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第21話 討伐報酬

 次の日、徒人はパーティメンバーと共に討伐報酬を受付から受け取ろうとしたらユリウスから話があるとの事で謁見の間へ呼びだされた。今は謁見の間前の廊下で赤い絨毯を踏みしめ、大理石の壁に囲まれながら順番が来るのを待っている。

 ちなみにアニエスはこの場に居ない。報告とかの手続きの為らしい。


「施設壊しすぎたから借金ですとか言われたりしないだろうな」


「さすがにそれは大丈夫だと思うけどね」


 徒人は和樹と共に彼方を見る。どうやらこの瞬間には同じ事を考えていたらしい。本当に心配してるのはスパイの件がばれないかどうかだが──


「冬堂氏に神蛇さんは失礼だな。冬堂氏はブリザードでパイプと部屋全体にダメージ与えたし、神蛇さんはミスって自爆させてしまったじゃないか。当方だけに押し付けるのは酷いと思うな」


「うんうん。最悪の場合だった時は三人で分割ね」


 祝詞の発言に彼女以外の全員は冷たい視線を浴びせているが当人は気にした様子がない。土門は苦笑いで誤魔化し、レオニクスまで呆れた表情を浮かべている。


「リーダーは割と邪悪だよね」


「黒い」


「巫女さん型邪神」


 徒人を含めた3人が思わず要らない感想を述べた。


「失礼だな。特に徒人君、(わたくし)は確かに神なら邪神でも祟り神でも祀るけど巫女型邪神とはどういう物なのか説明してもらえるかな?」


 祝詞が噛み付いてきたのは徒人だった。特徴的な悪口は控えるべきだったか。


「いや、エグかったから……それに正確には巫女さん型邪神だし」


 予備に売り払わなかったブロードソードの柄を弄びながら割りと本気で怒っている祝詞に戸惑う。


「当方は思うんだけどリーダーは割りと神蛇さんが好きなのか」


「……えっ!?」


 徒人は祝詞を見るがいつもの澄まし顔ではなく若干戸惑ったような表情をしていた。これはどう取ればいいんだと思わなくもない。

 対応に困っていると廊下の端で聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「僕は何もしてない。無実だ」


 左の奥の廊下で衛兵に連れて行かれる悟の姿が見える。あいつがやらかすのはデフォルトになってきてるような気がした。丁度いい具合にみんなの気が逸れる。


「あいつ、今度は何をやらしたのか分かりますか?」


 徒人は悟から見えない位置で謁見の間を警備する衛兵に問う。


「自分もよく存じてないのですよ。お前、何か知ってるか」


「あいつか。確か観測員を買収しようとして今回は牢獄行きのペナルティらしいぞ。その前は奴隷を買おうとして拘束されたとか言ってたな。有名な奴だよ。大して強くないのに問題ばかり起こす」


 反対側に立っていた衛兵が同僚の問いに答えた。

 徒人は礼を言って話を打ち切った。買収する相手をよく見ておけって話か。


「神蛇さん、あいつは割と有名ですよ。結構やらかしてるし、衛兵さんも言ってるけど幾らこの國では合法でも奴隷買うとかありえないから」


 ムッとした様子の彼方が吐き捨てる。話題は逸れたようだ。横目で祝詞を見たら安堵しているようにも見える。普段の表情とも言えなくもないが──


「お待たせいたしました。お入り下さい」


 謁見の間から現れた従者らしき中年男性が一礼して中へと招く。重々しい扉の隙間から見えたのは空の玉座とその隣に控えるユリウスと何段か下に控えるアスタルテの姿が見えた。

 言われたとおりに徒人たちは謁見の間に入り、横一列に並んで跪いて玉座の前にて言葉を待つ。


「折角で悪いのだがもうしばらく待っていてくれないか。一度に話した方が二度手間がないのだが……どうやら来たようだ」


 ユリウスの言葉に徒人は後ろを見る。扉が開いて入ってきたのは早希のパーティいや熊越パーティと言うべきなのだろうか。向こうはリーダーの熊越と早希と女魔術師の3人を除いてこちらを見つけて露骨に嫌な表情をした。


「随分、歓迎されてるみたいね」


 祝詞が皮肉を呟く。一触即発の事態かと思われたが比較的協力的だった3人が争う気がなかった為に事態は回避された。こんな所で争い始めても困るが。


「では早速話を進めよう。今回の炎の妖精、いや、炎の精霊の討伐ご苦労だった。熊越パーティには残念ながら報酬は減ずるが支払われるから安心して欲しい。そして白咲祝詞パーティ、よくやってくれた。多少は施設を傷付けてしまったようだが事情を鑑みて費用はこっちで持つから気にしなくていい。新市街地の住民たちはお湯の供給を受けられなくて行政が早急な対応を求められていた。執行官として君たち2パーティには報酬以外に受け取って欲しいものがある」


 その言葉に応じて従者が現れ、祝詞と熊越に書状のようなものを渡す。感謝状ではない筈だ。


「それは魔骨宮殿と呼ばれる元北の魔王が拠点として使っていた場所への探索許可書書だ。もう一つは権利書で君たちの住む家だ。ただしばらく使っていなかったので今詰め所の使用人に掃除させている。君たちには兵舎では住みにくかろう。存分に活用してくれ」


 ユリウスの一言にありがたく思う反面、石の家だと住み難いなと思わなくもない。


「大丈夫だ。ちゃんとお前たちの文化をよく知っている者たちが作った木の家だ。ただし、塀は石製だがな」


 不安がっているように見えたのか、アスタルテがフォローを入れる。


「執政官殿、別に今までの宿舎に住み続けても構わないんだよな? 俺はこいつらと違って別の民族なんだ。こいつらに合わせた家よりも兵舎の方が気楽だぜ」


 レオニクスが慌てて質問する。その慌てようは飄々とした普段の彼からするとらしくないと思う。


「そこは個人の好きにしたらいい」


 ユリウスの回答にレオニクスは胸を撫で下ろしたように見えた。


「執政官様、お願いがあります。我々のランキング制を廃止して下さい。今回の炎の妖精の討伐時にも争いが起きました。このランキング制のせいで無駄な血が流れては遅いと私は考えます」


 早希の爆弾発言にその場が凍り付く。


「神前早希、君が状況を憂うるのは分かるがそれは出来ない相談だ。それをする為には別の評価システムを作らなければならない。すぐに新しい評価システムなど出来ない。だが君が訴えたい事は痛いほどよく分かる。お互いを攻撃し合わないように監視を強化すると約束しよう」


 だがユリウスはそんな一言でさえもサラリとかわして言い包めるように宥める。しかし、早希は納得していないような様子だった。


「分かりました。監視の強化をお願いします」


 それ以上の言及は不利になると思ったのか早希は黙った。


「理解して頂けて幸いだ」


 徒人は笑顔を浮かべるユリウスを見てやっぱりこの男は信用ならないと思った。


「最後に君たち白咲チームに回数別ランキングで1位になった祝辞を述べたい。おめでとう」


 ユリウスは賛辞を送るが徒人は素直に喜べない。


「執政官殿、忙しなくて申し訳ないのですが(わたくし)たちは頂いた家を見に行きたいのですが宜しいでしょうか?」


 この場から去りたかったのか祝詞は家を見に行くことを申し出た。


「それはすまなかったな。住居のチェックを夜までに済ませないと具合が悪かろう。案内役を付けるから早速行ってくるといい。彼らを案内するように手配してくれ」


 従者に命令したユリウスを見て徒人たちと熊越パーティが立ち上がる。従者たちに案内されて徒人たちは謁見の間から退出した。

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