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第206話 頭上の難敵

 一応、嘆きの森の主力であるファウスト率いる返り血部隊を倒した。だがその代償は大きくラティウム帝國の先発隊で戦える者は半数になり、徒人たちも疲れ切って近くのベースキャンプで休んでいた。


「疲れた。慣れない事をするのはしんどいよ」


 粗雑な敷物の上で祝詞が大の字になって倒れていた。あの後、治療に駆り出されたのだが堪えたらしい。その姿に女子らしさはない。取り繕うのも忘れるほど疲れているようだ。


『徒人、大丈夫? 凄くお疲れの顔が目に浮かぶような気がするけど』


 トワの声が心の中から聞こえてくる。徒人は近くの木の側に腰を下ろして背中を預けた。回復魔法だけでは足りなかったのでアイテムで治療したりしていた。自分の手を見て久しぶりに包帯を巻かれたような気になる。こっちに来てまだ半年経っていないのだが。


『一応、平気かな。ただあんな方法で倒して格好悪いなとか思っただけだよ』


 正直、ファウストが闇の結界を張らずに仲間と連携していたら負けていたかもしれない。


『勝てばなんとかです。わたしは徒人が無事で安心しました。なんかバックアップ出来たらいいのですが表立って動く訳にはいきませんので……』


 トワはあからさまに喜んでいるようだった。競争相手の幹部が倒れたのだから当然の事ではあるが。


『アニエスがヘレネーとか言うのと交戦してたけど大丈夫なのか?』


『それは潜入中なので問題ありません。一応、そういう方便にはなってますので……相手がそう取るかは別の問題ですけど』


 トワの問題のないように思えない返答に徒人は沈黙する。元から南の魔王軍と西の魔王軍は仲が良くないのだろうが今回の件は決していい状態ではない筈だろう。


「アニエス。お前は大丈夫なのか?」


 治療の手伝いで疲れているだろうがずっと立ったままのアニエスを呼んで聞いてみた。多分意味は通じている筈。


「問題はないとは言いませんけど、今に始まった事ではないので大丈夫でしょう。それより下がっていいですか。さすがに空中にいる相手に足止めと治療の手伝いで疲れました」


 アニエスの顔色は傍から見てもあまり良くない。こんなに気分が悪そうな彼女を見るのは初めてかもしれない。


「俺が一緒に行こう。それなら周りの目は誤魔化せるだろう」


 見た目使用人のアニエスが先に休むとラティウムの軍人たちがうるさい。こういう所に気を使わないといけないのは面倒だ。もっとも観測員であるアニエスとの癒着関係を隠すと言う部分もあるのだから仕方ない部分もあるのだが。


「辺りへの警戒は小生がする。貴方ほどではないけどね」


「ありがとうございます」


 十塚の言葉にアニエスは頭を下げて徒人たちに当てられたテントへ和樹に連れられて移動していった。


「地上部隊は倒したけれど制空権がないのは何とかしないと」


 粗末な敷物の上であぐらをかく彼方が言った。


「その件は言っておいた。すぐに対処してくれるだろう」


 立石が楽観的な態度を取っている。そんな態度を取られるとイライラしなくもないが当人は平然とクラブサンドイッチを頬張っていた。


「何かコネでもあるのか?」


「さあ、出来る男は謎のままの方がいいのさ」


 その返答にその場に居た女子陣が閉口する。


『うわぁ。芋い。その上、凄く寒い』


 徒人の聴覚を介して聞いていたトワまでが辛辣な言葉を放つ。勿論、立石には聞こえないだろうけど彼は何故か居心地が悪そうにしていた。


『それより徒人。徒人はファウストを倒した方法をまだ気に病んでいるのでしょうか?』


 あまり聞きたくない言葉を突きつけられた。


 祝詞はそのまま目を瞑って反応しないし、彼方はボーッとしている。十塚は座ったまま周りを警戒し、立石も食べながらだがどうでもいい事を話していた。


『ゲームじゃないから必殺技打っただけで当たる訳じゃないけどあまり良い気はしない。トワには何の話かさっぱりだろうけど』


『ええ。全くもって言ってる事の君が分かりません。わたしに分かるのは必殺技と言うのが奥義とか技の事なんだろうなと思うだけです』


 返答に徒人は苦笑いする。単語で分かりそうなのは必殺技くらいだろうが。


『どうしても気に病むのなら先代が倒れた時の話を徒人にお教えしましょう。あまり気持ちのいい話ではありませんが』


 トワの声が一段回ほど暗くなった


『岳屋弥勒に殺されたのは徒人も知っていると思いますがそれには原因があるんです』


『確か。罠に嵌められたとか聞いてる』


 アニエスが平然としてるように見えるから大した事のないように思えてしまう。


『はい。結界の中に誘き寄せられて力を発揮できまいまま嬲り殺しにされたと聞いています』


 RPGでその様子をリアルにしたら魔王の力を弱めるアイテムとか結界とか祈りとかはそういうのに該当するのだろうか。


『どうしてわざわざそんな場所へ出向いたんだ? 普通なら行かないだろう?』


 その一言にトワが暫く黙り込んだ。そして深呼吸してからなのか言葉を続けた。


『それは双子の勇者である岳屋弥勒が人質を取ったからです。丁度、この大陸に来ていた魔族の貴族の幼い姉妹を誘拐したのです。それを助ける為に先代の南の魔王は結界の破壊を待たずに指定の場所へ飛び込みました。結果は徒人も知ってるとおりです』


 彼方から聞いた話だと心肺を奪われ、大腿骨は武器にされていたらしい。本当に聞いてて居た堪れない。


『よくそれで勇者なんか名乗れたな』


『北の魔王との交戦後にそれがラティウム帝國内に広まって彼らは居場所を失いました。勿論、その噂を広めたのはわたしたちです。ちなみにそれがわたしが魔王に就任してからの初仕事でした』


 徒人は目の前の話に適当に相槌を打ちながらトワの話に耳を傾ける。


『俺、よく割り込み召喚された時にぶっ殺されなかったな』


『徒人は岳屋弥勒じゃないですからね。わたしたちは人間と交易してますし、それを聞いて先代の葬儀に来た人も居ましたから』


 トワはなんだか話しにくそうだった。彼女が先代の南の魔王を嫌ってるのは分かる。


『その幼い姉妹は助かったんだよな?』


『はい。姉の方が致命傷を負わされるも先代が、アーヴリル・オーレリアが命と誇りを賭けて逃したので……なんとかわたしとフィロメナで蘇生しましたので』


 聞いてるとどっちがどっちだか分からなくなってくる。


『わたしは双子の勇者を憎んでは居ません。むしろ、大事な人を守る為ならわたしだってえげつない手段を使うでしょう。だから非難するつもりはありません』


『先代さん、アーヴリル・オーレリアって人が嫌いなのもあるよね?』


『否定はしません。徒人、その名前を呼ばないで下さい。今でも無性にムカつきますから』


 声が一番冷たくなった。二度と言わないでおこう。それより、今こそちゃんと聞かなければ──


『もし、俺が勇者だったらどうするんだろう』


『わたしはどうもしませんよ。徒人は徒人です。だって……いえ何でもありません。忘れて下さい』


 トワが何かを言い淀んで黙り込んだ。


『アニエスは先代に可愛がって貰ってたとか聞いたけど──』


『あいつはもう元は取ってるんじゃないですか。徒人を11回も殺したんですから何が不満なんだか……わたしがあいつを11回ぶっ殺したい気分ですよ。思い出すだけで腸が煮えくり返る』


 反応を聞いて徒人は二度とこの話を振るのは止めておこうと思う。黒鷺城での殺傷沙汰はゴメンだ。


『だから徒人たちは正々堂々の基準に当てはまってますよ。と言うか、馬鹿正直すぎるくらいかと。それよりゆっくり休んで下さい。残ってる相手は軍師になったメフィストと残忍と名高いヘレネーはえげつない手でも平気で使ってくるタイプです。それに西の魔王マクシムス・スローンは勝つ為に手段を選ばない荒くれ者です。くれぐれも真正面からぶつからないように』


 トワの忠告はありがたいのだが割りとボロクソに言ってるのは本当に奴らが嫌いなのだろうと思わせるほどキツイ。


『分かったから。落ち着いて。出来れば真正面からぶつかったりしないよ』


『くれぐれもお気をつけて』


 その言葉に微妙なトワの視線を感じるのは気のせいだろうかと思いつつ、徒人は分かったと言って意識を目の前の状況に戻した。

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