第168話 救出作戦
「今だ」
「《ライティング!》」
十塚の声に和樹が魔法を発動させる。L字型通路の奥にある部屋が急に明るくなった。相手の機械たちが目を潰されてくれたらいいのだが多分、赤外線とかも装備してたら厄介な事になるな。
「クソぉ! なんだ! 助けに来たのか? それとも横槍か?」
唯一立っていた全身鎧にフルフェイスを被ったパラディンが叫ぶ。いきなり目を光でやられたらそう勘違いするのも無理はないが。アニエスは彼に向かって走っていく。護衛するにしろ、説得するにしろ、メイド姿のアニエスの方が中立に見えて説得力があるか。
徒人は覚悟を決めて突入する。抜き放っていた魔剣で手近に居た機械歩哨の頭部を一撃で斬り裂く。停止した機械歩哨は4脚の真ん中に崩れ落ちるように床に倒れて派手な音を立てる。
その音でこっちに気付いたのか、残っていた機械歩兵たちが一斉にこっちを向く。数は分からないが金属が擦れる音から光の届かない範囲に相当数存在するように思える。
「大気を覆う闇の力よ。今我が呼びかけし氷の精霊に力を分け与え給え。地獄の吹雪で大気を覆い、地を蹂躙し、敵を恐怖させて常世国を再現せよ。《ヘル・ブリザード!》」
和樹が発動させた氷魔法は黒い雪を呼び寄せ、その吹雪は明かりの照らし出されている範囲、照らし出せていない範囲を問わず、凍結させ雪で覆い尽くす。これで半分近くは動きを封じたと思いたい。
「野郎の助けは要らないぞ。あんまり嬉しくないぞ!」
パラディンが叫んでいる。こっちも仕事だ。文句言うな。
「助けに来ました。自分はアニエス。観察者の1人です」
全身鎧のパラディンの攻撃が届かない位置からアニエスが告げる。
「分かった。お前たちとは戦わない。これでいいか?」
結構ですとアニエスが返す。
「はいはい。邪魔邪魔!」
氷と雪に覆われる金属の床を苦もなく走っていく彼方。こっちに向かってきた凍りかけの機械歩兵を3体をすれ違いざまに雷切で斬って捨てる。轟音を響かせて床に崩れる機械歩兵を横目に彼女は走っていく。
徒人は彼方を追いつつバックアップするように近寄ってきた機械歩兵を斬り捨てる。掛け直した筈なのだが剣魔法のサンダー・コクーンの威力が弱まっている。魔力を吸収してるのか。ただの機械と侮るのは危険か。面倒だな。
「女の声か。女か? 女の助けならいつでもウェルカムだ!」
近くに居た機械歩哨を斬り捨てながらその言葉を聞いて徒人は呆れる。
「助けない方がいいかな」
「言わんとする事は分かる。凄く分かる」
近くに居た彼方が機械歩兵の胴を真っ二つに分かちながら同調してくれた。
「そこの人! 味方を抱えてこっちへ来れる?」
「視界が戻ってきた。君のような美人が助けてくれるなら喜んでそっちへ行こう」
徒人からはよく見えないが祝詞が凄く嫌そうな表情をしてるのが手に取るように分かる。見捨てるとか言い出さないように祈ろう。いや、言ってくれるのを期待すべきなのか。だがそんな事をしたら元老院側に付け入る隙を与えてやるようなものだ。
「ブラッド・クレセント!」
機械歩兵や機械歩哨が固まっていた辺りに三日月型の光刃を放つ。三日月型の光刃は戦闘に立っていた機械歩哨に直撃して爆発を引き起こす。だがイマイチ手応えがない。
「浅いね。先頭から数体しか巻き込めてないみたい」
血路を開こうとしている彼方が腕を振り下ろしてくる機械歩哨の攻撃をかわして雷切で腕を斬り落として頭部を刎ね落としながら言った。
「思った以上に堅くて爆発と光刃に対する耐性が高い」
「あんまり持たないからちゃっちゃと回収して」
徒人のボヤキに彼方が合わせるように催促する。男のパラディンはアニエスのフォローを受けつつ、女性二人を肩に抱えて祝詞、和樹、十塚の居る辺りに移動しているがあと3人運ばないといけない為にまだ時間を稼がなければならない。
「君みたいな人が……」
「ガタガタ言ってないで残りを連れてきて」
祝詞はパラディンの言葉を遮って連れてきた2人を診る。だが動きが彼女の鈍い。ビビってモタモタしているのではない。手遅れで慌てて行動する必要がない可能性が高い。
「大気を覆う闇の力よ。今我が呼びかけし氷の精霊に力を分け与え給え。地獄の凍結を再現せよ。《ヘル・アイシクル・フリーズ!》」
動き出そうとしていた機械歩哨たちが闇の氷にその身を包まれて再び床に釘付けにされる。だが闇の向こうからガチャガチャと金属の擦り合う音が大音響で迫ってくる。
「ダブル・クレセント!」
徒人は魔剣を肩に担ぐ。そして右、左と魔剣を振るい、三日月型の光刃を2つ生み出す。2つの三日月が凍結された機械歩哨たちの横をすり抜けて暗闇に飲み込まれる。数秒後、敵に当たったのか爆発を引き起こす。そして一瞬の爆発の光の中で大量の機械兵士たちがこっちに向かってきているのが見えた。
全力で戦えば全て駆逐できるかもしれない。眼の前に居る分だけは。ただし、援軍が来たら力尽きる羽目になるし、素材を集めてる暇はないのでただの自己満足と言う名の無駄に過ぎない。
「餌を見つけた蟻より多いんじゃない?」
彼方が斬り捨てた機械歩哨から流れ出た油に雷切を近付けて火を放つ。それが障害物になって敵は回り込まないといけなくなった。これで120秒くらいは稼げる筈だが生きた心地がしない。
「これで最後だ。助かるんだよな?」
アニエスに護衛されながらパラディンが無理やり3人担いで祝詞たちの元へと連れてきた。だがやっぱり祝詞の動きは迅速さに欠ける。
「多分、無理だと思う。魂を感じない。ライフポイントが残ってないのかも。その場合、せめて遺体だけでも連れ帰らないと悲しいでしょう」
そして冷酷とも言える口調で事実だけを告げる。
「……こいつらとは親しくないが心遣いに感謝する」
パラディンの男は気落ちしたような様子はなく一言で謝意を表した。
「二人共戻ってきて逃げるよ」
その言葉に待ってましたと彼方が祝詞の方へと向かって逃げ出す。徒人も慌てて後を追う。こんな所に残されたら簡単には戻れない。
「地の底より陽光を望む。我らに見えざる道を示し、この迷宮より解き放て! 《エスケープ!》」
和樹の脱出魔法により近くに大きな楕円形の穴が出現し、災禍の祭壇の外らしい風景が見た。一刻も早く外の景色が見たい。十塚が女性2人を肩に抱えて楕円形の穴を潜っていく。それにパラディンも2人を肩に抱えて続く。
「二人共急いで」
祝詞が楕円形の穴の前で手招きする。そんなに早く走れるか。彼方が楕円形の穴に飛び込んだ。それを見て祝詞が追う。
「先に行け」
「ギリギリまで待たないとお前が置いていかれるだろう」
和樹が言い返す。ありがたいがお前を置いて行かれた方が問題だ。
徒人が3mの距離まで来た所で和樹が穴を潜る。徒人も穴に飛び込むように災禍の祭壇から出た。
朝日がさす中、災禍の祭壇の外には控えてたバックアップの連中が倒れていた5人を見ているが反応は芳しくない。いきなり襲い掛かってくる展開とかなくて助かった。
先に出たアニエスたちは商人と話したり穴を見張ってたり、バックアップの連中が変なことをしないか見張っている。
結局、夜が明けてしまったか。
「徒人君、お疲れ様」
「お疲れ様。寿命が縮まるかと思った」
楕円形の穴が塞がったのを見届けてから徒人はため息を吐いた。
「改めて礼を言うよ。僕は盾石豊だ。お嬢さんの名前は?」
盾石豊と名乗った男に対して女子陣が呆れのため息を一斉に吐く。
『……わたしは徒人の婚約者で良かった』
トワの苦笑が徒人の心の中に響いた。
【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度は262になりました。呪騎士の職業熟練度は80になりました。[[対機械特攻2]は3にレベルアップしました】




