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第19話 殺してでもうばいとる

 光ゴケの薄明かりの中、そいつは現れた。確かに50cmほどで炎を纏った妖精と呼んで間違いない。だがその愛らしいさすら感じる容姿に背筋が凍るような殺意だか敵意だかを感じ取って徒人は剣を向ける。今までのモンスターとも魔族とも違う。無機質な殺意。ただ目の前の相手を排除する為だけに存在するマシンみたいな──


「こいつ、ヤバイかもね。今までのとは違う」


「気を付けろ。奥に2体目が居るぞ!」


 祝詞の言葉にレオニクスが注意を促す。


「氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」


 和樹が初手から遠慮なしに中級魔法を使い、手前にいる炎の妖精のいる辺りから奥に向かって吹雪を生み出す。通路の構造も相まって吹雪の檻と化した通路は一瞬で冷凍庫のように凍りつく。

 だが炎の妖精はその程度で動きが止まるような雑魚とは違った。口を耳のあたりまで開けて炎のブレスを吹き出した。

 徒人は咄嗟に顔を背けて息を止めるが全身の表面を焼かれ、少し炎の息を吸い込んでしまう。そのせいで鼻から自分の肉が焼ける臭いがする。思わず吐きそうになって足を止めてしまう。

 土門の後ろにいた彼方は素早く手前にいる炎の妖精に斬りかかる。しかし、炎の妖精は初撃をかわし、更にもう一度、ブレスを吐き出そうと口を開けた。そこへ矢が腹部に刺さり、それを中断させるが時間稼ぎに過ぎず矢は一瞬で燃え尽きた。多分、レオニクスが放ったの矢だろう。


「我が信仰する癒やしの神よ。我が兄弟たちの傷を癒やし給え。《パーティヒーリング!》」


 祝詞が唱えたパーティ全員を回復する魔法で徒人は随分楽になった。肌を刺していた痛みも緩和される。一瞬だけ後ろを見るとかなり後方に居たアニエスだけは範囲外なのか彼女だけは光りに包まれていなかった。

 徒人は炎の妖精に向かって走る。丁度、彼方の斬撃が手前の炎の妖精を捉えるが消滅も倒れもせずにその瞳孔なき瞳は殺意を湛えていた。

 そこにトドメを刺すべく横薙ぎの一撃を加える。それでも炎の妖精は倒れずに徒人に燃える腕を伸ばして襲いかかった。


「双牙!」


 徒人が後ろに下がりながらやけくそ気味に放った左右の二連撃がカウンター気味に入って炎の妖精は悲鳴なような音を響かせるが日本語でもこっちの言葉でもないので聞き取れない。


「どいて」


 彼方の声に咄嗟に徒人は左に避ける。その次の瞬間、大上段から振り下ろされた一太刀が炎の妖精を両断。虚空へと消滅させた。


「神蛇さん、大丈夫?」


「あ……」


 徒人は声を出そうとするがブレスを吸い込んだせいで声が出ない。眩暈がしてコンクリの床の上に膝を付く。


「リーダー!」


「任せて!」


 祝詞がこっちに来るのを見届けた後、彼方は前方へと走って行った。前方を見ると土門が奥に居た炎の妖精を抑えていた。


「清浄なる光の下僕たる白咲祝詞が命じる。傷付き倒れたこの者に安寧たる光の祝福を!《ヒール!》」


 光に包まれたかと思うと喉と胸部が楽になった。


「徒人君、肺気腫を起こしそうになった言うのよ」


「氷の精霊たちよ。今、お前たちの魔手をこの場に現出させよ。《アイシクル・プリズン!》」


 返事をしようとした瞬間、和樹の魔法が発動して奥で土門を攻撃していた炎の妖精が氷の棺に取り込まれる。そこに彼方の大上段斬り、下からの斬り上げ、袈裟斬りを受けて炎の妖精はその姿を保てなくなって消えた。


「ありがとう。あんまり無茶するもんじゃないな」


「そりゃねぇ。それに強化魔法が掛かってたみたいだし」


 喉の調子を確かめながら徒人が愚痴ると祝詞が笑えないことを言う。精霊さんが騒いでるので確かめてみると職業熟練度(クラスレベル)が15になりましたと告げる


「誰かが掛けてけしかけた……話の流れからすると色街たちか」


「彼らが正しければね」


 祝詞の意見を聞きながら彼女の方がスパイに向いているのではないかと徒人は思う。そして彼女の手を借りて立ち上がる。


「辛辣だな。でもどうやってけしかけたんだ?」


「恐らく先ほどの彼らに魔力を帯びた溶岩石の粉でも浴びせたのでしょう。炎の妖精の好物ですから」


 いつの間にか距離を詰めてきていたアニエスが説明する。


「じゃあ、普通の炎の妖精はそんなに強くないと?」


「本体と言うか、長は今戦った2体分くらいでしょう。仲間を呼んできますが……」


 徒人の言葉にアニエスが祝詞に魔力回復用薬のマジックメディスンを渡す。警戒しながら下がってきた和樹にもマジックメディスンを渡した。


「ご主人様は大丈夫ですよ。剣魔法は燃費がいいんで」


 こっちの内心を察したかのようにアニエスが断りを入れる。こういう所は普通に優秀なんだけどな──


(わたくし)、さっきので職業熟練度(クラスレベル)が25になってる」


「なら炎の妖精を倒して職業熟練度(クラスレベル)30になれば下級職で覚えられる魔法は一通り習得できますね」


 アニエスが祝詞にアドバイスする。


「そろそろ行こうぜ。長の顔を拝んでやろう」


 土門と共に先頭に立っていたレオニクスがせっつき始めた。

「では行きましょう。B5F奥に。もし、色街が襲ってきたらその時は徒人君とレオニクスさんで対処を」


 祝詞の指示に徒人とレオニクスは頷いた。そして徒人たちは目的地へと急いだ。


【神蛇徒人は錬金剣士の職業熟練度(クラスレベル)が15になりました。[炎属性耐性1]を習得しました】

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