ始めた。

 蘇生が成功したのを確認してから徒人は彼方の手を離す。


「……はぁ、本当に死ぬのかと思った。ちゃんと首くっついてるよね? 手鏡ある?」


 長船兼光をその手からゆっくりと離しながら彼方を上半身を起こして首を撫でる。


「はい。鏡。とにかく蘇生して良かった」


 コンパクトミラーを渡しながら祝詞は石畳の上にへたり込んだ。張り詰めた緊張の糸が切れたのだろう。

 彼方は受け取ったコンパクトミラーで自分の首を見たり触ったりして確認して安堵のため息を漏らしていた。


『ほら、蘇生しましたよ』


『トワさん、一応魔王なんですから人間の蘇生当てて喜んじゃ駄目ですよ』


『徒人までアニエスみたいな事を言う。拗ねてやるんだから、拗ねてやるんだから』


 こういう時だけ拗ねる姿のトワが徒人の脳裏に浮かぶ。どうやらトワさんが強制的に見せてるような気が徒人にはしてきた。と言うかそうにしか思えない。


『俺が悪かったですから謝ります。それよりどこから見てました?』


『あの剣士の子が死んだ辺りからです。それにあの仮面が使ったのは恐らく勇者のユニークスキルじゃないでしょうか』


 そのトワの一言に徒人は凍り付いた。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は23になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は20になりました。[報復者(アベンジャー)]の称号を獲得。[報復者(アベンジャー)]の称号の効果で[痛覚遮断]を習得しました】


[報復者(アベンジャー)] 報復者に授けられる称号。


[痛覚遮断] 痛覚を鈍らせて痛みによる行動阻害を防ぐ。ただし、痛みを全く感じない訳ではない。あくまで行動阻害にならないようにするだけ。

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