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第20話 源泉での決戦

お待たせしました。

難産と夜勤で申し訳ない。

 徒人たちがB5Fに辿り着くと神前早希パーティと色街パーティと炎の妖精との三つ巴の状態に陥っていた。蒸気や水滴が舞って視界の悪い中、早希パーティは炎の妖精の長と交戦していた。色街のパーティは横取りしようと隙を窺っているが早希パーティの女魔術師に阻まれ、足止めされている。

 この場に居た人間全員は少なくとも多少の火傷を負っており、炎の妖精も連戦で傷付いているように見えた。


「ちょっとヤバイですね。妖精から精霊になりかけてるから早めに倒さないと苦しいかもしれません」


 アニエスの言ってる言葉の意味はよく分からないが良くないと言うのは徒人にもよく分かった。もう炎の妖精の長と言うよりは炎の精霊と呼んだ方が良いのかもしれない。


「なのに手柄争いか。観測員は止めないのか」


「観測員には報酬は入らないのですが賄賂とかがありますので……」


 疑問にアニエスが呆れながら答えた。監視者を取り込むのは悪くない手ではある。実際、徒人もアニエスと内通してるのだから人の事は居ないのかもしれない。


「何? また人の獲物横取りしに来た訳?」


 早希のところのクチの悪い女戦士が冷水を浴びせるがその姿は全身に火傷を負い、コンクリの床に膝をついて剣を杖代わりにしてなんとか意識を保っている状態だった。


「また邪魔者か」


 色街が後ろに居た観測員らしきメイドに一瞥して合図を送った。

 メイドが瓶を取り出し、こちらに投げようとした瞬間、クナイのような刃物が飛来し、その瓶を割って中身だった赤い灰が固まっていた色街のパーティ全員に振りかかった。


「おいたはそのくらいにしておいてもらいましょうか」


 アニエスの両手にはクナイのような武器が握られている。


「この間抜け!」


 その一言も相まってこの部屋に出現していた炎の妖精たちが一斉に色街パーティに襲いかかる。


「クソぉ! 一度引くぞ。バカメイド、お前は殿を勤めろ。渡した分はきっちり働け!」


 言うや否や色街パーティは徒人たちが入ってきたのと別の通路を使い、この場から逃げ出した。精霊以外の炎の妖精の大半は彼女たちを追っていった。


「ご主人様、こっちはお任せを。貴方は炎の妖精を」


 アニエスは足音を立てずに余裕で炎の妖精が残っている中を歩いて行き、色街パーティの観測員であるメイドの前に立ち塞がった。


「じゃあ、よく分からないけど精霊になる前に片付けますか。一応、注意だけはして」


 祝詞は早希の、熊越パーティの事を信用してないのか注意を促す。


「氷の精霊たちよ。今、お前たちの魔手をこの場に現出させよ。《アイシクル・プリズン!》」


 和樹の魔法が宙に浮く炎の精霊だけを氷の棺に押し込む。だが相手はそれをあっさり溶かしておりから抜けだした。


「雑魚とは違って大人しくしてくれないか」


 舌打ちする和樹の横をすり抜けて彼方が炎の精霊に向かって走った。立ち塞がった取り巻きたちをすり抜けざまに斬り捨てる。徒人もそれを見て彼女を援護する為に後を追う。

 彼方は取り巻きを必殺の一撃を加えるべく壁に設置されたパイプを足場に大ジャンブ。炎の精霊に一太刀が浴びせようとした瞬間、彼女に向かって矢が飛来する。このまま射抜かれれば深手は免れない。徒人の位置ではカバーに入ろうにも間に合わない。クソ。仲間に死なれるのは御免だ。例え裏切る事になったとしても──


「アローガード!」


 最前線に居た早希がガード系スキルを発動させてその矢を軌道を強引に捻じ曲げて己の盾で受け止める。


「流星!」


 大ジャンプからの一太刀が振り下ろされ、炎の精霊の左肩らしき部分からめり込み、左腕と左足を斬り落とす。そして、その足で距離を取って土門の後ろに下がった。


「どうして」


 矢を放った狩人らしき少女が呟く。


「人間同士で争ってどうするの!」


「まずはあいつを倒すのが先でしょう。火力の足りてないんだから手伝ってもらうって問題ないよぉ」


 早希と熊越が少女狩人を言葉で押さえ込む。そのやり取りを聞きつつ、徒人は炎の精霊に斬りかかる。斬撃は胴を捉えるが感覚が浅い。


「分かったわよ」


 仕方なしに従う言葉が響く中、炎の精霊が耳を抑えたくなる悲鳴を上げた。その悲鳴にアニエス以外の全員が耳を抑えて立ちすくむ。

 虚空より卵が生み出されるが如く炎の妖精が数体出現する。これじゃ火力が足りなくなる訳だ。徒人は苛立ちを隠せない。


「このままだと数で押し潰される。奴だけを集中攻撃して!」


 祝詞の悲鳴にも似た指示が飛ぶ。


「氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」


 魔術によって生み出された猛吹雪が生み出されたばかりの炎の妖精たちと精霊を襲う。だがどの個体も消滅する気配はない。この部屋の温度が高いせいで効果が十分に発揮できないのだろう。徒人が和樹を見ると詠唱体勢に入っているので突っ込む訳にはいかない。


「氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」


 再度、生み出された猛吹雪は炎の妖精たちを襲い、炎の精霊以外の妖精を消滅させる。再度、召喚のような動作を取る炎の精霊。徒人は阻止すべく距離を詰める。


「大気に満ちる雷の申し子よ。お前たちの知恵と力を示し、戒めと成せ。《ライトニング・バインド!》」


 早希パーティの女魔術師が唱えた魔法により炎の精霊に虚空より稲妻が落ちる。炎の精霊は帯電して行動を阻害された。だがカウンター的に周囲に炎を撒き散らす。


「フレイムガード!」


 土門が炎を防ぐ盾スキルを使ってくれたおかげで徒人は炎に焼かれずに済んだ。しかし、その間に炎の精霊は空中へと逃げる。この部屋の高さと奥行きの広さが仇になっていた。


「サンキュー。しかしタフだな」


 再度、徒人は距離を詰めて炎の精霊に斬撃を加えるが防具のせいで彼方と比べてそんなに高く跳べずどうしても火力が落ちてしまう。


「神蛇さんどうする? 当方たちによる武器による攻撃があんまり効果ない」


 隣に移動してきた彼方が忌々しそうにする。だが和樹やあっちの魔術師による魔法の攻撃も連発出来ないかもしれない。


「一応、考えがあるから奴を叩き落としてくれ」


「了解!」


 徒人の言葉に彼方は弾丸のように炎の精霊に向かって突っ込んで行く。今までとは対照的に地を這うような走りに敵は嘲笑っているような表情を作っているように見えた。

 彼方は胴田貫を下から掬い上げるように振り上げるがその斬撃は炎の精霊には当たらず隣の何もない空間を通り過ぎる。


「稲妻落とし!」


 次の瞬間、振り下ろされた斬撃が風の流れを起こし、炎の精霊を捉えて釣り竿の先端に付いたルアー如く壁に叩きつけた。確かに叩き落としてくれたのだが徒人の想定よりも遠い。

 炎の精霊はフラフラと空中へと逃れようとする。間に合わない。


「大気に満ちる雷の申し子よ。お前たちの知恵と力を示し、戒めと成せ。《ライトニング・バインド!》」


 虚空から生み出された稲妻が炎の精霊を絡めとる。

 徒人はその隙を見逃さなかった。最後のチャンスだ。突進し、その勢いのままロングソードを炎の精霊の胸部らしき辺りに突き刺した。

「《アイスコクーン!》」

 剣魔法を発動させ、徒人は自分の剣を媒介にして長の内部に直接氷魔法を叩き込む。奴は人の言語ではない悲鳴を上げる。


「《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》 《アイスコクーン!》」


 徒人は魔力が尽きるまでひたすらアイスコクーンを唱え続けた。魔力が尽きた瞬間、炎の精霊の姿が歪み消え始めた。

 だが炎の精霊はロングソードの刃を握って笑う。同時に奴を中心に魔力が満ちる。自爆するつもりか。走って逃げきれるか分からない。


「フレイムガード!」


 いきなり首根っこを掴まれたかと思うと早希の後ろに投げ捨てられる。次の瞬間に炎が周囲を覆い尽くそうとするが彼女の盾に吸い込まれて無力化され、しばらくしてから炎は収まった。


「炎による自爆じゃなかったら二人共吹っ飛んでたと思うんだが」


 床から半身を起こして抗議の意味も込めて徒人は呟く。


「だからと言って見捨てるのは違うでしょう。違いますか?」


 反論が正論過ぎて返す言葉がなかった。早希は笑顔で右手を差し出す。少し躊躇った後、徒人はその手を取って立たせてもらう。倒さなきゃいけない相手なのに和んでる場合なんだろうかと思わんでもない。つーか、このやり取りが密かにトワ様にバレてるとかないだろうなと思い悩む。

 そして爆発に巻き込まれたロングソードは跡形もなく消失していた。新中古だったのに──それに戦闘で源泉周囲のパイプや設備が破損している。請求されなきゃいいが。


「助かったよ。礼は言っておく」


 徒人は早希から離れて自力で立つ。アニエスがトワ様に報告を上げるとは思わないがあんまり良くない印象は与えない方が良いだろうと思ったからだ。


「取り敢えず片付きましたね。貴方はどうします?」


 アニエスの冷たい声がこの部屋に響いた。


「戦わないよ。ただでさえ貴女との力の差は歴然なのに」


 色街の観測員メイドは短剣を捨てて床に膝を付いて投降の意を示した。戦闘中は祝詞の護衛に徹していたレオニクスが駆け寄って取り出したロープで彼女を縛った。


「ところでこれの討伐報酬どっちが貰えるんだ? 折半になるのか?」


 魔力が空になった影響か徒人は急激に眠たくなってきた。


「そっちが6。こっちが4だと思います」


 なるほどと適当に相槌を打つが疲労で瞼が重くなってくる。


「ご主人様、お疲れ様です」


 アニエスと和樹、そして彼方が駆け寄ってくる。そして和樹と彼方が肩を貸してくれた。小柄なアニエスは自分が手伝うよりも身長が近い二人に任せた方がいいと判断したのだろう。


「体の内部からとはやるじゃないか」


 和樹の褒め言葉に徒人は親指を上げて反応する。


「疲れた帰ろう。冬堂氏、パッとダンジョンから脱出する魔法ないの?」


「まだ覚えてない」


 徒人のパーティメンバー全員がうなだれた。

 その後、早希パーティの観測員が見かねて魔法で送ってくれたのは幸いだった。

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