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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte9 パンドラの檻に残されしモノ
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第295話 愛も呪いとなる

 その日の夕方、夕闇が迫り、サラキアの住宅街から徐々に人気がなくなっていく。徒人たちは昔精霊を討伐した地下水道からサラキア内部に潜入して地上に出て今に至る。一応、隠蔽の魔法は使っているが街なんかなので効果が発揮し辛い。こうやって気を払って注意深く行動すると結界が張り巡らされている事が分かる。


 幸いにも先のマクシムス・スローンとの戦闘で結界が破れて警戒態勢に穴が空いていたのが幸いした。

 徒人たちはアストルの家の前にある街路樹に紛れて隠れている。

 厳戒態勢ではあるが市内の外までは兵力を割けないのかもしれない。ならまだ勝負は決まってない。逆転の目は充分にある筈だ。


「地下水道が外まで続いているとは思わなかったな」


「こっちに来た頃にはこんな風に逆に潜入する事になるとは思わなかったよ」


 和樹と彼方が好き勝手に言っている。よく考えれば水道が発達していたのだから街の外から取水していても別に不思議ではない。全般的に警戒が緩んでいたのはありがたいが飲水に細工されたら大丈夫なのだろうかとは思わなくもない。


「こんな形であいつの家に来る事になるとはな」


 アスタルテは黒鷺城で借りたロッドを手に街路樹の影に隠れて顔だけ出してアストルの屋敷を見ていた。徒人たちが住んでいた家よりも広いかもしれない。帝國執政官のお付きは高給取りのようだ。


『取り敢えず、彼女の自宅には何か居るらしいので気をつけて。貴方たちなら苦もなく倒せるでしょうが余計な手傷を負うのは避けた方が無難かと』


 魔鏡と呼ばれる丸い手鏡からイゾラの声が聞こえてきた。こんな便利な物があるなら先に渡してくれたらいいのにとも思わなくもないが貴重な物らしく潜入部隊優先だったようだ。

 アスタルテは魔鏡を見ないで同僚だった女の家を眺めている。


「そいつの姿を確認はしたんだろう? ならどういうのか分からないのか?」


「母と子供を、繋いだようなものです。余り具体的に言いたくないのは察しいただければ幸いかと。あと女性の方は下からの攻撃があるかもしれないので気をつけて」


 徒人はその返答に押し黙った。そういうグロいのが出てきても何も考えずに黙って魔剣を振るった方が精神的に楽そうだ。

 そして女性陣も苦い表情をしている。余り想像したくない相手なのは考えなくても分かる。


「子を失った母の考える事は1つか。復活の為に子供や女性を拐ったと考えるとここらへんの失踪事件の辻褄は合うな。……とんだ鬼子母神(きしぼじん)だな」


 盾石の皮肉をアスタルテは黙って聞いていた。


「そろそろ、突入しましょう。ここで井戸端会議する為に来た訳でもないのだから」


『証拠の回収をお願いします。それで上手くすればユリウスの優位を崩す事ができるかと』


「そんな簡単じゃない。部下が独断で犯した過ちだ。管理者としてすまないとか言い逃れられるだけさ。あの人の手腕は、嫌になるほど知ってる」


 イゾラの一言をアスタルテが一蹴する。簡単な話じゃないのは分かっていた。


「ただ、それだけでは弱くてもお兄様が使っているものに応用できるのならば必ず関わってる筈だ。でないとこの現状を放置する訳がない。あの人は良くも悪くもそういう所があるから……」


「じゃあ、行きましょうか。(わたくし)と盾石と彼方で玄関から、徒人君に和樹君に十塚さんにアスタルテで裏口から突入して」


 痺れを切らしたのか、祝詞が魔鏡を懐にしまいこんでそう告げる。言われたとおりに二手に分かれた徒人たちは先に道路に出て門の前まで進む。十塚がスキルを使ってトラップを探すが見付からなかったのか鉄製で格子状の門を手で押して開ける。ハンドシグナルで合図して彼女は裏口の方へと移動していく。

 徒人たちもそれを追って移動する。魔術師2人は偏り過ぎな気がするが祝詞はアスタルテを信じてないからこの配置なのかもしれない。後ろを見れば祝詞たちが玄関の方へと向かって行った。


「そう言えば、向こうは罠対策してるのか?」


「彼方が居れば察知するから問題ないだろう。素の状態の索敵や察知能力は小生を普通に上回っているから大丈夫だ。魔力を帯びているトラップならリーダーが見破るしな」


 その答えに徒人はそれ以上何も言わなかった。建物の隣を走っていくと角が見えてきた。そこを曲がると小さな階段とその上にドアが見える。そこが裏口なのだろうが何かが腑に落ちない。


「止まれ。そこじゃない。そっちは偽の裏口だ。あいつは冒険者時代の名残なのか変な仕掛けばっかり凝ってたんだ」


「分かってる。手前の下も偽物だし、奥側の下への階段が地下室へと続いてるからそこから入る」


「なんだ? ビックリハウスみたいな家は」


 最後尾を走る和樹が要らない事を言って2人に睨まれる。言いたくなる気持ちは分からなくもない。

「それにしても庭の雑草が多いな。怪しくないのか」


 徒人は庭で野放図に伸びている雑草を蹴る。


「あいつの性格からするとあり得ないな。あいつは綺麗好きで草で子供が怪我をするのを快く思わなかったから。家に寄ったりしていれば結果は代わっていたのだろうか」


 誰も慰めの言葉を掛けようとはしない。死体が増えてただけの可能性があるとは言え、無下に扱うのはよくない気がしたからだ。

 アスタルテの愚痴を後ろから聞かされつつ、徒人は奥の階段を降りて壁を確かめている十塚の方を見る。扉も何もない為にただの物置スペースにも誤認しそうになるがそうではないようだ。


 十塚が壁の一部を押すと同時に壁の一部がシャッターのように上へ上がっていく。アスタルテが魔法を使い、部屋の中に光の玉を幾つか生み出す。昼間と遜色ないどころか徒人たちの時代の蛍光灯と変わりないレベルの明るさだった。


「紐に気をつけろ。入ってすぐに罠がある。顔にハンマーが飛んでくる」


 徒人は目を凝らして糸を踏まないようにする。十塚が歩いた所だけを踏んで奥へと入っていく。倉庫のようだが得体の知れない道具だけが置いてあった。当然ながら徒人には使い道が分からない。培養液を入れそうなカプセルくらいだ。それからアストルの状況から考えるに生命に関しての実験用なのだと言う事は推察できる。


「これは錬金術だな。それもかなり高位の」


「生命を作る魔術か」


 アスタルテが何かを言い出そうとして前方からマネキンみたいな女と股間のあたりから蛇のように生えている子供の頭が見えた。子供の代わりを作り出そうとして失敗したのか酷い造形で妙に臭う。確かに気持ち悪いが弱いのは分かる。ホラー映画のヤラレキャラクターじゃないのでパッパと始末してしまおう。

 徒人は一歩前に出て魔剣を引き抜く。


「頼むよ。あと余り前に出ないでくれ。まだ罠がある」


 十塚の声に反応して悪趣味人形が襲いかかってくる。ただし、十塚に。徒人は彼女に近くに来た悪趣味人形に魔剣を振り下ろして一撃で子供の方の首を刎ね落とす。そしてそのまま魔剣の軌道を変えて女の方の胸を貫く。心なしか両手で子供を抱こうとしたようにも見えたが考えないでおこう。


 こいつらを直視すると精神にダメージを負う。人間の母子を模しているのは想像以上に嫌な気分にさせた。魔剣が血の代用品なのか白い液体で濡れている。乳製品が賞味期限切れを起こして腐った時よりも酷い臭いが漂う。


「弱っ。ビビって損した」


「そいつが弱いのではなくてお前たちが強すぎるんだ。普通の冒険者や駆け出しの稀人(まれびと)たちなら死んでる」


 アスタルテが複雑そうな表情をしていた。そりゃこのくらい苦もなく倒せないとサタンズ・ガーデンやプラント・オリジンまで辿り着けない。


「それよりここに証拠らしいのはありそうか?」


 叫び声を上げて襲いかかってくる悪趣味人形が徒人に向かってくる。魔剣を子供の顔みたいなのに突き刺しそのまま母親の方の顔面を突き刺す。戦闘力は大した事はないが死に際に見つめてくる瞳がおぞましい。この世全てを呪ってやると叫んでいる。


「取り敢えず、資料でもあれば。時間を稼いでくれ」


 和樹が近くの机にあった本を掴んで中身を読み始める。


「これが資料の一部らしいが……人体について書いてあるな。主に子宮と子供に関してだが」


 相当嫌そうな顔をしている所を見るとあまり愉快な内容ではないようだ。死んだ人間の復活なんて簡単な事ではないだろうが。


「いっぱい来たぞ」


 十塚もナイフを逆手に構えて更に奥から出てきた悪趣味人形と交戦し始める。ワザと攻撃を誘って蹴飛ばす。トラップのスイッチのある床に落ちたのか蹴り飛ばされた悪趣味人形は落ちてきた天井の一部に潰された。


「呪われた親子だな」


 股間から生えていると言うべきなのか、その子を庇うように抱きかかえながらこっちを牽制している。中には腹が裂けてそこから顔を出している赤子もいた。

 徒人は飛びかかるようなフェイントを織り交ぜて近くに居た悪趣味人形を牽制する。一部、寿命が尽きたのか腹の傷に耐えられなかったのか、女の方が床に転がっている。それに縋るような形で蛇のような細い赤子が顔を触っていた。うう、夢に出てきそうで困る。


「燃やせよ」


「小官がここで使うと建物が吹っ飛ぶぞ。証拠か手がかりを探し終えてからならいいが今の状態でふっ飛ばしたら本末転倒じゃないか」


 その反論に十塚が押し黙る。こっちで切り札をなくしたらただの自殺だ。


「『寿命に関する呪いとその捻じ曲げ方』と『黄泉の国からの降霊とその魂の定着についての考察』か。駄目だ。これ以上に目ぼしいのはない」


 速読で読んでるのか読み飛ばしなのか和樹が叫ぶ。


「そっちはどうだった? こっちは落とし穴と罠だらけで進めなくて地図しか見付からなかった」


 外から祝詞の声が響く。向こうにもこの悪趣味が溢れてるらしい。アストルはここを放棄したのだろうか。


「今から出る」


 徒人が叫ぶと同時にアスタルテが右手を出口にかざして炎の魔法メルト・フレイムを使う。床を炎が走っていき、入口付近にあった罠が燃えて作動するがそれらは溶けたのか途中で動かなくなる。


「行くぞ。急げ」


 アスタルテは走って入り口から外へ消えた。両手に本を抱えた和樹も慌てて入り口へと走っていく。


「ダブル・クレセント!」


 徒人は左右に魔剣を振って三日月型の光刃を2つ放つ。それに悪趣味人形たちが怯んだ隙に十塚が逃げる。最後に徒人も後を追って地下室から出た。後ろを見たら群れをなして追ってきている。さすがにこのままには出来ない。

 だが裏庭には悪趣味人形と同じく実験の成れの果てなのか裸の男性らしき個体を彼方と盾石で相手していた。


「アスタルテ! 燃やして!」


 十塚が出入り口の所の石壁に蹴りを入れる。スイッチが作動してシャッターのように壁が降りてきた。

「《バニシング・エクスプロージョン!》」


 アスタルテが炎の魔法を発動させると同時に壁が閉まり、アストルの家が紅蓮の炎に包まれた。潜入してるのに目立ってどうする?


「これでいいのかよ」


 仕方ないので地下水道の方へと走って逃げる。裏庭の出来損ないたちもアスタルテの魔法で焼かれて灰になった。他のメンバーも後を追ってきた。


「こいつら寄生種だから放置できないの」


 隣を走る祝詞が叫んだ。夕焼けの茜色の中でアストルの家は天に迫るような炎の手を伸ばす。まるで主の無念さを表しているようだった。

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