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第32話 謀殺のススメ

 2日後、朝から早希の葬儀に出席してユリウスの長たらしいアジテーションかと聞き違える弔辞を聞かされ徒人はうんざりしていた。人の死すら、いや勇者の死だからこそ政治に利用するのであろうが──彼女の遺体が納められた棺は墓地へと運ばれて今埋葬の最中であった。

 ユリウスの言葉を借りるなら蟹座の勇者・神前早希の埋葬と言う事になる。

 泣いている者の大半が女性陣だったがその中で祝詞と彼方はそんな彼女たちを冷ややかな目で見つめ、土門は目を腫らしていた熊越を宥めるように側に着いている。和樹はアニエスと行動を共にしており、レオニクスは姿が見えなかった。

 徒人は参列者から少し離れてた木の下で彼らをチェックしている。色街の姿もあったがどこか落ち着きがないように見えた。そして彼女はすぐに去って行った。


「徒人君、少し良いかな?」


 祝詞はいつもの巫女装束だが少しやつれたように見えた。


「構わないけど大丈夫か?」


「ええ。体の方は大丈夫。それより神前が蘇生しない理由を(わたくし)なりに考えてみたの」


「聞かせてくれ」


 モヤモヤした気持ちを抱えていても仕方ないので徒人は祝詞の話を聞いてみようと思った。稀人(まれびと)が勇者の件を話すのは好ましく思われないので辺りを警戒して誰かが聞いていないかを確認する。どうやら誰も聞いてないようだ。


「本人の意志で蘇生したくない理由とは……色々と考えてみたんだけどやっぱり勇者としての負担とパーティ内の負担が重なってこっちの世界に嫌気が挿したんじゃないかなと推測できるんだけどどう思う」


「勇者が負担になっていると言うのは分かります。プロパガンダに使われてしまう以上、そういう面でも駆りだされてしまいますしね。身体的にも精神的にも摩耗するのは必然になるのかと」


 徒人は勇者の件について知っている事はわざと伏せた。詰め所の時に盗み聞きしていたのが祝詞なら何らかの反応があるかもしれない。


「例えば、魔王を倒した後の勇者が用済みとか?」


 祝詞は直球を投げてきた。


「知ってたのか」


「そりゃねぇ、勇者が最後どうなったかを気になって調べはするよ。この間、詰め所で貴方たちが居た部屋を覗いたのも(わたくし)だし」


 そして祝詞はあっさりと認めてしまった。

 こっちにやってくる和樹とアニエス。


「白咲、お偉いさんが呼んでるぞ」


「取り敢えず、リーダーとして雑務を来なしてくるよ。飛んだ異世界だね」


 祝詞は和樹に案内されて行ってしまった。代わりにアニエスが徒人の隣に立つ。


「それでご主人様はどうするつもりなんですか? 思いつめた顔をしてたら分かりますから嘘つかないで下さいね」


 アニエスは徒人の考えを見抜いていたかのように囁く。


「俺は西の魔王軍の暴走と言うか、攻撃は色街が関わってると思ってる。だから奴を締めあげて吐かせる」


「自分が情報を集めて総合的に判断したところ、管楽器風のアイテムを使って音で西の魔王軍所属の魔物を操ったのでしょう」


「ホルンのような管楽器なら持ってる奴を見た。もしかしてそれか」


 徒人の問いにアニエスは正面を見据えたままで何も言わない。


「答えても構いませんがそれを聞いてどうするんですか? 敵討ちなんて言い出すんじゃないでしょうね?」


「冗談でも言い出したらやっぱり駄目か」


 徒人の予想通りの言葉が返ってきた。


「それでは0点です。自分を納得させて下さい。貴方は何をしにここに来たかよく考えて下さい」


 徒人はトワの頼みを引き受けてスパイ行為に勇者の謀殺を引き受けたのだから人情に流されてる場合ではないのだからアニエスの言葉は正しい。


「取り敢えず、聞かせてくれるか。答え合わせがしたい」


 アニエスはため息を吐いて喋り出した。


「我ながら甘い裁定な気もしますが……まあいいでしょう。ご主人様にお話します。この2日間で観測員たちや守備兵たちから集めた情報を総合的に判断して今回の西の魔王軍の雑兵による暴走は人間である色街楓(いろまちかえで)の仕業で間違いないでしょう。動機は分かりませんが──」


「根拠は、と言うか証拠はホルンで間違いないのか? それを執政官に突き出して奴は処罰を受けるか?」


 徒人の問いにアニエスは感情を押し殺すように無表情になってから言葉を紡ぎだす。


「恐らく無理でしょう。今回の件は権力闘争も絡んでいますから横槍が入って無罪放免に近い状況でしょうね。色街を殺した後で自分の正当性を証明するくらいになら使えるでしょうが……」


「権力闘争って勇者の取り合いか」


「違いますね。執政官ユリウス、前皇帝の妹であるノクス、そして、元老院に貴族。そういうのによる足の引っ張り合いです」


 アニエスは頭を振りながら答える。


「魔王軍が壊滅しないのも訳があるのね」


「そうですね。では話を本題に戻しましょう。ご主人様はどうするおつもりですか」


 徒人は一呼吸置いて自分の考えを話しだした。


「最善ではないんだろうが色街を謀殺する。あいつは危険だ。こっちが嵌められる前に消す」


「赤点ギリギリですけど仕方ないですね。やると決めたら早速開始しましょう。既に話は着けていますし」


 アニエスは無表情を消して苦笑いしていた。


「アニエス、お前、やる気だったのかよ」


「次に狙われるのはご主人様たちでしょうからね。自分はご主人様のパーティのファンなんですよ。潰されたら面白くないじゃないですか」


 これから暗殺の算段なのにアニエスは笑っている。凄くいい笑顔で。

 徒人は拳を握りしめて自分の決意を確かめていた。

蟹座は不遇扱いなんでしょうか

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