第289話 さらば、黄道十二宮の勇者
「どうした? 先輩! 手加減してくれてるのか?」
八束は動かない。エグゼキューショナーズソード牽制すらしてこない。やはり回復に専念しているのか間合いの少し外までは仕掛けてこないのか。
「どうして俺の命が欲しい? 出世の為か? この世界で生きる為か? ラティウムに取り入る為か?」
「馬鹿げてるな。言っただろう。あんたの命なんかどうでもいい。先程殺した六連とか言う奴もな。生きてる実感だよ。先輩、あんたの言ったとおりだ。この生命を焦がすこの一瞬だけが俺に生の実感与えてくれる。あんたも感じた事がないか。ギリギリで剣撃を避ける瞬間の熱を! 死ぬかどうか瀬戸際のコマ送りを!」
先端に刃がなく突く事でダメージを与えられないエグゼキューショナーズソードで突いてきた。
「戦いたいだけなら帝國と戦えよ」
迫ってくるエグゼキューショナーズソードを魔剣で軌道を逸して懐に潜り込もうとするがバックラーで殴ろうとしてくる。ここまではもう見切っていた。
「《プラズマ・コクーン!》」
ボソッと呟くように剣魔法を使い、魔剣に電気をエンチャントする。勿論、バックラーに通電しない事は分かっている。
「無駄な事を! 気でも狂ったか先輩!」
イチイチ先輩とか鬱陶しい呼び方だ。お前の方が上だろうに。
「戦いたいだけなら帝國と戦えよ」
バックラーが電気を通さない事に嘲笑し、斬撃を加えた魔剣を逸らそうとするが内側に潜り込もうとするのを避ける為か押し返してくる。同時に左からエグゼキューショナーズソードを振るって徒人の首を狙ってくる。
「雑魚と戦っても意味などない」
「ブラッド・クレセント!」
ほぼゼロ距離での光刃の発現。同時に爆発を引き起こす。八束はバックラーは弾かれて視界を奪われて隙ができた。当然、こっちは目を瞑って防いでいる。
勿論、それを逃す訳もなく魔剣を頭の付け根に突き立てる。抵抗なく魔剣は皮と肉を突き破り、赤い血を噴水のように撒き散らす。
エグゼキューショナーズソードとバックラーを落とし、八束は赤い花の中へ倒れた。
「これで死んだだろうな」
徒人はため息を吐く。一応、絶命してるようには見える。だが予め蘇生魔法を掛けられていたら生き返るかもしれない。
『殺して良かったのですか?』
「良くはないけど9つの命を持ってる猫じゃなきゃすぐには蘇らないだろう。こいつ、話を聞かなそうだし。それより阿戸星と六連の遺体を回収して蘇生させないと。これで12人生贄になったとかカウントされないだろうな」
徒人は後ずさりながら彼方の方を見る。彼女は目の傷と武器の重量の差で苦戦をしていたがフェニキアの攻撃を捌き切っていたようだがそろそろ限界が近いようだ。
移動などで体力を使ったのが堪えているようだ。
「彼方!」
「大丈夫! それより遺体を回収して」
手傷を追いながらも彼方は笑っていた。その傷は多少塞がりかけているようにも見える。新しいスキルなのだろう。一撃で倒されない限りは足止めもしくは倒してくれるだろう。勇者を倒したら駄目なんだが八束とフェニキアに関しては話ができない。一度殺して蘇生させるなんて笑えない手段を取らなきゃいけないのは不本意だが上手くいく事を願うしかない。
「レスキュー!」
誰かの声が響いたと思えば、奴の姿が光に包まれてそしてこの場から消えた。仲間が居たのか見渡すがどこにも見当たらない。取り敢えず、今襲ってこない事を幸いとすべきなのか──取り敢えず、エンチャントしている電気を解除して魔剣を鞘に納める。
『かなり流されてますよ』
トワの指摘に徒人は慌てて川の中を追いかける。小川って言っても広くて深いぞ。しかもかなり流されてるぞ。
『徒人、あいつを使いましょう』
エテルノが飛んできて徒人の前に足を差し出す。
徒人はその足に捕まって行ってくれと叫んだ。エテルノは指示通りに下流へと飛んでいく。あっという間に六連の身体が流れている位置は通り過ぎて首が流れてる辺りまで移動する。掴みにくい。こんなもん抱えて行かなきゃいけないのは不快だが仕方ない。
徒人は首を追い抜かして川の中へと飛び込む。水をかき分けながら六連の頭部を掴んで回収する。その頭部は無念さと言うよりは呆気にとられた表情のまま固まっていた。
身体を探すとエテルノが魚を捕る鷹のように上空から降下して足で掴み上げていた。そしてそれを近くの中洲に雑に下ろす。すぐさま戻ってきて徒人の前に足を差し出す。ありがたいけど雑すぎるぞ。
徒人はエテルノの足を掴んで六連の身体がある中洲まで運んでもらい、飛び降りる。そして中洲に着地したエテルノの背中に遺体を載せ、首を掴んでその背に跨る。早く終わらせたい。
悪夢は数十秒間で済んで阿戸星の遺体の近くに立ち、彼方とフェニキアの戦闘の行方を見ている盾石の元まで戻る。そして再び地面に降りたエテルノの背中から六連の胴体と頭部を阿戸星の隣に置く。斬るのはいいけど死体を触るのは慣れない。いや慣れたくない。
「逃げるかと思ったよ」
「失礼な。第一、私はコミデを持っている人間なんて彼方しか知らないぞ。逃げてどうする?」
毒を吐いたら本気で睨まれてしまった事に徒人は肩を竦める。余計な事は言わない方が良いようだ。
「戦況は? どうなってる?」
盾石は顎をしゃくる。これ以上は余計な事を言わない方が言いようだ。
彼方はフェニキアの斧を捌きながら小川から出て中洲に立つ。
「そろそろ終わりにしようか? でもその前に一つだけ聞くよ。あいつが死にたがりなのは分かったけど貴女はどうして戦う?」
フェニキアは水しぶきを上げながらゆっくりと彼方へと向かっていく。その様は両手に斧を持った処刑人のように見える。
「剣奴に、剣闘士に戦う理由を問うの? それは愚かな事」
「主にゾッコンか。ならどうしようもないね」
突然、彼方が右手に持った光の短刀で自分の目を抉る。その場の全員が驚愕し動きを止める。それを狙っていたのか、いつの間にか左手に持っていた炎の短刀がフェニキアの顔に向けて投げ放たれていた。
「愚かな事を」
炎を纏っている為に女の性としてどうしても防がずには居られなかったのか右手の斧で弾く。炎の短刀は川の中へと落ちて川底に刺さる。その反応と対応も予想していたのか、彼方は雷切を抜き放って両手で構え、最上段から振り下ろす。
「最大出力」
雷切が放電し、フェニキアに向かって雷槌の手が襲いかかった。彼女は無言で己を覆うように斧を盾にして身体を丸くして防御する。金属製であっても防御魔法がかかっているのかもしれない。
「無駄だよ」
フェニキアの足元に突き刺さっていた炎の短刀といつの間に投げたのか光の短刀が雷槌の媒介となる。そして彼女が巻き上げていた水しぶきが放電を絡め取り、拡散した電気が檻となって対象を焼く。
小川に倒れ込むと思えば緊急逃走アイテムでも発動したのかフェニキアの姿は掻き消える。残されたのは光の短刀と炎の短刀の2つと人の肉が焦げた嫌な匂いだった。
「捕まえようとしたのにミスったか。そっちは……神蛇さんの顔見たら分かるか」
彼方は雷切を鞘に納めながら陽光の双子を屈んで回収する。振り返った顔には右瞼の辺りに火傷が目立つ。
「君よりはマシだな」
「余計なお世話だ」
徒人は走って行きながら回復魔法を唱える。普通のヒールだが彼方の瞼はみるみるうちに完治し、元通り傷のない顔に戻った。
「ああ、助かった。短刀で斧受け止めるのキツかったよ。次はあの手が通じないんだろうな」
彼方はダルそうに肩を落としていた。
「おーい。大丈夫か!?」
上空を見れば和樹が翼竜の背で手を振っていた。祝詞も十塚も疲れたような表情をしているが大丈夫なようだ。
「敗北に近いけどみんなが生きてるだけマシか」
徒人は黄道十二宮の勇者の2人の遺体を見てため息を吐いた。
「生き返ってくれる事を祈ろうよ。じゃないと完璧に敗北だよ」




