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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
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第141話 悪夢の再来 後編

「ゼロ距離からの必殺技か。男子三日会わざれば刮目して見よと言うがあれから3ヶ月ほどか。面白いぞ。神蛇徒人」


 狐男は左手で顔の血を雑に拭いながら笑う。


「結構いけたと思ったんだがな」


 徒人は壁の上を移動しながらファウストの正面に立つ。彼方も壁の上を起用に走りながら徒人の右前方に移動している。終はまだ上には戻ってきて居ない。最低でも2人で相手をしないと一撃で致命傷を負いかねない。


「そう卑下する物ではないぞ。魔獣人でなれけば死んでいた可能性はある。第一、これほど愉しませてもらったのは久しぶりだ。それより貴様にはがっかりだぞ、剣峰終。遊んでいたのか? さすがにそれはマクシムス・スローン様に失礼ではないか? 無論、我にとってもだが」


先程までとは違い、ファウストは不愉快そうに顔を歪める。その会話の間にも彼方は距離を詰めていた。


「西の魔王だと」


 貴賓席で死神(リーパー)に応戦していたノクスが声を上げる。


「なんだ。知らぬのか? 手柄争いとは小さき者がする愚行よ。では再開といこうか!」


 ファウストが正面の徒人目掛けて突っ込んでくる。右腕が死んでいるにも関わらず物凄いプレッシャーを受けた。正面から対峙したくない。

 だがそれを横から来た終がノートゥングでの斬撃で止めた。


「散々に言ってくれるじゃないか!」


 珍しく終が怒声を上げる。


「少なくとも身が入っているようには思えぬがな。それは目の前の強者に対して失礼であろう」


 終の斬撃をかわしつつ、屈んで足払い。体勢を崩す終、即座に立ち上がって終の頭を狙って踵落としを連携させる。それをさせまいと壁の上を横から回り込むが徒人の位置からでは間に合わない。


「箒星!」


 後ろから突撃してきた彼方が必殺技を放つ。上下、左右、それぞれの斜め4方向からの斬撃で箒を描くように降り注ぐ。

 しかし、ファウストは踵落としを中断して全て両足と左拳で叩き落とした。


「なかなかの技よ。それだけの剣技を得るには気が遠くなるほどの修練を積んだろう。だが惜しむべきは貴様の剣技に武器がついてこれない事だ。肉体を武器と出来ない者の定めよ」


 ファウストは彼方の胸を狙って左の手刀を放つ。喰らえば防具ごと心臓を潰される。

 それを横からの竜巻のような斬撃がファウストを捉えた。体勢を立て直した終のノートゥングに寄るものだ。それを右腕で剣の腹を叩いて軌道を逸らして腹部への致命傷を裂けたもののファウストは大きく飛ばされ、その右大腿部には半ばまで斬り裂かれた傷を負っていた。


「あんまり舐めんなよ。狐野郎」


 今まで見せた事のない怒りの形相で終は獲物に食らいつく肉食獣のように追撃する。


「それは失礼した。では貴様の本気を存分に愉しませて頂こう」


 ファウストが獰猛な笑みを浮かべる。

 徒人は右から斬り掛かった。その一撃を潰れた右手を器用に使い、斬撃を食らわないように捌く。拳法かよ。


「だから貴様はやり辛いのだよ。常に左右の死角から襲い掛かってくる。だがそれでこそ面白い」


「それ、褒めてるのかよ!」


 徒人は言葉を交えながら剣と拳のぶつかり合いを繰り広げる。


「無論だ。命を奪う為だけに組み上げられた剣。本来、剣も武術もそういうものよ。なのに騎士道だの精神論だけを抜かす甘っちょろい剣などとは違う。それこそが命のやり取りを滾らせる」


 反対側から再度斬りかかってきた彼方の斬撃を左の手刀で捌きながらファウストが吠える。この武闘家には命のやり取りに卑怯もくそもない。只々、己も相手も死力を尽くし、生命を燃やし尽くすのが戦いの醍醐味なのだと思っているのだろうか。そしてそれ以外には何の感慨も抱いていないのか。


「もっとも娘、貴様もその手の剣か。修羅道よ。貴様の目は人を殺してきた者の眼だ。どこの戦場で極めた?」


 ファウストの目は彼方を好ましそうに見ていた。だが彼方は一心不乱に長船兼光を振るい、答えない。


「それもありだな」


「どいて! 天意烈風斬!」


 闘技場を下から回りこんだ終が下から掬い上げるようにノートゥングを振り上げた。巻き起こった土砂と風がファウストを襲う。終はそれで体勢を崩したファウストに対して両足を踏ん張ってノートゥングを振り被って切っ先を後ろに逸らす。神零断罪撃を放つ構え。

 終は飛び上がってファウストに斬り掛かった。


「神零断罪撃!」


「奥義・無明!」


 神零断罪撃の発動と同時にファウストは掌底状態の左手に魔力を集め、それをカウンター気味に放つ。

 一瞬の交差の後、闘技場の壁に叩きつけられた終。肩から斬り落とされて宙に舞うファウストの左腕。


「ごはっ!」


 終は血を吐いた。よく見れば全身鎧の胸部に右側、肺の当たりに亀裂が入って金属が砕け、穴が開いている。

 徒人は斬り掛かるべく壁の上をジリジリと詰め寄る。彼方も同じ事を考えているのか、挟み撃ちにするように反対側からファウストに近付く。


「どうやら決着を着ける時だな。嬉しいぞ」


 左手を肩から失い、右手も殆ど使えない中で追い詰められているのに関わらず、ファウストは全く動じずに心底愉しそうに笑う。くそ、本当にこいつは化物だ。

 ファウストの闘気がドンドン膨らんでいく。そして奴が動こうとした瞬間にそれは起きた。


「ブラッディ・メテオ!」


 その言葉と共に闘技場全体に隕石と思しき火の塊が降り注ぎ、その場に居た敵味方関係なしに吹き飛ばす。


「邪魔をするか! メフィスト! 戦士の戦いをなんと心得る!」


 ファウストが怒りの声を上げる。だが隙はない。

 その視線の先に、コロッセオの観客席にかつてメフィストと名乗った女性と思しき声の持ち主が佇んでいた。金髪碧眼の容姿とは違い、頭頂部に猫耳。ショート銀髪で蒼い瞳を持つ賢者みたいな服装だった。


「もうこんなもんでいいだろう。奴らへの義理は果たした。お前がここ潰れたら話が台なしだ。再戦はその傷を治してからでも良かろう」


 次の瞬間にファウストの隣に居てその手にファウストの左腕を抱えている。


「興が削がれた。次の機会にするとしよう。それまでに死ぬなよ。神蛇徒人と……」


 ファウストが徒人から視線を彼方に移した。


「彼方。刀谷彼方」


 彼方は名前だけを答えた。


「また会おう。刀谷彼方」


 その言葉だけを残してファウストとメフィストは旧コロッセオから消えた。その闘気も。今までの激しさがなかったかの如く──一瞬だけ台風の目かと錯覚する静かさだった。


「待って。追うよりも死神(リーパー)を!」


 近くにいて死神(リーパー)の式神と戦っていた祝詞が叫んだ。空間をワープした相手は追いようがない。ならばこの場にいる死神(リーパー)から倒すべきか。徒人はコロッセオを暴れまわる死神(リーパー)を無視して和樹と十塚と交戦している死神(リーパー)たちへと走る。

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