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第40話 新たなる敵

 謹慎が解けたその日、徒人は和樹や彼方と街外れの武器屋を訪れていた。徒人は刀身が黒光りする魔剣を購入。彼方は長船兼光らしき刀を見つけて店主と交渉の末にようやく有り金を全て出してそれを購入していた。

 満足気に家路に着く彼方を見ているとどうしてもツッコミを入れたくなる。


「彼方、有り金全部出して生活費あるのか? それにそれ本物じゃなかったら最悪だぞ」


「神蛇さん、ちゃんと確認してるから」


 彼方は長船兼光を少しだけ鞘から抜いてみせる。特に波を打っているようには見えない。


「業物は見た事あるからこれはちゃんと本物だよ。それより全部使ってしまったから食費の方が困る」


 長船兼光を鞘に戻して彼方はため息を吐いた。そして徒人たちを見つめる。


「出さないからな」


「右に同じく」


 徒人の言葉に和樹が続く。


「うぉ。冷たいな。じゃあ、仕方ないな。白咲さん怒ってたけど神蛇さんのフォローしてやらないから」


「なんだよそれ。俺は何もしてないからな」


 薄々気付いていたが黒鷺城から朝帰りした日から祝詞の反応が冷たい。朝帰りには気付いていないと徒人は思っていた。だがアニエスに匂いでバレると指摘されて朝風呂に入ったのにも関わらず今に至る。しかも止せばいいのに返答してしまうなど何かあったと言っているようなものだ。

 クソ! あちらを立てればこちらが立たずとは──なんなんだよ。二人共かなり面倒臭い。


「おお、神蛇さんよ。この刀谷彼方が相談にのるよ」


「泥船みたいな相談役には乗れん」


 徒人は自分の顔が露骨に歪むのを感じた。


「神蛇さん、酷いな。パーティに亀裂があったら困るじゃないか。当方はそれを心配して言ってるんだよ」


 彼方は輝くような笑みを浮かべている。


「安心してくれ。そんな事には支障を来たさない。と言うか来たしたら最悪だろう」


「白咲さん、案外根に持ちそうだよね」


「確かにあの人はそういう所がありそうだな」


 2人揃って否定してくる。お前ら人を非難するときだけ息が合うのは何なんだ? 文句を言ってやろうかと思ったが気配と殺気を察して徒人はそのまま歩きながら声量だけは小さく抑える。最低でも屋根の上に1人、路地裏に1人、後ろから1人。


「お客さんみたいだな。余程、貴族に疎まれたのかね」


「5人は居るかな。長船兼光の試し斬りには丁度いいか」


 徒人が盗賊系のスキルを持っているのに関わらず、彼方の方が指摘した人数は多い。これは彼方が持っていた天性のカンだろうか。幾ら異世界のスキルで補おうとも人が元から持っている才覚の差は仕方ない事なのかと思った。


「俺、剣術はからっきしだから護衛頼むよ」


「魔骨宮殿からの逃走時と言い、嬉しくない護衛だな。たまには女の子を守りたいよ」


「じゃあ、当方を守らせてあげようか?」


 いつでも腰の獲物を抜けるような状態で彼方が皮肉を言う。いや本気か。


「彼方氏は剣術なら俺より上だろう。守られるよりも敵を減らしてくれ」


「うわぁ、女扱いされてない。悲しいな」


 口調とは裏腹に彼方は悲観した様子はない。むしろ、1人の剣士として扱われたい彼方にはそっちの方が都合がいいのか、楽しそうな様子すらある。


「じゃあ、人気の居ない所で迎え討ちますか」


 和樹が歩きながら提案する。この坂道を抜けたら人気がない広場に出る。ここを抜けたら転移陣のある建物なので妥当な考えだ。帝國の市民を巻き込んだらこっちにどんなとばっちりが来るか分かったものではない。


「多分向こうも待ち構えてると思うよ。飛び道具とか居なければいいけど」


 徒人は彼方の長船兼光にウインドコクーンの魔法を唱えて風の魔力を宿らせる。そして、自分の黒い魔剣にもウインドコクーンを掛けておく。


「弓矢は防ぐにはちょっとあれだな。俺が対応する気だけど氷で上手く壁を作れなかったらスマン」


 和樹は錬金術師で覚えた錬金魔法で鳥を2羽作り出してその姿を消す。恐らく偵察と連絡に使う為だろう。

 そして、その2羽は空へと舞い上がり、一匹は上空に、もう一匹は家の方へ向かって行った。家の方はアニエスが居るから祝詞と土門で切り抜けられるから問題はこっちだ。敵を倒す事に夢中になる彼方をフォローしつつ、接近戦が出来ない和樹を守らなければならないのはハードルが高い。しかも、街中なので必殺技を使う訳にもいかない。


「分かった。でもあんまり離れたら今度は和樹が的か。で俺しか回復できないし、嫌な時に遭遇したな」


「切り抜けるしかないよ」


「それは分かってるけど突っ込むなよ。俺は祝詞みたいに離れた位置から回復できないからな」


 徒人は彼方に釘を刺す。


「了解。生き残る事を最優先で考えるよ。折角手に入れたこの子を未亡人にする訳にはいかないから」


 彼方は長船兼光の柄に触れながらウットリと呟く。


「敵は誰だと思う? 貴族の手下か? メインランキングに入ってる連中か? それとも元老院か──」


「残るは十字架教の連中か」


 和樹の問いに徒人は補足を加える。口にこそしなかったがもう二つの可能性はユリウスの手の者と内部の人間による裏切り。いずれにせよ、まずはここを無事に切り抜けないと話にならない。

 徒人たちを閑散とした広場へと足を踏み入れる。それと同時に人影が一斉に姿を現した。

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