第179話 目的 東の魔王に会え
目のセンサーらしき数を数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいの数がこの場に現れた。しかも囲まれている絶体絶命のピンチとはこの事だ。
「攻撃しないで下さい。あいつに、東の魔王に用が会ってきました」
トワが徒人の後ろから出て両手を振って敵意をない事を示す。でも右手に白い錫杖を持っているのがぶち壊しだと思うが。
だが機械たちはそれで動きが止まった。そして何体かを残して去って行く。
「何が起こったんだ?」
盾石が信じられないと言いたげに言葉を漏らす。
「取り敢えず、トワが居たら攻撃はされないみたいだな。だから錫杖でぶん殴ったのか」
「ええ。でも一応は手加減したつもりですよ。一応」
トワの目が泳いでた。
機械軍曹の色違いで金色に輝いてる装甲で派手なのが1体こっちにやってきて目の前で止まる。何かを言っているようだが徒人には聞き取れない。どこの言葉だ。
「なんて言ってるか分かる?」
「わたしにも分からない。分かったら苦労しないんだけど」
十塚の疑問にトワが頭を振りながら答えた。
「大した道案内だ」
盾石がボソッと皮肉を言った。トワの赤いオーラがユラユラしてる。
「徒人、あいつ嫌い」
トワが頬を膨らませて怒っている。でも身から出た錆なので何とも言えない。取り敢えず宥めておこう。
「あっちが子供なんだから大人の対応を。それに数日前にここで彼は雇い主を亡くしてるから」
両手で仰ぐようにして少しでも落ち着かせようと宥める。
「分かった」
トワはその一言で冷静になったのか深呼吸をして自分を落ち着かせようとしている。
「これで大丈夫だと思う」
厄介事をたらい回しにされていたような表情をしていた祝詞が立ち上がって徒人とトワの方へとやってきた。
「一応、説明して欲しいのだけど」
「ここの最深部にあるプラント・オリジンに向かいながらでいいですか?」
トワの言葉に祝詞は消極的肯定と思われる頷きを行う。
「えーとお願いします」
トワは黄金の機械軍曹に頭を下げた。それを承認の合図と受け取ったのか、黄金の機械軍曹は背を向けて壁へと動き出した。
「そっちは壁なんですが」
アニエスが疑問の声を上げる。多分、隠し扉のような物があるのだろうが科学と言うか機械に関して無知ならばただの壁にしか見えないのは仕方ない。勿論、徒人もこの時代のダンジョンに慣れすぎてそういう発想を失念していたのは否めないが。
トワはその黄金の機械軍曹について行く。
「取り敢えずはこの黄金君について行けばいいのか」
彼方がそのまんまのあだ名を付けて後を追う。十塚も警戒しながら後に続く。残ったメンバーもそれに続く。
「本当の依頼の目的はここである人物に会ってもらう事です」
トワが落ち着いたのか、歩きながら話し始める。
「その人物は誰なの? ここに居るのは東の魔王だと聞いているけど機械が魔王なの?」
「滅多に出てこないどころか名前すら分からない魔王。それが東の魔王と聞いている。やはり普通の人間ではなかったのだな」
祝詞の言葉に盾石が口を挟む。話がややこしくなりそうだから黙っていて欲しかったのだが内容を聞いていると泳がせて話を聞いた方が良さそうだった。
「人間、それを知ってて、わたしに触れたの?」
トワの声には敵意が満ちていた。頼むから殴り合うような自体は避けて欲しい。
「大体はな。触れてみれば人間か魔族かハーフ魔族かどうかは分かる。あんたは、失礼。神蛇君の伴侶は人間でもハーフ魔族でもなく100%魔族だな。それも純血の。多分、この大陸の北側に済んでいたと言われる人に極めて近い種だ。戦争や北の魔王のせいで故郷に戻れなくなったとかいう話は聞いているがね。心より同情するよ」
盾石がトワから5mは離れた位置で後を置いながら話す。徒人は出遅れたので彼の後方を歩いているが結果として間違いではなかったようだ。
「どうして、わたしの出身地まで推測するのでしょうか?」
落ち着いてきたトワの声がまた険しくなる。それに対してその場の全員に緊張が走る。徒人は魔剣の柄に左手を置く。
「話し方と物腰。それに肌の白さ。この大陸の出身であるのなら大陸の北にある港町のあるローレヌ地域と憶測を立てただけさ。当たらずといえども遠からず。そんな所じゃないのか? 言っておくがあんたと事を構える気はない。私も会わせて欲しいのでね。東の魔王と言う存在が如何なる者なのかをな」
盾石は両手を上げて抵抗の意志がない事を示している。アニエスは歩きながらさり気に背後から攻撃できる位置へと移動していた。
「そろそろ続きをお願いしていいかい? あんたの旦那に嫉妬して斬られるなんてごめんだ。私はここがどういう場所なのか知りたいだけなのでな。そしてプラント・オリジンと言う単語についても。ついでに言っておくと好奇心だ。他意はない」
盾石が徒人に背中を向けたまま話す。祝詞と和樹は歩みをワザと遅らせて徒人の横にまで逃げてきた。二人共、素手で殴り合えないだけあって危機回避能力は高い。
「それともう1つ余計なお節介を口にするとアニエス氏は多分西の大陸の出だ。喋り方と肌の日に焼け方で分かる。もっと言うとハーフ魔族だ」
最後の一言にアニエスの背中が不愉快そうなオーラを漂わせる。やはり指摘されたくないらしい。
「随分と博学だな。その知識を是非、御教授願いたいものだ」
「貴方のスカウト技術と交換ならいつでも。失礼。余計な話を長引かせてしまった。どうぞ続けてくれ」
十塚のどこまで本気か分からない一言に盾石は言葉を返す。徒人には真意が読めない。いや当たり障りのない言葉のやり取りで煙に巻いているのだろうか。
「折角ですがあってもらえば分かりますよ。会ってもらった方が早いでしょう。稀人召喚に関して全てを把握している人物だと思います」
トワはそこで黙ってしまった。黄金君が何もない壁の前に停止して何かをしている。声紋認証でも網膜認証でもないだろうが識別コードでも出しているのだろうか。
『徒人。こいつ、凄くムカつきます』
トワが心の中で話し掛けてきた。内緒話に使えるのは便利ではある。
『トワ、怒ったら負けだから怒らないで。多分、他意はないよ。ただ単に怒らせてトワの反応を見てる。命懸けで。だから怒ったら負け。落ち着いて感情を見せないように対処するのが一番かも。極力隙を見せないように』
『分かった。徒人が宥めてくれるのなら鉾は収める』
話題を変えた方が良さそうだ。
「トワ、これは、黄金君は隠し通路を出そうとしてるのか?」
「何してるか分からないけど理屈としてはそうだと思う。わたしには魔力も感知できないけど」
そんなやり取りをしていると黄金君の前の壁が開いてエレベーターらしき箱が現れる。研究所とかにありそうな武骨なエレベーターだった。
「……なんかこの間の逃げ回ってたのが馬鹿みたいに思える」
彼方が不満そうに苛立つ。そんな機嫌の悪さを感じ取ったのか、黄金君は恭しく頭を下げてエレベーターの中へと進むように示す。
「そりゃダンジョンは基本的に要塞みたいなモンなんだから抜け穴や隠し通路の類はよくある事だろう」
「RPGのお約束か。分かっては居るけど切ないな」
和樹と祝詞がボヤく。それを尻目にエレベーターへ乗り込んだトワが徒人に向かって手招きしている。
黄金君が何かを発声しているが聞き取れない。スペイン語? フランス語?
「乗れって言ってるのは分かる」
彼方はトワに続いてエレベーターの中に乗り込んだ。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずだな」
盾石、十塚と続く。徒人はアニエスたちに先に入るように手で促す。アニエス、祝詞、和樹が入ってから徒人もエレベーターに乗り込んだ。それを見届けてから黄金君が最後に入ってそれと同時にエレベーターの扉が閉まって動き出した。




