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第33話 シ闘

 3日後の深夜、段取りはアニエスが整えてくれたので街外れにある貴族の屋敷を訪問して戻ってくる色街を待ち伏せて殺すのだけが徒人の役目となった。目撃者を出さずに殺せば後の処理は任せていいらしい。問題は暗殺要員が徒人しか居ない事だ。アニエスは防音結界の維持と人払いで現場を手伝えない。

 こんな事は仲間には頼めないので自分でやるしかない。街への一本道で茂みの中に隠れて色街が戻ってくるのを待つ。

 そしてターゲットは現れた。徒人は逃げられない間合いに入ったのを見計らって飛び出す。走りながらロングソードを抜き放ち、自分の間合いに入った色街の首を掻っ捌いた。

 だが後ろから気配がして徒人は慌ててその場から離れて色街の方へと向き直る。


「手応えはあった筈だがどうして生きてる。幻術か囮を使う魔術の類か」


 徒人の瞳には首の動脈を切断した筈の色街が先程まで居た位置に蹴りを見舞っていた。


「はっ! あたしを殺ろうなんて童貞がナマこいてんじゃねぇぞ」


 徒人はロングソードを構え直しながら色街を正面に見据える。一撃で仕留め損なったのは失敗だが逃げられなかっただけ良しとしよう。次の一撃で殺せばいいのだから。


「俺が言えた事じゃないけどやっぱりお前は生かしておかない方がいいな」


「女、斬れるのか? 童貞!」


「悪いな。俺は酷い奴なんだ。特にお前みたいな娼婦にはな」


 色街の煽りに徒人はトラッシュトークで切り返す。


「クソ童貞、殺す!」


 逃走される事に比べればこの程度の罵倒は徒人には心地良くすら聞こえる。思わず口を笑みの形になる。


「死ねぇ!」


 色街が仕掛けてきた。修道僧(モンク)であろうと所詮は後衛職。前衛職である自分には及ばない筈と殴りかかってくる相手を徒人は迎え撃つ。まずは腕。

 伸びてきた色街の右ストレートを徒人は下からすくい上げるようなロングソードの斬撃で斬り飛ばそうとする。だが金属製の爪で弾かれ、動きが止まった所に左足の回し蹴りが飛んできた。

 それを徒人は横からの斬撃で迎え撃つがまたもや金属音で遮られ、同時に左腕に衝撃がきたので間合いを離す。

 よく見れば色街のブーツからナイフが生えていた。魔骨宮殿で拾ったガントレットがなければ徒人は左腕に深手を負っていただろう。


「そう言えば、修道僧(モンク)は金属製の装備がある程度は可能だったか。それに暗器使い……性格が悪い訳だな」


「剣道三倍段。立派なもん持ってる割にはだらしないわね。このフニャチン野郎」


「安心しろ。お前と寝るのは地獄の鬼だ。たっぷり可愛がってもらうといい」


 煽り返しながら徒人はジリジリと間合いを詰める。


「人間斬るのは初めてか? 下手だぞぉ」


「すまないな。人を斬るのは初めてなんだ。お前で筆下ろしさせてくれよ」


 色街の表情が醜く歪む。その隙を狙って今度は徒人から仕掛ける。大人しくさせるには根本から斬り落とすしかない。まずは左腕。走りながら通り抜ける瞬間に右から左へと体重を込めた一撃を加える。腕を圧し折るつもりで放ったのだが色街はその一撃を後ろに飛ぶ事で受け流してバック転で距離を取る。

 勿論、逃がすつもりはない。徒人は右下から左上へとロングソードを振り上げた。血液と共に色街の肘から先の左腕が斬り落とされて宙を舞う。

 だが同時に色街の右足が徒人の顎を狙う。それを徒人は大げさに回避した。


「一応……避けさせてもらった。お前なら毒でも仕込んでそうだからな」


 そう言って徒人は血の塊を吐き出した。先程の一撃は辺りもしなかったが避けたのにも関わらず口の中に血の味が広がる。どうやら舐めてかかれるような相手ではないようだと認識を強くする。

 色街は忌々しそうに舌打ちする。恐らく今の蹴りで決めるつもりだったのだろう。当たっていたら気絶させられて勝負は決まっていたかもしれない。回復させる暇は与えない。足を斬り落として動きを止める。

 徒人が走った。色街は怒りの表情で迎え撃つ。


「双牙!」


 徒人が放った左右の二連撃が色街の左腕と右足を捉えた。左腕はガントレットに当たったが骨を砕いた手応え、右足のふくらはぎを斬り裂く。色街はそのまま石畳の上に崩れ落ちる。その姿がまるで蜘蛛の巣に引っ掛かった蛾のように見えた。


「これで終わりだな。お前が死ぬ前に聞いておく。何故、あんな事をした。裏に誰が居る?」


 徒人はそれだけ聞いた。色街が時間稼ぎを謀るようなら聞けなくても殺すしかない。


「あの件、べ、別に神前を殺そうとした訳じゃないわよ。あたしたちがランキングを駆け上がる為に、ただちょっとしばらくの間、活動を停止してくれたら良かっただけ。こんな大事になると思わなかったの」


 色街は折れた左腕で右腕を抑え、石畳を血に染めながら言い訳をする。


「お前の後ろには誰が居る? 答えろ!」


 その態度に徒人は怒りを募らせる。


「……だ、誰も居ないわよ。お、お願いよ、やらせてあげるから殺さないで」


 徒人は黙って色街に近寄る。精神的EDのお陰で何も感じない。この時だけはサキュバスに感謝した。EDでなければ罠に引っかかって逆転されていたかもしれない。


「ち、ちょっと、なんか言いなさいよ」


 返事の代わりに徒人は無言でロングソードの切っ先を色街の左胸に押し込んだ。そしてロングソードを捻ってトドメを刺した。


 絶命したのを確認してからロングソードを引き抜き、一振りして剣の血を落としてから鞘へと収める。

 この場から離れる為に徒人が色街の死体に背を向けた瞬間、異様な殺気を感じてロングソードを引き抜きながら下がる。

 徒人が振り向くと同時にロングソードの腹に蹴りが突き刺さった。勿論、その一撃を放ったのは先程殺した筈の色街だ。そして左腕は再生し、敗れた服の合間から覗く胸の傷も塞がっている。


「確実に心臓を潰した筈なのに」


 徒人は舌打ちする。考えられるのは最初の予め掛けていた身代わりの魔法と今のは蘇生魔法を掛けていたのだろうか。


「あたしは不死身なんだよ。お前が死ぬんだよ」


 先程までとは比べ物にならない力で蹴りを押し込んでくる。本当の罠は殺した時に発動するこの魔法だったのか。


「いいえ。死ぬのは貴女よ」


 どこから入ってきたのか分からないが祝詞の声と同時に矢が色街の右胸を貫いていた。その瞬間、蹴りが弱まったのを確認して徒人はそのままロングソードを鞘から抜き放つと同時に色街の右足を斬り飛ばした。その勢いを利用して彼女の喉にロングソードを突き刺す。


「徒人、それはネクロリカバーと言う死んでも強化されて蘇る魔法の効果よ。そのまま抑え込んでて」


 祝詞の言葉通り押さえ込もうとするが喉から血を噴き出しながら動く色街はその両手でロングソードを引き抜こうとする。その姿は人間ではなくゾンビその物だ。

 足音と共に駆け寄ってきた祝詞が薙刀を色街の胸の中央に、心臓に突き刺す。そして叫んだ。


「《アンチマジック!》」


 それと同時に色街は青い光に包まれ、唇をモゴモゴと動かした。徒人には死にたくないと言ってるように見えた。その瞳から光が消える。

 そしてようやく色街は石畳の上に崩れ落ちる。


「これで死んだんだよな? 祝詞はどうしてここに居るんだ?」


 徒人は色街の屍に警戒しつつ、祝詞に問う。


「ネクロリカバーを解除したから二度と蘇ってこないよ。何故ここに居るのかと言うと徒人とアニエスさんの様子を観察してたから」


 返ってきた答えは笑えないものだった。付けられていたのに気が付かなかったし、結界の件でアニエスがしくじった事を示しているからだ。徒人は色街に突き刺さったままのロングソードを見た。


「フッフフフ、いいな。仮面を被ってる男の本性ってゾクゾクする。あ、殺さないでよ。これで(わたくし)たちは共犯なんだからね」


 祝詞は徒人の考えを読み取って居たかのように釘を刺す。どうなるかは分からないがここで彼女を殺すのは悪手に思えた。仲間を手に掛けなくてもいいのならそれに越した事はない。


「ご主人様! どちらですか!」


 遠くから声が聞こえてくる。呼びかけてくるアニエス以外に複数の人間の声がした。どうやらプラン変更があったようだ。先に言えよとも思わなくもないが。

 すぐにアニエスと兵士たちがこちらに向かってくるのが見えた。


「ここは(わたくし)に任せてくれないかな。乗り切ってみせるから」


 祝詞は薄い胸を張って答える。徒人は逃げるべきだったかもしれないと少し後悔した。



【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は20になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は16になりました。[同族殺し]の称号を獲得。[同族殺し]の称号の効果で[殺害耐性]を習得しました】


[同族殺し] 同族を殺した者に授けられる称号。


[殺害耐性] 同族である存在を殺しても取り乱さないし、トラウマにもならない。

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