第26話 お宝なのか
幾度か敵を排除して居住区だったらしき場所を調べてみたが日記の類など見つかりはしなかった。アニエス曰く北の魔王がこの世界から居なくなって20年ほど経過しているので荒れ放題の魔骨宮殿で紙に書かれた物が保存されているかと言うと期待する方が間違ってるとなると上層階へ行くしかないが無謀な事は出来ない。
トワさんに言われたのは生きて帰って来い。生きていてこそなのだから。
今はだんらん室だった部屋を調べている。子供のおもちゃっぽい汚れた積み木の残骸やぬいぐるみらしきものが置かれているのが微妙に不気味だ。
「本当に何もないな」
「ある訳ねーだろ。それこそ残ってたら冒険者共も稀人も節穴揃いになっちまうぜ」
レオニクスが近くの椅子に座ってそれを傾けてみせた。当然だが何も起こらない。現実はそんなに都合良く出来てない。
「ポッチとな」
徒人は悪ふざけで近くにあった本棚を押してみた。ガラガラと歯車の駆動音が鳴り響いて天井が降りてきた。吊り天井か。
「ごめんみんな!」
徒人は慌てて逃げようとして土門にぶつかって倒れた。彼の鎧にぶつかった為に額に痛みが走る。まだ駆動音が聞こえている。
「徒人君、ただの階段だよ」
祝詞が右手を差し出しながら視線は天井に向けられていた。視線をそちらに向けると天井の一部が口を開けて折りたたみ階段らしき物が見えている。
「穴があったら入りたい」
徒人は手を取りながらも顔を背ける。
「穴なら天井裏の穴があると言うオチまで付いて来て良かったね」
祝詞がキラキラした笑顔を浮かべる。
「やっぱり、リーダー性格悪い」
「レオニクスさん、お願いします」
皮肉の一言はスルーされてしまった。レオニクスが階段を引っ張りだし、身軽に登って行き、天井裏へと消えた。
「神蛇さん、勘違いはよくある事だよ」
彼方が慰めてくれるが恥ずかしさは消えない。
「ご主人様、動かないで下さい」
近づいてきたアニエスが布切れのような物を取り出してそれを徒人の額に貼り付けてテープらしきもので貼り付けた。
「鎮静剤が入ってますから眠くなるかも」
「こんな物しかなかったぞ」
天井裏から出てきたレオニクスがそれなりの大きさの宝箱を持ち出してくる。その外見は薄汚れていて中身が不安になった。そして近くにあったテーブルの上に宝箱を乗せる。
「罠は解除したんだよな?」
「私物だ。最初から罠なんぞないぞ」
和樹が聞いてくれて助かった。その言葉と同時にレオニクスは宝箱を開けた。一瞬、全員が硬直するが罠など何もなかった。宝箱の中に入っていたのは小さな箱に収められた一振りのナイフを含めた銀食器セットだった。高そうには見えるが買い手が付くだろうか。
「……くたびれ儲けのなんとやらか」
「売れそうではありますが実際に使うのは止した方が良さそうですね。自分が持って移動します」
レオニクスがアニエスに箱ごと銀食器セットを渡した。
「帰ろうか」
「ならここを登って裏口から出るか」
肩透かしを食らってげっそりしてる祝詞にレオニクスが提案する。彼は奥の裏口を親指で示していた。
「早く出れそうなところからならどこでもいいよ。安全なら」
彼方が気味悪そうに部屋を見渡す。確かに壁を詳しく見ると血管が浮いているようにも見えるし、柱は骨のようにも見える。
「もう出よう」
和樹がまだ脱出魔法を覚えていないので当然歩いて出る事になった。
だんらん室を出て奥のテラスの方へと向かっていく。そして外へ出た。遠くには青空が広がっている筈だが魔骨宮殿真上の空は墨守を垂らしたような雲に覆われている。
「そこ、落とし穴な」
レオニクスの言葉に全員飛んだり避けたりして指さされた部分を避けていく。
ふと後ろを見ると後ろを歩いていたアニエスが消えた。彼女の本来の実力なら難なく回避できるだろうに──レオニクスに疑われてたからわざと引っ掛かった不利なのだろうかと徒人は思う。なので黙って成り行きを見ていることにした。
「お前、わざと落ちなかったか?」
「まさか。地図に書き込むのに夢中で落ちただけですよ。何かありますね。宝箱が」
落とし穴を覗き込むレオニクスにアニエスが答えた。
「弟子よ、大丈夫か?」
中二病弟子を心配して覗き込む和樹。
「勿論です。自力で抜け出しますので暫しお待ちを」
アニエスは言うや否や落とし穴からあっさり壁をジグザクに蹴って上がって登ってきた。小脇には黒光りする宝箱を抱えている。──これは逆効果だったのではないのかと思わんでもない。
「なんかやばそうだな」
「うむ。お前らちょっと風上に動いて離れてろ」
アニエスから黒光りする宝箱を受け取ったレオニクスが宝箱の解錠に取り掛かる。しばらくして金属音がした。
「開けるぞ」
宝箱が重々しい音を上げる。レオニクス以外が離れてみているが反応待ちだ。
「大丈夫だ。入ってたのは黒いガントレットだ」
徒人は言われて近付いてみた。確かに宝箱の中には訳の分からない黒い金属製で出来た一組のガントレットが収まっている。徒人には呪われては居ないように思えた。
パーティメンバーが集まってきた。これを装備できそうなのは4人しか居ない。
「俺はパスだ」
「当方も要らない」
「オレは鎧と統一性がなくなるから遠慮しておく」
3人の視線が徒人に集まる。
「じゃあ、俺が貰っておくよ」
徒人は左手に装備していた篭手を外して黒いガントレットを填めようとする。
「ちょっと待って!」
祝詞が何か言う前に既に左手にガントレットを嵌めてしまった。徒人の目には黒いガントレットから黒い煙のような物が出て行ったように見える。
「どうした?」
「なんか呪われてそうな気配がしたんだけど……気のせいだったみたい。一応外せるか試してみて」
祝詞が言うので徒人は慌ててガントレットを外してみせた。
祝詞は徒人の左手を触ってみて確認している。
「御免。大丈夫だった。あ、要らなくなった篭手は私が使うよ。なんの効果もない白手袋よりはマシだし」
多分、祝詞の目利きは間違いなかったんだろう。みんな言ってくれたらいいのにとも思わんでもないが愚痴っても話が進まないので黒いガントレットを付け直して、右手の篭手を外した後、右手にも黒いガントレットを身に着けた。
祝詞はさっきまで着けていた篭手を代わりに装備していた。
これもチートなんだろうかと徒人は考え込む。
【神蛇徒人は盗賊剣士の職業熟練度は11になりました。[気配察知2]は3にレベルアップしました。[罠感知1]は2にレベルアップしました】




