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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
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第138話 君は蠍座の……

 祝詞に助けられながら徒人は自宅に戻ってきた。[気配察知]スキルを使いながら追跡されているかを確認したが誰も追ってきてない。もっとも徒人のスキルでは本職の十塚には及ばず天性の才能を持つ彼方や終には敵わないが。


「徒人ちゃん、酷い顔やな。なんか遭ったんか?」


 門を潜ると上から声がした。屋根の上に登った終が体育座りで黄昏れている。近くには木製のハシゴが掛けられており、これで屋根の上に登ったようだ。勿論、いつもの全身鎧ではなく長袖長ズボンと言う出で立ちだった。


「剣峰さんこそ酷い顔してますよ」


 怪訝な視線を送る祝詞がため息を吐く。こっちはこっちで忙しいんだから厄介事を増やさないでくれと言いたげだ。こういう時に全く顔に出ないのも凄いと感心させられる。


「うちか。……ちょっと頼み事をしようと思ったんやけどまた来いって言われてもうた。先方さんを怒らせるつもりはなかったんやけどヘマしてもうてな。もっと仕事のできる女やったら良かったんやけどな。うち、下っ端やったから」


 それだけ言うと終は俯いて黒いオーラを放ちだした。それだけで彼女の年齢が下がって見える。


「そうですか」


 それだけでは何の事か分からないのか祝詞は曖昧な返事で流す。


「ってうちの事よりも徒人ちゃんはどないしたん? 肉体的になんか遭ったようには見えへんけど」


 俯いていたのは一瞬ですぐに終は顔を上げる。

 祝詞はその一言に黙りこむ。


「なんか魚座の勇者にスキルを掛けられたみたいで」


 徒人の返答に終は微かに表情を曇らせ、唇を噛むような仕草をした。


「……そんな事があったのか」


 終の口から発せられたのは怒りを押し殺すような一言だった。


「徒人ちゃんの体は大丈夫なんか?」


 続けて徒人の体を心配する言葉を続ける。嘘を言ってるとは思えない。


「ええ。一応、大丈夫だと思います」


「一応か。その様子だとよく分からないと言う感じやな。悪いけどちょっと屋根まで上がってきてくれるか?」


 終は右手で手招きする。


「登れる?」


 小さな声で祝詞が聞いてくる。徒人はああ。とだけ返した。

 先に中に入っている。とだけ告げてリュックサックを背負ったまま祝詞は玄関から家の中に入った。


「なんとか」


「本当に行けるんやな? 滑り落ちましたとか止めてな。徒人ちゃんが頭打って死にましたとかそんな洒落にもならんの要らんからな」


 ハシゴを登ってくる徒人に終は心配そうに見つめている。その表情に嘘はないように思えた。


「はい」


 屋根の上に辿り着いた徒人に終が手を差し伸ばす。


「ありがとう」


 徒人はその手を取る。軽々と引っ張り上げる終に礼を言って隣にあぐらをかいて座った。


「一応、体は大丈夫そうやな。伝承によると魚座は感情をコントロールすると聞いてるから気をつけ。味方への信頼を奪って同士討ちさせるかも知れへんから気をつけてな」


「よく知ってますね」


 終はその一言に苦笑いを浮かべているように見える。


「そうやね。昔調べたから……オルクスの居た屋敷の庭で不覚を取った時に途中から起きてたんやけど徒人ちゃんは勇者と取引を突っぱねたんや? と言うか、みんなに言わんでよかったんか?」


 終は本題を切り出してきた。徒人を屋根に上げた理由はこれだろう。


「何分センセーショナルな事だからパーティメンバーには伏せました」


 勿論、アニエスと祝詞は知っているので嘘になる。だがあの2人はパーティメンバーと言うよりは従者と同盟者と言った方がしっくり来るので徒人の認識的には嘘は言ってない。他者から見れば詭弁だが。

 終はその言葉に黙り込む。考え込んでいるように思える。


「それで勇者たちへの返答はどうするんや。受けるの? 断るの?」


「断りますよ」


 徒人は正面を向いたまま少しも迷わずに答えた。終は出方を見るように黙り込んでいる。


「随分はっきりしてるな。それは仲間の為なんやろう?」


「半分そうであり、もう半分は自分の為です」


「なあ、もし、もし、徒人ちゃんが勇者やってもその誘い断るん?」


 終が今までよりもかなり間を置いて問い質す。今までの問いよりも口調こそ変わらないが徒人は多大なプレッシャーを受けるのを感じた。


「答えは変わりません。自分が勇者とかありえないし」


「仮の話や。仮にそうやったらどうするって聞いてるんや」


 徒人の強情な答えに終は軽く呆れたように聞き直す。


「……それでもやる事は変わらないよ。俺は俺だ。万が一そんな間違った存在(もの)になってしまったとしても行動は変わらないよ。こっちは答えたんだからそっちも聞かせてくれ。神零断罪撃はどういう技でどういう風にやるのか教えてくれ」


 徒人は終が答えないと思っていた。別に大した答えが返ってくるとは考えていない。


「神零断罪撃の効果は即死。アンデッドや霊には無意味やけどな」


 終はあっさりと答えた。嘘なのか、真実を言って撹乱しているのかそれとも別の思惑があるのか、徒人には真意が読めない。


「それでグリーンドラゴンが一撃だったのか」


「そうそう。で出し方はな……」


 終は屋根から飛び降りて庭で大剣を持つ仕草をして実演し始めた。黙ってみていた徒人を庭に降りてくるように言って最後には後ろから動きを指導していた。

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