第41話 双剣の襲撃者
昼下がりの広場で残っていた市民たちが異様な雰囲気を感じ取って慌ててこの場から逃げ出す。連中は普通の服装ではあったが全員奇妙な仮面を被っていた。そして1人だけ他のと違う奴が居た。腰にぶら下げた獲物が二振り、いや西洋式の剣だったので二刀流ではなく双剣使い。1人だけ黄色人種いや日本人と思しき男。
徒人は買ったばかりの魔剣を鞘から引き抜く。
「熱烈ご歓迎か。ちっとも嬉しくない」
「当方たちと同類か。あいつは任せてよ。雑魚相手に暴れるよりは楽しそう」
長船兼光を抜き放ちながら彼方は一歩前へと踏み出す。狙いは双剣の男。
猫まっしぐらならず彼方まっしぐら。作戦通りにやる気がないのが頭の痛いところだ。
「氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」
徒人と彼方の背に隠れていた和樹が吹雪の魔法を使うと安全地帯を除いた広場の殆どで吹雪が降り注いで仮面部隊の足を凍り付かせる。それで居て公共物への損害を最小限に食い止めていた。それを合図に彼方が敵に向かって突っ込んでいく。己と仮面の男の前に立っていた仮面たち5人を通り過ぎる間に斬って捨てた。
徒人はその背に和樹を庇いながら襲い掛かって来る仮面たちを迎え撃とうとした瞬間に弓を持った奴らを発見する。
「鬱陶しい!」
徒人はウインドコクーンで生み出した風でそれを妨害しようとするが向かってきていた奴らが壁になって威力が弱まってしまう。
「こいつら恐怖心がないのか」
本来、誰かを庇って戦うのに慣れていない徒人はこういう状況に対処が甘いのに苛立つ。
「氷の精霊たちよ。今、お前たちの魔手をこの場に現出させよ。《アイシクル・プリズン!》」
その間に和樹が弓兵を氷の棺に包み込んで潰してくれた。
向かってきた仮面の剣撃を右に避ける事で避け、徒人は魔剣でその胴を薙ぐ。だが仮面はそれでも動いて和樹に襲い掛かろうとする。
徒人は一瞬で体勢を整えて仮面の首を刎ね落とす。
一瞬、ネクロリカバーを疑うが身体能力が上がらなかった事からそれだけが救いだと徒人は思う。
「こいつらゾンビかよ」
「痛みと恐怖を魔法か薬で麻痺させるなり消してるんだろう」
悲鳴のような声を上げる和樹に答えながら徒人は迫ってくる仮面2体を迎え討つ。
「双牙!」
稲を刈り取るような足を狙う斬撃で2体を転倒させて動きが止まった瞬間に首を狙って脊髄を斬った。
彼方は取り巻きの雑魚を斬って捨て、双剣の男と交戦を開始している。双剣を手足のように動かしている仮面の男を長船兼光の一刀だけで捌きながら押している。徒人はその姿に見惚れそうになって視線を目の前の敵に戻す。
「氷の精霊たちよ。今、お前たちの魔手をこの場に現出させよ。《アイシクル・プリズン!》」
和樹の氷魔法が左から襲い掛かってきた連中を氷の棺に埋葬し、棺はそのまま遮蔽物となって仮面たちの動きの邪魔をした。
徒人は和樹から離れずに襲ってくる仮面3体を首を刎ね、剣の腹で頭蓋骨を砕き、上から振り下ろした一撃で頭部を真っ二つにする。
「氷の精霊たちよ。雨の精霊と手を取り我が敵の罪を裁き給え。《アイシクル・レイン!》」
虚空に氷で作られた円錐形の杭が無数に出現する。それらは雨のように仮面たちに襲い掛かり、その殆どを串刺しにして石畳の上に縫い止めた。だが連中はそれでも生きており、杭からに抜け出そうとしている。
「あれ、人間だよな? Gじゃないよな?」
「俺に聞くな。魔術師であるお前の担当分野だろう。ホムンクルスとかそういうのじゃないのか」
徒人は襲い来る仮面たちを捌きながら叫ぶ。
「錬金術師で習得した魔術とスキルはそういうのじゃないから分からないんだよ。《アイシクル!》」
和樹は氷の魔法で石畳に標本の蝶のように縫い止められている仮面たちの頭部を氷漬けにして息の根を止めた。
徒人も負けじとアイシクル・レインで体を貫かれた仮面たちに止めを刺す。常に和樹を守りながら戦う為に精神的な疲労が大きい。それにまだ伏兵が潜んでいるかもしれないので彼方を助けに行けない。
「下手くそだね」
彼方は左右から繰り出される双剣を長船兼光で凌ぎながら逆に仮面の男に対して斬り込んで行く。手数は向こうが圧倒的に上だがそれらを全て受け流しつつ、かつ、相手を追い込んでいく。見る見るうちに仮面の男の袖や裾を斬り裂いていく。
「言うだけあって圧倒的に有利じゃないか」
和樹は周囲を警戒しながら賞賛の言葉を述べる。
「本当にそうなのか」
彼方が攻め切れていない事に徒人が疑問の言葉を口にする。胸がモヤモヤとする。相手の思う展開に試合を運ばれているような気持ち悪さを覚えた。
「どういう事だよ。彼方が圧倒してるじゃないか」
「いつもの彼方ならとっくに殺してる。だから煽って隙を作ろうとしてるんじゃないのか」
「そう言われたら……彼女らしくない」
徒人の言葉に和樹も気付いたらしくこの場に漂う空気の異様さを感じ取ったようだ。
「仕掛けないならこっちから行くよ」
「止せ! 焦って仕掛けるな!」
徒人の叫びは待ち合わなかった。
「飛燕三連星!」
彼方が仕掛けた左上からの袈裟斬り、右下からの斬り上げ、右上からの振り下ろしの三連撃が入った筈だった。だが仮面の男は残像だけを残して消える。
「後ろだ!」
徒人の叫ぶのとほぼ同時に仮面の男が現れた。彼方は振り返ろうとした瞬間、左の小剣が彼女の喉を捉える。そして一瞬遅れて頸動脈から血が噴水のように噴き出し、首が宙に舞った。




