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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
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第144話 山羊と魚

Sideです

 サラキアの街の中にある寂れた区画にある家屋にドアを壊す勢いで入るなり、待っていたアルビノの少女に向けて剣峰は怒りの声を上げた。


「何故、神蛇徒人にスキルを使った? 小生に任された任務だ。余計な事をするな! 聞いているのか! 魚座の勇者惑海双葉(まどみふたば)


 終の言葉に一切動じる事なく惑海と呼ばれた少女は椅子に座って左手でコミデを弄りながら右手でりんごを持って丸かじりしている。


「あら? 逃げ帰ってきたの?」


 アルビノを思わせる容姿にルビー色の瞳が冷ややかに見ていた。


「違う。用事があると抜けてきた。それより小生の問いに答えろ!」


「送り狼されてたらちょー笑えるけど」


 髪を逆立てる終に惑海は嘲笑混じりに呟く。


「お前よりは対人感知能力はあるさ。そんなドジはしない」


 怒りの収まらない終は一笑に付す。


「あんたがトロトロしてるから手伝ってやっただけよ」


「前にも言っただろう。引き抜きは信頼が大事だと。それを損なうような真似をするな」


 今にも斬り掛かりそうな終を目の前にして惑海は一向に態度を変えない。


「信頼ねぇ。それよりもあんたにしては随分手酷くやられたね」


 その若さに反比例した冷徹な態度で浮かべる冷笑が終の怒りに油を注ぐ。


「再戦の機会があれば汚名は返上してみせるさ」


 それを抑えこんで終は返事を返した。


「再戦ね……無理だと思うよ。多分」


「どういう意味だ?」


「水瓶座に、鴨野のおっさんに直接聞けばいいじゃん」


 惑海は己の近くにあったテーブルの上に載せられている鏡を視線で示す。通信用の魔法の鏡だった。

 終が鏡に手をかざして鏡を起動させる。鏡の鏡面に水瓶座のシンボルの描かれた仮面を被る男の姿が映る。誰かに見られる可能性があるので通信時でも仮面を被っているのは別に不思議な事ではない。


「状況を確認する。小生への命令はまだ生きていますか?」


「その事で連絡すべきだったのだが……君と連絡がつかなくてね。拙僧たち、黄道十二宮の勇者ヒーロー・オブ・ゾディアックは西の魔王軍と手を組んでラティウム帝國を倒す事にした。だから君にも戻ってきてもらう」


「馬鹿げている。鴨野さん、貴方は正気なのか! 西の魔王軍は我々の仲間を手に掛けた相手ではないか! それと手を組むだと? ラティウム帝國への憎しみで正気を逸したのか? 小生は納得出来ない。再考を」


 水瓶座の勇者である鴨野の言葉に終は思わず声を荒げる。

 だが鴨野の反応は冷淡で動じていない。惑海はざまあみろと言わんばかりにニタニタ笑いながらりんごをかじっている。


「これは既に決定事項だ。ファウスト当人は君に対する処置を求めないそうだ。だが拙僧たち黄道十二宮の勇者ヒーロー・オブ・ゾディアックとしてはそうはいかん。君への指令を撤回して新しい指令を出す」


 鴨野は重々しく告げる。


「帰還して謹慎でもしろと?」


「いや違う。君がすべき事は神蛇徒人を討つか南の魔王トワ・ノールオセアンを滅ぼす事だ」


「神蛇徒人は説得できる。それを殺すと言うのか? それでは魔王軍と変わらないじゃないか! いやそれ以下だ! 小生たちはラティウム帝國とも魔王軍とも違うと誓った筈だ。何の為に小生たちは仲間を失い、傷付きながらも生き恥を晒してきたと言うのだ。答えろ!」


 終は怒りと悔しさに歯軋りをする。


「現実を見れば分かる筈だ。ラティウム帝國を倒し、この星を我等の手に取り戻す為に必要な事だ。奴らならば頭が良くないから騙せるしラティウム帝國と潰し合わせられる」


 この2年間に西の魔王軍に加わったと言う新しい軍師の噂を聞く限りそう上手くいくとは思えない。


「両方を討てと」


「いや片方だけで構わない。君の能力なら神蛇徒人の即時蘇生に対抗できるだろう。君が奴を倒すのに一番向いている。相性がいいんだ。もし彼を倒すのが嫌なら彼が南の魔王であるトワ・ノールオセアンが彼を操っている可能性を証明してくれ」


 ようは南の魔王トワ・ノールオセアンを倒せと言う事だ。終が見て話した感じでは四天魔王の中で一番話せる人物だと判断した。その人物を殺すなんて本末転倒としか言い様がない。自分の言葉は黄道十二宮の勇者ヒーロー・オブ・ゾディアック内では何の力を持たないのだと終は確信する。


「分かりました」


 終は己の運命が決したのを感じた。最早、話す言葉など何もない。鴨野はそれを理解していないのか満足気にしている。


「全ては我らの星を我らの手に取り戻す為に」


 鴨野はいつもの言葉を口にするが終は何も言わずに魔法の鏡を切った。元に戻った鏡面には疲れ果てた己の顔が映っていた。


「信頼がなかったのはおばさんの方だったね。何なら手を貸してあげようか?」


 からかう惑海の言葉に終は何も言わずに家屋から出て行く。


「どうせ、双葉の策に乗るしかないのにね」


 終の背にからかうような言葉が響いた。

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