第133話 博打を打つのは嫌いじゃない
夜が明ける手前、徒人と終は稀人専用の酒場で祝詞たちと合流し、情報を共有していた。
触りだけ聞くと死神は全員の所に現れたが陰陽師が出てきたのは徒人が向かったオルクスが保護されていた館だけらしい。
「大体、徒人ちゃんの話した通りや。そっちはどうやったん?」
終が徒人に説明させるだけ説明させて話を締める。
「こっちは鎌で戦う死神が襲ってきた。よく分からない幻覚を打ち破るのに手間取って護衛対象を守れなかったよ」
祝詞はため息を吐いた。徒人も遅れを取ったのは事実なので責めるつもりはない。
「そっちはどうだったんだ?」
「そもそも足止めされただけで逃げられた。情報が漏れたのか、それとも俺たちと戦うつもりがなかったのか……分からん」
徒人の問いに和樹が頭を振る。
「取り敢えず、話を纏めると神蛇さんのところには水瓶座の勇者と名乗る男と山羊座のシンボルマークが書かれた死神らしき男が出てきた。当方たちの所は市井の情報通り、鎌を持った死神が出てきた。で……」
彼方はそこで和樹を見る。
「こっちは黒ずくめの姿の死神だらけだ。なんか足止めっぽい集団だったけどな」
「恐らく幻影を見せる術で勇者の特殊能力の可能性があります」
和樹の説明するようにアニエスが口を挟む。
「二箇所同時にか? 妙に強力な能力だな」
徒人が右手で額を抑えた。
「水瓶座の他にも勇者が動いていたと考えるのが妥当か。じゃあ、死神と思しき山羊座と陰陽師らしき水瓶座ともう1人幻影使いが居る訳か」
「それだと都合3人の勇者が居る訳ですね」
祝詞の言葉にアニエスが付け加えた。
「どういう意味だ?」
「600年前の資料によると幻影を得意としているのは魚座の勇者だったと言う説がありますので……そこから引用しました。水瓶座の勇者を名乗った陰陽師が本物なら少なくとも勇者と思しき人間が3人居ると言う事になりますね」
徒人の問いにアニエスが補足する。確か黒鷺城のメイドが600年前の資料は当てにしない方がいいと忠告したせいか。
「それなら言ってくれよ」
「あ、それは……アニエスの同僚がその資料は当てにならないと忠告してくれたから黙ってたんだと思う」
和樹が面白くないと言わんがばかりの表情になった。
「師匠。ご主人様の言うとおりです。だから黙っていたのですが……自分の落ち度でした。ですが1つだけ訂正させて下さい」
アニエスの目が真剣だった。全員が息を呑む。
「なんだ?」
「あれは部下です。同僚ではありません」
聞き返した和樹は微妙な表情をしている。徒人を見てすまなかったと言いそうな雰囲気だ。
徒人は首を横に振って気にするなと一言返した。重要なのはそこかよとアニエスにツッコミを入れたくなるが祝詞が話を進めたがっているように見えたので黙っておく。
「じゃあ、伝承と言うかそれに載ってる山羊座と水瓶座の能力は?」
祝詞が問い質してきた。
「山羊座は山羊をモチーフにしているだけあって悪魔の捧げ物を意味する場合もありますが」
そこでアニエスは話を区切って周りを見てから言葉を続けた。
「神=悪魔でもあって死神を示す文献もあります。その影響か山羊座は死神勇者と言われています。600年前の戦いでも魔王の手先をその即死付随能力や不死を無効にする力で次々と打ち倒した危け、んん、最強の名に最も近い勇者と言われています」
「俺たちにはその内容を話しても気にしないんだ」
和樹が茶々を入れるが祝詞は周囲に視線を配っていて怒っている気配はなかった。
「日本人は何でも祭りますと聞いていますから。それに皆さんと居た時間でそういうのは感じ取りました」
「俺たちは祟り神でも崇めるからな。特に祝詞は……」
徒人は自分たち日本人の宗教的に節操がないと言うか大らかさに苦笑しつつ、祝詞に振る。彼女はニタニタと笑っていた。そこは怒れよと思わなくもないが承認されてると思われたのだろうか。もっとも徒人はお百度参りとか御礼参りを否定する気はないが。
「続きですが水瓶座はよく分かりませんが召喚に絡んでいるとは言われています。600年前は召喚士として腕利きだったと伝わっています。ですが細かい事は伝わっていません」
「片手落ちなんだ」
黙々と腹ごしらえをしていた十塚が口を挟む。こんな時間でもガツガツと食えるんだから凄い。
徒人と視線が合うと十塚は厚焼き玉子とハムのサンドイッチを一切れ差し出してきた。食べろと言う意味のようなのでそれを受け取り、口の中に含む。味は悪くはないけど塩が効きすぎてる気がする。
「そもそも12人も居たら掘り下げてる話の量が違いますし。きけ、いえ、もっとも有名な山羊座の勇者に関してはエピソードとかも多かったので自然と情報量が増えたりするんですよ。魚座の勇者は大群を幻惑して仲間を救ったとかありますから」
アニエスの口ぶりからすると山羊座は魔族の間ではかなり危険視されているように思える。
「蠍座の勇者はどういう能力なんだ?」
徒人はサンドイッチを食べきり、つい下らない質問をしてしまった。
「あ、えーと山羊座と共に行動していたようです。普段は目立たないんですが要所要所で出てきて戦場をかき回して離脱していたとか。何でも彼の目が魔王軍の足を止めたり地味に活躍してたとか聞いています」
アニエスは微妙な間があってから答えた。パーティメンバーには聞かせたくなかったのだろうか。
「勇者の情報はおいおい聞いておくとして私は1つ考えがあるからみんなに聞いて欲しいと思っている」
「またパーティー解散とかギャグ飛ばさないよね?」
彼方が胡乱げな目付きで祝詞を見る。
「今回の件で分かった。戦力を分散したら私たちは勝てないし遅れをとる。こうなった以上、総力を結集して事にあたる」
祝詞の翠の瞳は飢えた狼の如く爛々と輝いている。
「護衛対象はどうするんだよ? 分散してるぞ」
和樹が疑問を口にした。
「一箇所に集まってもらう。丁度、街外れにある旧コロッセオで行われる儀式があるからそれを利用する」
「それで失敗したら護衛対象さんが全滅やね」
祝詞の意見に終が私感を述べる。
「だからこそ、私は博打を打つ。私に喧嘩を売った事を黄道十二宮の勇者に必ず後悔させてやる」
その時の祝詞は全身から黒いオーラが出ているかのような雰囲気を醸し出して魔王その存在だった。




