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第31話 落命

 ファウストの視界から逃げ切った後、徒人は一目散に走りだした。予想以上に早希が重たい。これが絶望の重みなのだろうか。いや死んでもらった方が目的は達成できるんだから喜ぶべきではないのかと思わなくもないが──

 自己矛盾を抱えたまま徒人はひたすらに走る。肩に早希の血が溜まっていく。このままでは持たない。ここは一度降ろして回復魔法を掛けるしかないと考えた。


「清浄なる光の下僕たる神蛇徒人が命じる。傷付き倒れたこの者に安寧たる光の祝福を!《ヒール!》」


 地面に早希を寝かせて徒人は回復魔法を唱えるが元々の回復力が弱いのと傷が深すぎて出血を止めるくらいしか出来ない。


「あ、巫女さんパーティの剣士さんか。私、もう駄目みたい。さ、むいな、ギュッて抱きしめてくれるかな」


 意識を回復した早希が最後の希望を口にする。徒人は黙ってその体を抱きしめる。血が足りてないのが酷く冷たい。


「あ、たたかいや、あ、り、がと」


 神前は安堵の表情を浮かべて昼寝をするかのように瞼を閉じた。それと同時に早希の全身から力が抜けた。それを示すかのように手がだらしなくぶら下がっている。生物としての反応はない。それが神前早希の命が消えた瞬間だった。


「オイ! 起きろ! 起きるんだ!」


 徒人にも何故叫んで呼びかけたのかは分からない。殺そうとしていた少女に対してだ。


「こっちだ!」


「徒人、大丈夫?」


 レオニクスが呼んできてくれたのか、祝詞たちと腕を吊った熊越が森の向こう側から現れた。


「俺は大丈夫だ。それよりこいつを見てやってくれ。蘇生できるか?」


 祝詞がチラッと徒人を見るがちょっと嫌そうな空気が混じっていた。他のメンバーは周囲の警戒にあたっている。こういう時に一番に名乗りでるだろうアニエスはずっと黙っていた。蘇生は彼女の分野ではないからだろうか。


「お願いします。今のあたしじゃ蘇生魔法が使えないから」


 熊超が懇願する。魔力が尽きて使えないのか単に覚えてないのか──徒人には判別がつかない。

 祝詞は覚悟を決めたように息を吐く。


「徒人、離れて」


「分かった」


 ここは任せた方がいいと判断して徒人は早希から離れた。入れ替わりに祝詞が草むらに膝を付いて詠唱し始める。


「ここに倒れ、迷えし魂よ、天が与えし定めですらも理の外に置く。清浄なる光の下僕たる白咲祝詞が命じる。彼の者に現世に帰還する力を与え給え! 《リザレクション!》」


 祝詞の魔法の発動に応え、光が早希を包むがしばらくしてそれは消えた。


「呪文を間違えたけ?」


「いえ。合ってます。完璧です」


 祝詞が熊越に聞く。だが求めていた答えは帰ってこない。


「ここに倒れ、迷えし魂よ、天が与えし定めですらも理の外に置く。清浄なる光の下僕たる白咲祝詞が命じる。彼の者に現世に帰還する力を与え給え! 《リザレクション!》」


 またもや同じ結果になっただけで早希は目を開けない。


「ここに倒れ、迷えし魂よ、天が与えし定めですらも理の外に置く。清浄なる光の下僕たる白咲祝詞が命じる。彼の者に現世に帰還する力を与え給え! 《リザレクション!》」


 三度、蘇生魔法を唱えるが早希は目覚めない。


「お願いします。もう一度、リザレクションを」


 熊越が泣きながら頭を下げるが座り込んだ祝詞は額から滝のような汗を流し、肩で息をしている。門外漢の徒人にも今の彼女にはリザレクションは唱えられるないだろう事は容易に理解できる。


「もう必要ないかと。その子はもう蘇生しません。それは蘇生魔法が失敗した訳ではありません。蘇生魔法が完璧だったのにも関わらず蘇生しないのは対象者が拒否してるからです」


 声のした方向を見ると尼僧のような格好の女性が兵士たちを引き連れている。年は三十前後、目元には泣き黒子が印象的な人だった。


「貴方は? 見た感じ回復魔法に造形が深そうだが──」


「お初にお目にかかります。稀人(まれびと)たちよ。あたしはアストル・ブランシュと申す者。執政官様の元で神官たちの指導をしています。あとはあたくし共が引き受けますので祝詞さんのパーティはお帰り下さい」


 アストルはそう言って部下に早希の遺体をタンカーのような物に載せて熊越を連れて行った。残りの部下たちは村の方へと向かって行く。

 座り込む祝詞に徒人は黙って右手を差し出す。


「左肩の傷を治すよ」


 座り込んだままの祝詞が申し出る。


「ありがとう。でもこれは俺の血じゃない。神前のだ」


 徒人は一言で答えた。


「そっか。無事なんだね。……帰ろう。帰って寝てしまおう。ここは嘆きの声に満ちてるからこれ以上ここにいるのは当てられしまう」


 祝詞の言うとおり、最初の合流地点辺りから風に混じってすすり泣くような声が聞こえてくる。彼方は戦闘らしい戦闘に出くわさなかったのが不満なのかムッとしていた。


「クソ! 最悪!」


「急にどうしたんだ」


 悪態をついた祝詞にびっくりして土門が声を掛ける。


「蘇生率アップのスキル習得だって……ふざけてる」


 祝詞の一言に全員が黙りこんでしまった。


 徒人は何とも言えない気持ちで火の粉が焦がす夜空を見上げた。どうするのが正解だったんだろうか。答えは出ないままだった。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は17になりました。魔剣士の職業熟練度(クラスレベル)は11になりました。[殺戮者(ジェノサイダー)]の称号を獲得。[殺戮者ジェノサイダー]の称号の効果で[安定姿勢]を習得しました】


[殺戮者ジェノサイダー] 一度に多数の魔物を倒した者に送る称号。すべての範囲攻撃時に威力が上がる。


[安定姿勢] 不意討ちなどで体勢を崩しにくくなる&相手の体勢を崩しやすくなる。

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