第166話 ターンテーブル
徒人たちはエレベーターまで辿り着いた。ここに来るまでなんどか交戦を強いられて機械歩哨や機械歩兵を撃破したがやはりメカ系と戦うのはやり辛い。
付いた場所は開けた場所にターンテーブルとコンソールらしきものがあった。これをこの時代と言うかラティウム帝國の人間が見ても何にも分からないのだろう。
「なんか研究所みたい。エレベーターと言うかターンテーブルだね」
彼方がターンテーブルを見て呟く。エレベーターと言うよりはターンテーブルの方が相応しい。ホラーゲームやアクションゲームとかならボスモンスターとか襲ってきそうだ。
「襲われそうでいい気分しないな。かと言っていつまでもここに居る訳にも行かないからさっさと降りるか」
「そうだね」
徒人と祝詞の会話を横目で見ながら十塚が警戒しつつ、ターンテーブルのコンソールに近寄っていく。
「来るよ!」
彼方の叫びと共に反射的に十塚がコンソールから飛び退く。同時に四脚に四本の腕を持った機械歩兵と機械歩哨が2体が天井から降ってきた。ターンテーブルの一部が歪むと思われたが床は何ともなかった。
「鬱陶しい!」
十塚と入れ替わりに前へ突撃した彼方が抜刀。一閃の元に3体の胴を真っ二つに斬り裂く。帯電した雷切に斬り捨てられた3体のマシンはガラクタのように動かなくなった。ファウストの時に強いられた武器の弱さを払拭すると驚異的な強さだな。
「急ごう。また増援が来る」
「素材を回収してる隙がないな」
彼方の言葉に和樹がぼやく。
「ついでに出番もないな」
『いつも働いてるのですから楽してもバチは当たりませんよ』
徒人にトワが声を掛けてくる。気休めでも慰めてもらえるのはありがたい。
「別にいいだろう。楽できると思えばいい」
十塚がコンソールへと近付いて操作し始める。こういうのに慣れているのだろうか?
「行くよ。置いて行かれたい」
祝詞が促すと同時に徒人たちはターンテーブルの上に移動した。全員が乗ったのを確認してから十塚がターンテーブルを動かす。ターンテーブルはゆっくりと動き出すが慣れないので揺れ方が怖い。そしてガタンと言う音と共に地下へと降りていく。
「これどこまで降りるんだ?」
徒人は天井を見上げながら呟く。遠くなっていく床と空間には何も見えない。要らんフラグな気がするが。
「それより機械歩哨たちが降ってこない事を祈った方が良くないか?」
「そういうのは言わない方がいいと思う。大概ろくな事にならないし」
十塚の言葉に珍しく祝詞がツッコミを入れる。
『フラグですか。こういう事を言うと現実になったりするから口にしてはいけないんですよね? トドメの一撃を放った後にやったかとか』
『そうだけど……どこで知ったんだ』
トワの言葉に徒人は肩を竦める。気になるので探りを入れてみた。
『昔、逃げてきた稀人が教えてくれました。女の子でしたけどね。逃げてきた時の傷が元で亡くなりましたが。いい子でした。徒人よりも2つくらい下だったような気がします。わたしには人間の年齢が分かりませんが、悪い子ではなかったと思います。彼女を見てわたしは稀人とは話し合えるのではないかと考えました』
予想以上に重たい答えが返ってきてしまった。
『すまん。余計な事を聞いた』
『気をつけて下さい。結局、ラティウム帝國も戦争が終わって稀人が必要がなくなったら稀人を、徒人たちを処分するかもしれません。狡兎死して良狗煮らるなんて諺もありますから。いざとなれば徒人の居場所だけはわたしが何とかしますから徒人は心配しないで下さい』
トワは1人で盛り上がってるのか鼻息が荒いよな感じがする。でもなんの後ろ盾もない徒人にとってトワが助けてくれなければラティウム帝國に振り回されるだけだったかもしれない。或いは使い潰されて死んでいたかも。そう思うとトワの心遣いに感謝したくなる。
『ありがとう』
「どういたしまして。婚約者として当然の事ですから。わたしだけの徒人に。わたしだけの傍にいる徒人なら労力は惜しみません」
折角、良い事を言ってたのにトワは自分でぶち壊してしまった。出来るだけ徒人はそれを気取られないように無意識に対応する。
「お客さんだ」
彼方が叫ぶと壁を蜘蛛のように伝いながら機械歩哨3体と目玉に羽が生えたようなのが飛んでくる。勿論、生えてる羽は機械的なフォームでコウモリとかの羽ではない。正直、目玉は航空力学とかに反していないのかとも思わなくもないが門外漢の徒人がツッコミを入れても仕方ないので黙っている。
ツッコミを入れて相手が墜落してくれる訳でもないから。
「和樹は目玉を頼む」
横目で見ると和樹は言われなくてもレインボーロッドを使い、自らの魔力で生み出した雷の魔法で迎撃を行っている。祝詞も十塚も雷の魔力を込められた矢で目玉を撃ち落としていく。
「ダブル・クレセント!」
徒人は魔剣を肩に担ぐ。そして右、左と魔剣を振るい、魔剣に上乗せされた雷の属性を帯びた三日月型の光刃を2つ生み出す。2つの三日月型の光刃は天井に向かって走り、追ってきた歩哨2体を巻き込んで爆発した。
そして笑えない事に残骸の雨が振ってくる。あ、しまった。そこら辺を考えてなかった。
「徒人のアホぉ!」
祝詞が頭を抱えながら振ってくる残骸から身を守る。十塚は天井を見上げながら横目で睨んでいた。アニエスは和樹の近くに居てフォローを行い、彼方は平然としている。
「神蛇さんは便利でいいな。当方も遠距離技が欲しいよ」
残骸の雨は降り注ぐ中、それすらも雷切で斬り落としながら壁走と言うべきなのだろうか、壁を伝って降りてくる機械歩哨を迎撃。近付いて十字に斬る。機能を停止した機械歩哨は物言わぬ残骸となってターンテーブルの床へと落ちた。
彼方は重力のしがらみに絡め取られて落ちてくる。
「重力のしがらみよ。一瞬でもこの者に羽の如き浮力を! 《フローティング!》」
祝詞の言葉に彼方の体が一瞬浮いて重力を無効化した。だがすぐに次の瞬間、再び重力の手に絡め取られてターンテーブルの床へと引き寄せようとする。だが彼方にはその一瞬で事足りたのか軽業師のようにターンテーブルに着地する。
「化物ですね。自分でも垂直には登れないのに。正直、忍の職に就く者として少し嫉妬を覚えます」
くないを投げて効果がある訳ではないので成り行きを黙ってみていたアニエスが呟く。
「相当高かったのにな。信じられない。普通、着地時に足くらい折りそうだが……」
「二人共、聞こえてる。単に元から運動神経がいいだけだよ。つーか、出来るようになるから。アニエスさんも垂直の角度じゃなくて垂直には登れないだけで登っていくくらいは出来るない。それなのに化物呼ばわりは酷いな」
彼方は遠ざかっていく天井を見ながら言う。徒人は途中の横穴から何か出てこないか心配になってチェックはしているが今のところは何かが出てくるような気配はない。
「出来るのか?」
「確かに垂直の角度だろうと登れますが真っ直ぐ登ると的になったり、降りてくる時に負担になりますからやりません」
和樹の問いにアニエスは呆れ混じりに答える。
「わ、割りと酷い回答」
彼方は上から視線を外さずに言葉だけで非難してくる。最初に自慢して煽ったような感じになったのは彼方なのでやり返されるのは仕方ない気がする。
「もうすぐ下に着くと思う」
十塚がコンソールを見て叫んだ。
『稀人は恐ろしいですね。あ、徒人は含まれて……ごめんなさい。失言でした』
心の中を通して話し掛けてくるトワの声を聞きながら徒人はターンテーブルが止まるのを待った。
【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度は260になりました。呪騎士の職業熟練度は70になりました。[[対機械特攻1]は2にレベルアップしました】




