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第14話 トワ様がガン見してる

 朝食後、気まずい雰囲気にしてしまった食堂を出た。

 そしてメイドに案内されて図書室に通された徒人とアニエスは勇者に関する資料を探し始めた。妖精みたいな小さな司書曰く最近幹部があさったから埃は被ってないない筈と右奥の棚を指差した。


「虚ろ目は魔王様の愛情表現です。サキュバスに関しては踏み込みすぎで無謀でしたけどね」


 徒人はその発言が信じられずにアニエスを見る。彼女は本棚の向こう側に消えていった。


「執事の人が超睨んでたな。命の危険があるかも」


「ご主人様、あれはよくぞ言ってくれたと言う目ですよ。みんな、サキュバスに対してイマイチ強気に出られない魔王様にはちょっと困ってましたから……焚きつけるくらいで問題ないかと」


 棚の向こう側に居るのでアニエスの表情が見えない。声は真剣そのものだから嘘は吐いてない筈だが──徒人には人間といや日本人と魔族と感覚の違いに戸惑う。

 地雷踏みに行ったのは徒人の責任だと言うのは理解しているが。


「具体的に何やらかしたんだ?」


「戦の際に敵味方関係なく魅了して大損害を起こしたりとかずっと引き籠もって会議に出なかったり……その他色々です」


 応えたのはアニエスではない。聞いた事のない女性の声だった。


「どこですか?」


「勇者の資料を閲覧に来たのなら? こちらですよ」


 奥の方へと徒人が早歩きで本棚の林を抜けると隣にアニエスが居た。そして彼女の視線の向こうには金色の全身鎧を着た人物が立っている。どうやら声の主らしい。


「クシシュチャールか。久しぶり」


「アニエスもご無事で何よりです。そちらが徒人殿ですか。拙者はクシシュチャール・フルシュカと申します。五星角(ごせいかく)の1人で騎馬部隊の隊長で幹部やらせて頂いてます」


 先程から話し掛けてきた見知らぬ女性が名乗った。


「こんにちは、いえ、初めまして。噂らしい神蛇徒人です」


 異世界の礼儀と言うか、魔族の礼儀はよく分からないので適当に頭を下げておく。クシシュチャールが兜を取って一礼した。だがあるべき顔がそこにはない。リビングメイルだったのだ。

 徒人は思わず変な声を上げてしまう。横からアニエスの軽いチョップが飛んできて避ける暇なくその一撃を食らってしまう。


「あ、痛ぇ。アニエス。何をする?」


「ご主人様、何があっても隙を作ってはいけませんよ。この黒鷺城ではこういう事は日常茶飯事なのですからこれくらいで隙を作るとばっさり斬られますよ」


 アニエスを睨み付けるが言ってる事は間違ってないので徒人は叩かれた所を擦りながらただ睨むだけにしておく。


「アニエス、相変わらず貴殿は忠臣ですな。給金が増える訳じゃないのに意固地と言うか真面目と言うか……」


「貴女のように給金分しか働かない人にとやかく言われたくありません」


「アニエスの方が忠誠心高いんだ」


 徒人は余計な事を口走ってしまった。


「当たり前じゃないですか。だからこそ主が嫌な事でも言うのが臣下の務めでしょうに」


「アニエスが真面目な事を言ってる。中二ポーズさえ取らなければまともなんだ」


 メイドの反応に徒人は感心した。ただし、当人は主を睨み付けていたが。


「話はそこまでに……これが一番詳しい勇者の資料かと」


 見かねたクシシュチャールが辞書みたいな本を差し出す。徒人はそれを両手で受け取る。表紙を金属で補強されてるせいかかなり重い。こっちに来て鍛えたにも関わらずその重さに徒人は顔が青くなる。表紙には《勇者について》と書かれていた。


「取り敢えず中身を見てみるか……俺に読めるか分からんが」


「それは大丈夫かと」


 徒人はアニエスが向かった先にあった長机に辞書みたいな本を急いで下ろす。


「重たかった。それで何ページなんだ? この付箋が付いてる箇所か」


 言ってみた物の黄色い付箋や赤い付箋が貼ってあってどれだか分からない。


「赤い付箋で1163ページ目の第15章です」


 クシシュチャールの言葉通りに徒人は立ったまま本を開いてその箇所を読んでみる。どうやらスキルのお陰で読めるようだ。そこには以下のような事が書いてあった。一般的な定義が書いてある部分は飛ばして最低限の事だけを読む。

《人間の伝承によると勇者とは魔族の長を倒し世界を救う者と定義されているが実際には突然変異による驚異的な身体能力または特殊なスキルを身につけた人間で特殊な波動が出ている事がある。

 特殊な波動は光の波動で普通の魔族や人間には感知できないらしく一部の特殊な魔族のみがそれを感知できたと言うらしい。ただ、勇者と呼ばれる人間が必ずしもこの光の波動を出している訳ではないの事に留意せよ》と書かれていた。


「波動はアニエスには分かるけど他の魔族には分からない人の方が多くてしかも出してない事も多いのか……全然解決してない」


 徒人がアニエスを見る。彼女は何故か無表情でそのページを黙って見ていた。


「どうかした?」


「いえ。余り面白くない事実を意識してしまっただけです」


 アニエスが答えると同時に図書室内部に風が吹く。その拍子で本のページがめくれて魔王神に関してと書かれていた。


「これは……」


 アニエスとクシシュチャールが微妙な反応を返す。


「それは別の機会にしておきましょう」


「同感だ。嫌な視線がしますし」


 その言葉に徒人が何気なく風の入ってきた入り口の方を見る。トワが本棚に隠れるようにこっちを見ていた。風呂桶を手に風呂に入るような支度をしていた。

 どっかの家政婦シリーズみたいだな。見た事はないが──


「トワ様がこっちを見てる」


「そろそろ向こうへ帰りましょう。面倒ですし」


「拙者もそれが良いと思う」


 徒人の言葉に2人は揃って帰る事を促す。


「徒人、わたしと一緒にお風呂に入りましょう」


 トワの声が隣からしたと思えば、徒人の隣に彼女が立っていた。しかも左手で二の腕を掴んで離さないようにしている。


「魔王様、そろそろ戻った方が向こうを誤魔化す事が出来るかと……」


 クシシュチャールが進言している間に徒人の体は図書室の出口の方に引っ張られていた。


「トワ様? なんか強引に引っ張られてる気がするんですが」


「取り敢えず、EDの件が何とかなるか試してみましょう」


 徒人は2人が止める間もなくトワに引っ張られて強引に浴場へと連れて行かれてしまった。

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