表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
154/368

第151話 勇者の真の実力

「これが勇者の力? 桁違いに強い」


 闘気に当てられているのか、トワが息苦しそうにしている。


「今からでも考え直さない? 貴方たちの為にならないと思うんだ。小生のレベルは大体2900。南の魔王である貴女が大体4000くらいで徒人が1000くらい。前衛と後衛の勝負なら十分にひっくり返せる範囲内だよと言うか貴方たちに勝ち目はない」


「鬱陶しいな。貴方たちの為? そんなのは自己欺瞞だ。結局は人のせいにしてるのから逃げる為の逃げ口上だろう。剣峰終! 虫酸が走る!」


 徒人は強い口調で切って捨てる。同時に右側から仕掛けた。恐らく彼方が負わせた手傷を無駄には出来ない。

 当然、その事を計算に入れていたのか終は簡単に反応して見せる。元々、職業(クラス)とレベルによる差があるのだろうがこの状態で鍔迫り合いをして互角とは──


「言っただろう」


「認めるものか!」


 徒人が叫ぶと同時に反対側から回り込んでいたトワが終の頭部目掛けて力いっぱい錫杖を振り下ろす。魔王による頭部への一撃。人間には致命傷だろう。勇者じゃない人間には。しかし、勇者であるこの女は右手をノートゥングから離して右手でその一撃を受け止めた。


「化物!」


 渾身の一撃を防がれてトワが呻く。パラディンと回復系である魔王のトワでは当然力の差がある。だがこうも軽々と防がれては文句も言いたくなるだろう。


「魔王に、ルシファーの職業(クラス)に就いている者に言われたくないよ」


 終がトワを引っ張って頭突きを食らわせた。当然、兜を被っている終の方が有利になり、トワは額から赤い血を流しながら絨毯を転がっていく。トワと叫ぶのは容易に出来るだがそれどころではない。幸いにも彼女が離れて行ったのだからやる事は1つ。

 トワの白い錫杖を奪い取り、それを投げ返そうとする終に対して魔剣を押し込む。


「ブラッド・クレセント!」


 ゼロ距離からと言うか、終と斬り合ったまま、方向を、終の頭部目掛けて定めてブラッド・クレセントを放つ。当然、徒人も至近距離でブラッド・クレセントが引き起こした爆発に巻き込まれた。だが仕掛けた徒人には目を瞑る間はあった。


 終は確実に爆風に顔を、目を焼かれた筈だ。そのまま徒人は手を緩めず、追撃を図る。ファウストが生きていたのだから勇者である終がこの程度で倒れる筈がない。現にノートゥングはまだ徒人の魔剣と斬り結んでいる。

 顔が爆風による火傷でヒリヒリする。眉毛と髪の毛から焦げた臭いと皮膚の焼ける臭いが気持ち悪い。


「ダブル・クレセント!」


 左右に魔剣を振れない状態なので威力は下がるがゼロ距離からの連続攻撃は2回の爆発を引き起こし、ノートゥングごと終を謁見の間の壁へと叩きつけた。徒人の足元に投げ残った白い錫杖と彼女が被っていたフルフェイスの兜が転がってくる。

 徒人は白い錫杖を拾って額を治してこっちに走ってくるトワに投げて渡す。額の傷は塞がっていたが首元は血にまみれている。


「今治すね。深遠なる闇の下僕たるトワ・ノールオセアンが命じる。傷付き倒れたこの者に安息たる闇の祝福を! 《ヒール!》」


 錫杖を受け取ったトワが迅速に治してくれたが徒人は終がぶつかった壁を注視する。あれで倒れてくれたら良いのだが決闘用の結界は解けていない。


「肺は、呼吸器系は大丈夫? 爆風の焼けた空気を吸い込んでない?」


 徒人は頷いて答えるがトワが再度詠唱を開始する。


「今治すね。深遠なる闇の下僕たるトワ・ノールオセアンが命じる。傷付き倒れたこの者に安息たる闇の祝福を! 《ヒール!》」


 お陰で呼吸が楽になった気はする。

 終の笑い声が聞こえてきた。聞いているこっちの背筋が寒くなるそんな笑い声だった。


「フフフ。そうだった。君はゼロ距離で自分の身をお構いなしに撃ってくるんだった。斬り結ぶとそれが飛んで来るんだった。いけないいけない。ちゃんと対応しないと」


 兜が外れて素顔を表した終が立ち上がる。左頬が焼けただれ、爆発の衝撃で額が割れてそこから流れでた血が右目を塞いでいた。その右目も開かないのが瞼を瞑ったままだ。コバルトブルーの長髪が焼け焦げて一部は彼女自身の血で汚れていた。

 黒い全身鎧を纏う鬼神の如く立っている。


「効いてないのか」


 徒人は忌々しいと言う感情を露わにしてしまう。


「いや結構痛いよ。体中ね。でも立ち上がれるんだよ。勇者って人種は。ラティウム帝國は勇者なんて職は、職業(クラス)は存在しないと言うけれど小生はあると思うんだよ。職業(クラス)の枠に当てはまらないだけでさ」


 まるでのどかな世間話でもするかの如く喋りながら終が立ち上がる。その異様な様は恐怖を与えるだろう。魔王が勇者を恐れる気持ちがよく分かる。それに終は岳屋弥勒などとは耐久力が雲泥の差だ。金属と紙くらいの差はあるかもしれない。


「やっぱり俺はあんたが、勇者が嫌いだ」


「切ないな。ハッキリ言われて悲しまない女子は居ないよ」


 無造作に絨毯の上に転がっていたノートゥングの柄を終は蹴り上げる。それが宙に跳ね上がった所で柄をキャッチして右手だけで一振りして感触を確かめる。


「無理だよ。勇者なんて化物は御免こうむる」


 メンタルが完全に魔王側にある事を徒人は苦笑しつつ、魔剣を構える。


「小生の手にある場合は軽いんだよ。このノートゥングは」


 伝説の武器防具によくあるような話を語る。


「反則ね」


「勇者を懐柔できる魔王も充分反則だと思うけど」


 その一言に徒人はムッとする。隣でトワも面白くなさそうにしていた。考えている事は同じらしい。


「俺は左から行く。トワは右から」


 無言でトワが終の右側へと移動していく。徒人も終の左側へと移動していく。


「挟み撃ちか。小生にはあんまり意味ないよ。前にも言ったかもしれないけどユニークスキルで気配が分かるから」


 やはり左足を引きずりながら右手にノートゥングを持って終が動き出す。徒人にもトワにも対応せず真っ直ぐ歩いてくる。敢えて挟み撃ちの状態に持ち込むように。

 徒人は終の右側に回り込むように斬り掛かる。だが言ったとおりに終はその一撃を軽々と受け止めた。先程よりは押し込めているがそれでも力の差が埋まらない。


「どうした? 力で押し負けてるぞ」


 終が両手持ちして強引に徒人を魔剣ごと薙ぎ払う。徒人は飛ばされて3mほど距離を空けられる。


「天意──」


 終がノートゥングを床に突き刺そうとした瞬間、徒人は床を転がりながら強引に絨毯を引っ張った。それで終の体勢が崩れる。そこに右から回り込んでいたトワが終の左膝へと白い錫杖を振り下ろす。

 一瞬の静寂の中を鈍く痛い音が響く。


「ぐわぁぁぁぁっぁ! ぬぐぅ。よくも!」


 倒れるのを必死に堪えながら終がトワにノートゥングを振り下ろす。トワはその一撃を白い錫杖を盾にして防ごうとする。だが間に合わずに重量を誇るノートゥングの刃がトワの鎖骨を砕き、肩口に食い込んでいた。と同時に傷口から肉が焼けているのか白い煙が上がっていた。


「させるか」


 徒人が終の背中へ斬り掛かる。


「邪魔だ!」


 終がトワの肩口からノートゥングを引き抜き、床に切っ先を突き刺す。この状態からでは分かっていても避けられない。


「天意烈風斬!」


 下から掬い上げるようにノートゥングを振り上げた。巻き起こった烈風と床を構成していた石とが徒人を襲う。吹き飛ばされた徒人は扉近くの壁に叩きつけられた。


 だが身体は動く。急いで立ちがろうとするが身体に上手く力が入らない。目だけでも終の方に向ける。

 終は左膝への攻撃が効いたのか、ノートゥングを杖代わりにして倒れるのを防いでいた。左足からは鎧の外に溢れ出すようにして血が絨毯を赤色に染めていく。それを治すべくして回復魔法を使い出す。

 徒人はなんとか立ち上がる。


 恐らく終は左膝の関節が砕けているのだろう。出なければ先程の天意烈風斬とその間に繰り出された斬撃で右大腿部ではなく胴体を縦に切断されて死んでいただろう。

 自分の右太腿を見る。ノートゥングによって斬り裂かれ、かなりの肉が削ぎ取られ、なんか白い物が見える。恐らく大腿骨だろう。足を斬り落とされたり、骨に異常がないだけマシだと思う事にして回復魔法を唱えた。


「清浄なる光の下僕たる神蛇徒人が命じる。傷付き倒れたこの者に安寧たる光の祝福を! 《ヒール!》」


 徒人の回復魔法は確かに発動したのにも関わらず傷が治らない。魔力が尽きた訳でもないし、魔法を封じられるような追加効果が終の斬撃にあったとは思えない。思い付く可能性に背筋が寒くなるが足音に気が付いて顔を上げた。

 トワが徒人の方にやってきながら回復魔法を唱える。だがその顔は苦痛に満ちていた。


「深遠なる闇の下僕たるトワ・ノールオセアンが命じる。天が与えし定めですらも理の外に置く。この場で傷付き倒れたこの者に安息たる闇の祝福を与え、全ての傷を癒やし給え! 《エクストラ・ヒール!》」


 自分の肩を治しているのだろうが妙に治りが悪く折角再生した皮膚の下で青色が広がっている。恐らく皮下出血が止まらず、顔色も悪い。


「徒人。すぐに治します。少しだけ待っていて下さい。深遠なる闇の下僕たるトワ・ノールオセアンが命じる。天が与えし定めですらも理の外に置く。この場で傷付き倒れたこの者に安息たる闇の祝福を与え、全ての傷を癒やし給え! 《エクストラ・ヒール!》」


 徒人の右太腿の傷が再生していくがやはり治りは遅い。それに回復魔法を使っているトワの様子もおかしい。肩で息をして呼吸も荒い。回復し終えるとぺたん座りと言われる状態で絨毯に膝をついて顔を真っ青にしている。


「ありがとう。無茶しないで。あとその座り方は体に悪いから」


「知ってる。幾ら大人だからって女の子座りを否定されると辛いよ」


 トワは苦笑いを浮かべて冗談を返しているが状態はかなり悪そうだ。長くは持たないかもしれない。早く決着を着けなければこっちが不利だ。回復阻害とは忌々しい能力だ。そりゃ死神勇者と呼ばれるのも分かる。


「完治不可能な傷を無理やり治すとはさすがに魔王だけの事はある。でも自分の命を削っているのなら先は見えている。あと何度も回復出来ないよ」


 再度、左膝を治したのか、終が立ち上がる。


「しつこいな。しつこいのは男も女も嫌われるぞ」


 徒人は立ち上がって魔剣を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ