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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
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第124話 彼らの身体は彼女の供物(もの) 後編

 蛇腹剣の軌道から狙いは徒人ではなく左に居たアニエスだ。彼女は敢えて避けようとせずにそれを迎え撃つ。

 先程よりは少しは冷静になった徒人はその隙にヴァルトラウトに右側から斬りかかった。それも予想していたのか、蛇腹剣を引き戻して徒人を後ろから攻撃しようとする。だがアニエスがくないを投げて蛇腹剣の関節部分に当たってそのギミックを阻害する。

 アニエスが蛇腹剣を止めている間に徒人の魔剣がヴァルトラウトの左腕に振り下ろされる。相手は受けるまでもないと思っているのか避けようとすらしない。

 魔剣が腕の内側をかすめ、傷口から緑色の液体が溢れだす。


「通った」


 徒人は更に追撃を掛けようとするが足払いと腹部への蹴りをもらって動きを止められてしまう。その隙にヴァルトラウトは蛇腹剣を引き戻して剣状に戻してアニエスを牽制する。


「多分、魔剣が刀身に受けた汚泥の力があいつの戻ろうとする力と誤認してダメージを与えたのかと」


「この程度の欠陥など」


 ヴァルトラウトは蛇腹剣を分解して蛇の如く襲い掛からせる。アニエスは複数のくないを投げて連結部分を狙うがまたも弾かれてしまう。己を狙う蛇の噛みつきを回避してアニエスはヴァルトラウトへと向かう。

 蛇腹剣はその勢いを衰えさせずに徒人を狙う。

 徒人はその一撃を真剣の腹で受けてズボンから引き抜いて居たベルトを蛇腹剣の関節部分に巻き付けて拘束する。


「人間の分際で力比べなど興じさせてくれるではないか」


 ヴァルトラウトは蛇腹剣を引き戻す。勿論、徒人に力比べをするつもりなどないし、先行してるアニエスにぶつけられてやるつもりもない。

 ほんの少しだけ踏ん張った後、徒人は蛇腹剣を引き戻す勢いに任せてヴァルトラウトに迫る。驚いた彼女はアニエスにぶつけようと軌道を変えた。

 アニエスはそれを見こうして居たのか大きくジャンプして建物の屋根に逃げた。

 目標を失った蛇腹剣は勢いをつけたまま主であるヴァルトラウトに元に戻る。ベルトを手放し、その勢いを利用して徒人は交差した瞬間に魔剣で草を刈るが如くヴァルトラウトの首を狙う。

 ヴァルトラウトは首を半ばまで斬り裂かれて緑色の液体を撒き散らし服を緑色に染める。

 やったか。などとは言わない。

 徒人の考えが正しいのなら北の魔王は強すぎるが故に自分の力を落として同格の人間と戦った経験がない為に力押しが出来ない状況では戦闘に関する駆け引きが苦手なように見えた。


「まだ生きてますね。と言うか動いていると言うべきなのでしょうか」


 屋根から降りてきたアニエスが忌々しげに呟く。その視線の先には首がもげ落ちそうなヴァルトラウトが微かに焦っていた。その様子は腹話術師の動かす人形だ。雑踏の中なら気取られないだろうがこうして単体で見ると滑らかに動いてない。急ごしらえだったのか後ろの終と戦っているヴァルトラウトの他にも操っている人形が居るせいだろうか。

 切断された部分をよく見ると中身は生物的な肉の色ではなくミンチにした肉を詰め込んで骨の代わりによく似た金属を作りそれで骨格を形成している。身体の内側或いは腕の外側だけ戦闘用に改良していたのか──

 いずれにせよ、サキュバスと違って血液にあたるものに毒が含まれていないのは幸いだ。人間に溶け込む為に毒の成分を抜いたのか。

 僅かな隙をぬって終の方を見る。さすがに上級職のパラディンだけあって何とかもう1体のヴァルトラウトを押さえ込んでいた。彼女が持ちこたえている内にこっちを追い払うかこの人形を破壊するしかない。

 他の4人を見ると彼方は立っているのがやっとで和樹は援護しようにも手が出せないようで十塚は祝詞を守る事に集中していた。どこにヴァルトラウトの伏兵が潜んでいるか分からなければ動けないか。


「偉そうな割には頑強なだけで大した事ないな」


 徒人は一言だけ煽ってやった。弱点は教えない。学習されたら面倒だ。これは本体ではないのから。もっとも情報からすると本体ならこのサラキアの街ごと潰して徒人たちもついでの殺せるだろう。だが今は動けないと見るべきなら魔骨宮殿のあの肉体は本体に近い物だったのかもしれない。

 煽りを受けてヴァルトラウトのアメジストの瞳に微かな苛立ちが宿っている。


「いやいや。済まないな。見くびっていたよ。こういう痛みも愉しいな。双子座の勇者もこういう体ならば少しは愉しめたのか」


 ヴァルトラウトは破れた布を思わせるだらしない垂れ方の首を元の位置に戻して接合する。そして左手で首元をなぞると傷口は最初からなかったかのようにスッと消えていった。


「ちぃ! マゾか」


 和樹が忌々しそうに言った。


「師匠」


 アニエスが有無を言わせない強い一言でそれ以上の言葉を言わせなかった。和樹も意図を察して押し黙る。


「本当に不愉快よのぅ。ハーフ魔族の雑音め」


 ヴァルトラウトは蛇腹剣を構えて攻撃の姿勢をとる。


「お前を喜ばせる為に他者が存在している訳ではない」


 アニエスはどこからか取り出したのか、複数のくないを取り出す。


「なら貴様は消えろ!」


 蛇腹剣が3度口を開けて襲い掛かってくる。狙いはアニエス。

 迎え撃つアニエスは蛇腹剣の関節部分に複数のくないを投げる。徒人は彼女に策があると考えてヴァルトラウトに向かって走った。


「無駄なあがきを」


 だが結果はヴァルトラウトの考えた結果とは違った。関節部分にくないを受けた蛇腹剣は先端を失ってバラバラに砕け散った。


「なっ!?」


 ヴァルトラウトが驚愕の声を上げている内に詰め寄った徒人は袈裟斬りに右肩から左脇腹を斬り裂く。後ろに回って魔剣で心臓のある位置を突き刺す。そして魔剣を捻って引き抜く。緑色の液体はバケツに穴を開けた感じで胸と背中から溢れだしている。

 これでどうなる訳ではないが人形が壊れればこの場はどうにかなる筈だ。


「まさかここまでボロボロにさせられるとはな」


 生物なら完全に致命傷である一撃を受けてヴァルトラウトの人形は平然と立っていた。


「面倒な奴だな」


「武器を破壊された対価に今日は引いてやろう。次はもう少しマシな出し物をご用意しよう。だが覚えておくがいい。お前たちの運命など決まっているのだから」


 徒人の言葉に負け惜しみとも取れる言葉を残して蛇腹剣のヴァルトラウトは大きく後ろに飛び去り、逢魔が時の影の中へと消えて行った。

 終が相手をしているヴァルトラウトに向き直ると飛んできた錫杖らしき物に串刺しにされ、標本にされた虫のように石畳に縫い止められた。それを見逃すほど彼女は甘くなかった。


神零断罪撃(しんれいだんざいげき)!」


 両手に槍を持っていたヴァルトラウトは頭からその一撃を貰い、ノートゥングを受けた部分は潰された釘の如く押し潰れ、真っ二つになって機能を停止した。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は215になりました。魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は330になりました。[人形破壊師]の称号を獲得。[人形破壊師]の称号の効果で[対物質系特攻2]を習得しました。神蛇徒人は[対物質系特攻2]を習得しました】

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