第184話 救出作戦開始
急ピッチで徒人たちとノクスの部下たちを使って祝詞救出作戦の準備をしていた時に連絡が入る。それは公聴会が皆既日食を避ける為に早めに行われると言う話だった。ノクスがコネを駆使して開始を遅らせているが昼過ぎ頃の開催は避けられない。
日食を利用してカルナたち死者を呼び寄せるには公聴会が早すぎても遅すぎても作戦が破綻してしまう。なんとか皆既日食が起きる時間帯に入らせなければ。
そんなこんなで準備をしていたら既に次の日の昼近くになっていた。
徒人たちは怪しまれないように公聴会が開かれる元老院の連中が集まる立法府へと向かっていた。正直、武装して表から入れなかった場合は地下から入ったり別ルートで潜入するしかない。
多分、表から入れるのは和樹やメイド姿で暗器を隠し持って入れそうで賄賂で誤魔化せそうなアニエスくらいしかない。後は近くの地下道いや抜け道から潜入するしかないかもしれない。
「走れメロスみたいだな」
アニエスと十塚を侍らせて先頭を歩く和樹がボヤく。周りから見れば美人2人を侍らせて歩く魔術師のガキに見えるのだろうが当人はそれどころじゃない。徒人にとって侍らせてもあんまり嬉しくない2人だから気にはしないが。
「走れメロスは予定の時刻が繰り上がったりしないよ」
徒人の隣にいた彼方がツッコミを入れる。確かにあれは3日目の夕刻が期限だった筈。王による妨害が入ったが期限を早めるなんてせこい真似はできなかった。それを考えると何ともみみっちい相手に苦戦している物だと思わなくもない。
でも物語でも最後まで生き残るのは小悪党タイプだったりするから侮る訳にはいかないのだろうが。
「仮に和樹とアニエスが素通りできたとしても戦闘になったら和樹はどうするんだ? この手の建物には結界が張ってあって攻撃魔法を封じてあるんじゃないのか? それでいざとなったら戦えませんじゃ笑えないぞ」
徒人は懸念を口に出して聞いてみた。誰かが元老院議長に北の魔王との繋がりを突きつけて今回の公聴会をぶち壊さなければならない。問題は誰かが辿り着かなければならないのだが正面から入れてもマークされているのであれば表から入る組は囮になるしかない。その時はかなり派手に暴れて貰う事になるのだが──
その話をしたら盾石は装備が重いから走りたくないから囮なら勝手出てやると言ったが武器が持ち込めない可能性を考えると彼も適任とは言えない。
「その点は大丈夫だ。レインボーロッドで剣術を披露する羽目になったりしないさ。本当に大規模な魔法は軽減されるが団体様を殺すくらいは出来る程度の魔法は使えるし、使えなかったら無理やり解除させてもらうだけさ。お前が剣のエキスパートならこっちは魔法のエキスパートだ。信用してくれ」
「信用するのも暴れるのも構いませんが振り回してレインボーロッドを壊さないで下さいね。魔術戦でぶっ壊したのならともかく振り回して壊したとバレたら自分が怒られます。あと借金とかも嫌ですから」
隣にいたアニエスが何とも辛辣なツッコミを入れた。
「そんな髪の毛が禿げ上がるような真似はしないよ。徒人には悪いがあの人は苦手だし、なんかな……奈落の底へ落とされそうな雰囲気があるから嫌なんだ」
「トワの事か?」
その問いに和樹が頷いてみせた。
「愛がメガトン級に重そうだからな。あれは絶対病んでる。……失敬。余計な一言だった」
後ろに居た盾石が慌てて訂正する。そんなに怒っていたのだろうか。それよりも後ろを振り返ったアニエスがちょっと半笑いだったのがムカつくがそんな場合ではないので黙っておく。
「与太話はいいからさ。それより向こうもこっちがどう出るか全く分かってない訳じゃないでしょう。黄道十二宮の勇者も黙って見てる訳がないんだから必ず妨害してくる。それをどうやって捌くかの方が重要じゃないの?」
「当然出てくるだろうな。惑海が出てこられると厄介だな。あいつの幻術を打ち破る術は持っておかないと。それとあの2人の勇者っぽいのが出てくるか」
彼方の懸念に徒人は惑海双葉の事を思い出した。あいつだけはこの手で倒しておかないとスッキリしない。だが今は確実に邪魔してきそうな2人とカルナの相手をしなければならない。
もし、手ぐすね引いて待ち構えられていたらかなり厳しい戦いになるだろう。終と惑海のやり取りから黄道十二宮の勇者内で対立が起きている事を願うしかない。
足並みに乱れが生じればそこに付け入る隙は充分にある。
「阿戸星昴と六連将也か。門外漢の俺には分からんがかなり手強い相手になるだろうとしか推測できん。それに炎の奴が来るかもしれないから俺はそっちには手が回らなくて対処できないと思う」
そう言えば、鴨野と一緒に襲撃してきた魔術師が居たのを忘れていた。火中の栗を拾いに行くのは気が重いが逃げる訳にはいかない。だがあいつはラティウム帝國とも対立しているのでそこは元老院の警備と潰し合う事を期待したい。無理だろうが時間稼ぎくらいにはなると思いたいが──
「多分、阿戸星とか言うのは戦士系だから当方が抑えに入るべきなんだろうね。あと六連とか言うのが出てこられたら神蛇さんに任せる事になるかもしれないけど」
カルナの相手をする事を考えながら六連との連戦になるのは辛い。終は手の内をある程度は知っていたから勝てたが奴が初見殺しで殺し尽くす手段を隠し持っていたら死と再生の転輪で対応できるか。
「あいつは盾石が抑えてくれないか?」
余り話を振りたくないが提案してみた。
「私に火力がない事を承知で頼むのなら考えるが余り期待しないでくれよ。それにあのカルナと言う死者はどうするんだ?」
「出来れば俺が引導を渡して安らかに眠らせてやりたい」
「徒人、君は勘違いしていないか? あれを動かしているのがカルナ氏本人とは限らない。別の意思が動かしている可能性を考慮しないと君が死者の列に加わる事になるぞ」
徒人は盾石からの思わぬ指摘に言葉を失う。確かに別の人間に操られていると考える方が自然だし、言動もカルナっぽくなかった。感情が先走りすぎてその事実を失念していた。自分で考えるほど冷静に対処できていないのだろう。
「蘇った死者の件で困ったら心配しないでくれ。あいつらくらいなら倒す切り札は持っているからな。それよりもこれが黄道十二宮の勇者の勇者による罠なら今回の首謀者は手を出してこない可能性を考えるべきじゃないのか?
目の前の敵に気を取られて助けたはいいが政治的に追い詰められては元も子もない。くれぐれも気を付けろよ。もっともここで勝たなければ後がないのも事実だが」
「それは理解してる。だが敵が与し易い相手を狙って襲い掛かってくる可能性も考慮しないとな」
盾石の言葉に和樹が答える。
「もっともな意見だな。参考にさせてもらいたいがそろそろ目的の立法府だ」
徒人は和樹の言葉に立法府らしき建物を見た。白色で宮殿にも神殿にも見える立派な建物だ。想像と違って警備に就いた衛兵以外は居らず周囲は静まり返っていた。それがかえって不気味さな雰囲気を漂わせている。
「今日は皆既日食が起きるからみんな怖がっているんですよ。人間たちは天体現象に無知なようですから」
アニエスが重苦しい雰囲気を少しでも打ち消そうとするが効果は薄い。
「ノクスさんたちは既に入り込んでるから小生たちがどうやって立法府の中に武装して入り込めるかが勝負の分かれ目か」
黙り込んでいた十塚が口を開く。彼女なりに緊張していたようだ。
「むしろ、十塚さんは別行動してもらった方が楽なんだが」
「トークは期待しないでくれ。告発状なんか読み上げたくない」
十塚が和樹の一言を否定する。緊張してきた。普通に大立ち回りしてる方がマシだ。
「では皆様方これから第一関門と参りましょうか」
盾石が他人事のように促した。




