第240話 潜入!獅子王城!
徒人たちとアニエスの姿だけを魔法で消して獅子王城の近くへとやってきた。空から見た獅子王城は無骨で海岸沿いに石で建てられていた。黒鷺城に比べたら戦う為の城らしい城と言える。
ただこの大陸に上陸した時に拠点として建築したような感じがする。
翼竜たちを近くの浜辺に着地させて徒歩で移動して徒人たちは獅子王城が目と鼻の先にある森から様子を伺う。さすがに死の大平原に戦力を集めているせいか上から見た感じでは最小限の兵士しか居ないように思う。
「戦うのが専門な奴らが根城にしているのにしては随分と妙な所にある城だね」
彼方が疑問を口にする。
「元々、獣魔族はこのゾディアック大陸で反映してました。それをラティウム帝國が成長するに従って段々と北西の追いやられて一度は抵抗していた獣魔族の殆どが西の大陸であるイーステリアに追いやられたと聞いています」
アニエスが単眼鏡を覗き込みながら説明する。
「組織的抵抗が出来なかったのならそうなるよね」
「元々、獣魔族は人間を襲ったりはして略奪を繰り返していたのですが人間側が組織的な行動を取るようになると力関係が逆転していきました。大体、120年ほど前の話です」
徒人は彼方とアニエスの会話を默まって聞きながら獅子王城にどうやって入り込むかを考えている。裏門の警備は二匹。ワニとライオンみたいな獣魔族がいずれも槍を持って暇そうにしていた。半分寝ているように思える。
「なんでこんなに油断しきってるんだ?」
「山が邪魔して帝國はこの地域に入り込めないのです。だからこの一帯は彼らの、西の魔王軍の支配地域になります」
アニエスが獅子王城の向こう側に見える山脈を示す。確かにあれは馬では山越えできなさそうな気がする。それこそ空を行かないと──
「それでどうしてこの大陸に戻ってきたの? レコンギスタでも始めたの?」
祝詞が訝しげに問う。
「イーステリアは人間や人間に近い魔族が一緒になって暮らしている国です。内乱は起きましたがあの大陸は基本的に人間や魔族に近い容姿の種族にしか存在を認めていないのです。獣魔族が移住して住めるような土地ではありません。
迫害などを受け、痩せた土地や荒野に追いやられた彼らを纏めたのが西の魔王にして西の魔王軍の首魁であるマクシムス・スローンです」
「盟主じゃなくて首魁なんだな」
盾石が確認するように問う。十塚の魔法に因って防音されているので全身鎧の擦れる音は聞こえない。
仲が悪いのは筋金入りなんだな。二人のやり取りで察する。魔王軍と言う括りの中でありながら協力し合えない対立の深さが伺える。
「はい。元々、南の魔王軍の悪魔や魔族は基本的に獣魔族を見下していて他人事として救援要請を黙殺していましたから。そしてその後に南の大陸に攻め込まれて手酷い損害を被ったのですがね」
「それで南の魔王軍と西の魔王軍は仲が悪いのか」
「ええ、せいぜい100年程度の話ですから」
ハーフ魔族であるアニエスが含みのある言い方をするのだから魔族や獣魔族にとってはかなり短い間の出来事なのだろう。そもそも人間である徒人には100年と聞くと1世紀分なのだから想像できない。これ以上考えると頭が痛くなりそうなので意識の片隅に追いやった。
「イーステリアでやれば良かったのに」
「師匠、さすがに獣魔族にも望郷の念はありますよ」
和樹の言葉に返答するアニエスだが何気に酷い事を言っていた。やはり、この2人は基本的に口が悪いので共通してる。
「傑作な話だな。私たち故郷に帰れない人間が故郷に帰ってきた獣魔族を追い出そうとしてる。これほど皮肉が効いた話があるか」
盾石が1人で肩を竦めて笑う。言わんとする事は分かるがこんな所で相手に同情している暇はないし、手加減して全滅する訳にはいかない。
「でどうやって入り込むんだ?」
「私たちの匂いは消せるわよね?」
徒人の発言に祝詞がアニエスに聞く。聞かれた彼女は鼻から息を吸って確認している。そして顔を歪めながら言った。
「多少は匂いますが翼竜臭いから大丈夫かと思いますが一応あれを使いますか」
アニエスは道具袋として愛用しているショルダーバッグからアンジェラズ・ダストとデモンズ・レインことキンモクセイを取り出す。いつの間に乾燥させたのか両方共カラカラに乾いていた。
「持ってたのかよ」
和樹が微妙に呆れた表情をした。徒人は祝詞を横目で見る。だが彼女は顔色1つ変えずにやり取りを眺めていた。
「丁度風向きが獅子王城の方へと向かってますのでいい感じに煙で燻せると思います。奴らの鼻を潰しておけば多少は時間が稼げると思います」
アニエスが提案するがそれは同時に誰かが近くに居る事を示す事になる。
「やるのは良いけどいずれ勘付かれるだろうな」
「その間に姿を消して上手く裏門から城内に侵入しましょう。気取られる前に」
徒人の懸念を察しているのかいないのか、アニエスははっきりと言い切った。陽動を目的として考えるなら彼女の言い分は間違ってはいない。むしろ、正しい。逃げられれば。
「じゃあ、早速、その手で行きましょう。中に入るには透明になって見張りの注意を引けばいいかな」
祝詞が作戦にゴーサインを出した。考えていても仕方ない。虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。
「自分が煙を起こしますので裏門に先へ行って下さい。後から合流します」
アニエスは忍の陰術を使ったのか、妙に影が薄くなった。そして木を伝って上へ登ってから枝の先へと歩いて森から飛び出た。
「アニエスが火を着けたら裏門へと移動するよ。その前に口と鼻を覆って。あと見張り番の持ち物をすって門の下から中へ投げ込んで門を開けさせる」
全員が祝詞の言葉に頷いた。徒人は布を取り出して口と鼻を覆う。他のメンバーも同様に布やタオルを使って口と鼻を覆っている。
「闇の神よ。我らの足音を殺し、我らの吐息を殺し、我らの敵からその姿を隠蔽せよ。《忍手!》」
十塚の魔法が完成すると毎度の如く徒人たちは黒いもやに包まれた後にすぐそれは虚空に溶けた。
その間にアニエスは素早く準備をし、アンジェラズ・ダストとデモンズ・レインことキンモクセイを混ぜて焚き火のように枝を積み上げていく。そして火打ち石で火を着けた。危なげない見事な手並みだった。
風が吹くと同時にその灰と煙は裏門の方へと流れていく。
「行くよ。罠に引っかからないように小生の後を辿って」
十塚が合図と共に森の茂みを縫って裏門へと中腰の早歩きで移動していく。いつも通りに彼女の真似をして、盾石、彼方、祝詞、和樹、徒人の順で十塚が通ったルートの後を追う。
すぐに裏門の2人の細部が見える位置までやってくる。
「また臭いやがる。アンジェラズ・ダストなんか使うなよ。折角、暇で寝てるんだから」
ワニの獣魔族が苛ついたように声を上げた。
「使ってるんじゃなくて燃やしてるんだろう。メフィスト様の命令だからな。と言うか、暇だからって寝るんじゃねぇよ」
「文句言うんじゃねぇ。帝國のクズどもがあの山脈を超えられる訳がねぇだろう。寝てて何の問題があるんだ?」
ライオンの獣魔族の小言に対してワニの獣魔族は悪びれた様子はない。勿論、こっちに気付いているような気配はない。
「開門! 開門!」
思わぬタイミング中から声がする。見張りの獣魔族2人もぎょっとしたらしく全身を震わせて中へと視線を向けた。
門が内側へと開いて中から小隊規模の数の兵士たちが出てきた。マズイ。バレたか。
「ど、どうしたんだよ」
「命令で臭いの元を見てくるように言われた。お前たちも遊んでないでしっかりと見張れ」
隊長らしきリスのような獣魔族がライオンの獣魔族に答えた。隊長らしき男は徒人たちの目の前に来て止まった。
「なんか人間臭い。あと翼竜の臭いもする。これは何だ?」
リス隊長が鼻を鳴らす。祝詞は手を横に振って行動するなと指示している。
「さ、先程、翼竜が飛行していました。そのせいかと思われます」
ワニの獣魔族が姿勢を正して敬礼しながら報告する。
「貴様もしっかりと見張れよ」
隊長は文句だけを残してアニエスが焚き火をしている方へと向かった。徒人たちには気が付かなかったのか、それとも泳がせているだけなのか──判断し辛い。
十塚が今のうちにと言いたげに獅子王城の中を指差す。祝詞はそれに応えて獅子王城を指す。アニエスは自分で何とかすると判断したのだろう。和樹も納得しているのか無表情だった。
十塚は2人の見張りの脇をすり抜けて門を通過して中へと入っていく。徒人たちもそれに続いて獅子王城の中へと入った。




