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第198話 情報収集

「新しい稀人(まれびと)か。取り敢えず、兵舎かコロッセオに顔でも出す?」


 彼方の言葉に祝詞は一応コロッセオに顔を出してみようと言い出して結局行く羽目になってしまった。

 徒人たちは階段を昇って観客席に出た。当然、お偉いさんが人を集めていた訳でもないのでコロッセオは野球やサッカーの2軍の試合みたいに閑散としている。中央では単に稀人(まれびと)の訓練が行われているだけだがこんなの見に来ているのかと逆に思わなくもない。

 新人の育成が楽しいのだろうか? スポーツに興味がない徒人には理解できない。

 観客席が徒人たちを見て多少騒がしいが話だけ聞いて去るのが一番に思える。長居して馬鹿な事に巻き込まれるのは本意ではない。


「祝詞。聞くだけ聞いてサッサと立ち去ろう。暇って訳でもないのだから」


 祝詞が徒人の言葉に頷く。


「見に来る程度には暇だがな」


「身も蓋もない意見だ。わざわざコロッセオにまでやってきてそんな言葉を口にするお前が一番暇人だがな」


「あいにく私は雇われの身なんだ。君と違ってこれでも仕事中なんだよ。無駄口を叩く非礼は詫びるがね」


 十塚の言葉に立石がいけしゃあしゃあと言ってのける。だが十塚はそんな答えが返ってくるのを予想していたのか煽り文句をスルーしている。


「あれは六連とか名乗った男じゃないか?」


 徒人たちから見て観客席の正面左奥側を十塚がさり気なく示す。誰かと話しているようだが遠すぎて見えない。男のような気もするがハッキリしない。彼方はコミデを取り出して何かしている。双眼鏡機能だろうか。


「誰か見えないね。黄道十二宮の勇者ヒーロー・オブ・ゾディアックの人間なら楽なんだけどね。逆に嵌めて借りを返してやるのに」


 彼方はコミデを覗き込みながら不愉快そうに唇を噛む。


「彼方と交戦したのは阿戸星とか言う女だろう。あいつの方が嫌いなのか?」


 気になったので聞いてみた。


「どうせ、裏でつるんでるんだろうからどっちでも良いよ。それに阿戸星とか言う奴は好きが少なそうだし、何か出てきてものらりくらりとかわしそうだからこっちの方が陥れるのなら簡単じゃないの?」


 小声で彼方が返す。当然だがこんなに声が響きそうな所でデカイ声を上げる訳にはいかない。


「関係ない可能性は考えたのか?」


「遊びとは言ってたけど殺意を込めて馬上槍で突撃してくる奴をお友達とは思いたくないよ。向こうも本気じゃなかったけどこっちは相性の悪さでちょっと本気を出す羽目になってちょっとイラッとはきてたからね。


 やっぱり面白くはない。あいつらが同じ戦場で後ろから不意打ちでこっちを仕留めようとしてくるとかなり面倒な事になると思う」


 彼方が意見を述べる。言っている本人が一番不愉快になっているように思えた。


「あの女、そんなに強かったのか。北の魔王の人形や岳屋弥勒と比べてどうなんだ?」


 和樹が口にしてからまずったと言う表情をする。彼方が露骨に不愉快な表情になったからだ。目が笑ってなかった。言った和樹が顔面蒼白で滝のような汗を流していた。アニエスも思わず身構えて武器を取り出しそうになっている。


「冬堂さん、あいつの名前はなるべく出さないようにしてくれるかな。蘇生したのをぶっ殺したけど未だにムカつく」


 アニエスから聞いた話によると正確には岳屋弥勒はもう一回ゾンビ化して出てきたらしい。それは彼方には話さない方がいいとアニエスや祝詞に指摘されたがこの反応を見るとそれが正解な気がする。黙っててバレても自分の責任逃れだけはしておこう。多分、上手く出来ないだろうが。


「ムカつくのは理解した。だが比較を聞いておきたい。次に奴と戦う場合に少しでも手口を明かして被害を減らしておきたい」


 立石が臆せずに彼方に問う。一瞬、気まずい空気が流れる。だが折れたのは彼方の方だった。


「強さ的によく分からないよ。単純な物差しで測れるようなものじゃないし。ただ、岳屋弥勒が剣速と手数で押してくるタイプなら、あいつは足の速度と突進力による一撃で致命傷を与えてくるタイプかな。床を見て分かるだろうけど鈍重なタイプじゃないよ。速度の早い重戦車が突っ込んでくるようなもんかな」


 彼方の例えにちょっとビックリした。重戦車なんて単語が出てきそうな雰囲気ではないのに。


「それなら牡牛座か。ご丁寧に昴なんて付いてるのは名は体で表すじゃないんだから」


 祝詞が微妙に額を抑えている。


「もう少し上層部に食い込めたら彼らの情報も入るのかもしれませんが何分得体が知れなくて」


 アニエスが申し訳なさそうに言うが目配せしてくる。後ろを見ればアストルがこっちへと向かって歩いてきていた。


「丁度いいタイミングと思うべきじゃないかな。渡りに舟なんだから色々聞いてみたらいい。……答えてくれるかは分からないけど」


 彼方が皮肉を言いながら笑う。和樹と立石の発言で彼女は苛立っているように見えた。


「こんにちは。貴方たちがここに来るなんて珍しい事もあるのね」


 ユリウスの手駒であるにも関わらず彼女の態度は変わらなかった。怒りも敵意もない。単に大人なのか見せないだけなのか仕事として割り切っているのか、真意は読めない。


「こんにちは。新しい人が入ったとか聞いたのでたまには顔くらい見ておこうかと思って」


 祝詞が頭を下げながら話を切り出す。

 その一言にアストルが眉を顰める。


「新しい人?」


「はい。立石氏を雇ってからこっちには顔を出したりしてないので使えそうな人が居そうかなと寄ってみました。(わたくし)が何かおかしな事を言いましたか?」


 怪訝そうに見るアストルに対して何も知らないふりをしながら祝詞は話を聞き出そうとする。


「そう。出来の良い子なら既にここに居ないわ。兵舎か酒場を覗いた方がいいかしら」


「そうですか。酒場で力をつけそうな人が入ったと聞いたんですが空振りですか」


 祝詞はガッカリしたような様子を見せる。アストルは新しい稀人(まれびと)の件を疑っていたのか釈然としない反応だった。隠してはいるが遠回しに言っているような印象を受けなくはない。もっともそれが嘘かは女子陣の方が見抜くのは上手いだろうが。


「あたくしの管轄外の事は知らないわ。他を当たってくれる」


 アストルの一言に祝詞は勘付いたのか相槌を打っている。稀人(まれびと)が召喚されたのだろうが秘匿している状況から考えるにその人物が勇者かそれとも余程秘匿しておきたい能力でも持っていたのだろうか。

 何にしてもユリウスが切り札を求めて稀人(まれびと)を召喚したのであればノクス側についた自分たちには余り嬉しい話ではない。


「出会ったついでにお伺いしますが西の魔王マクシムス・スローンと言う人物について心当たりはありますか?」


 その問いにアストルの顔が強張る。


「このラティウム帝國にとってまず真っ先に倒さなければならない相手よ。4本の腕で武器を使いこなし、大勢の兵士や稀人(まれびと)を葬ってきた大敵。倒せば莫大な報酬がもらえるでしょうが並大抵のパーティでは勝てない。


 奴が張っている結界を解かない限りは……剣峰終がラッキーパンチ的に入った一撃で肋骨を折られ肺を損傷したと聞いているが本当かどうか怪しいわね。2年も完治しないなんて理論上的にありえないし」


 徒人は終の治癒阻害能力を間近で見ていたのでそれが真実だと分かるが見た事のないアストルは回復職であるが故にそれを信じる事ができないのかもしれない。


「失礼ついでにすいません。どっちの肺を損傷したのでしょうか?」


 下手に出ながら聞いてみた。


「確か左側よ。眉唾な話を聞いている暇があったら招集に備えた方がいいと思うけどね」


 そっちから声をかけてきたのに不快感を示しながらアストルは背を向けて去って行った。


「六連の事を聞き損ねたけどラティウム帝國の幹部が西の魔王を恐れてるのは分かったからこれでいいかな」


「あと新しい稀人(まれびと)を召喚したと見て間違いない」


 祝詞の言葉を補足するように十塚が呟く。


「言われなくても帰って準備しますか」


 祝詞が先頭に立って歩きだした。徒人はそれを追う。

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