表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
124/368

第121話 心臓の回廊 棺の間

 あれから幾度かの戦闘を繰り返した後、ようやく心臓の回廊に辿り着く。心臓を思わせる青と赤の2つの血管を表したグロテクスな天井と床と壁以外は何にもない広い空間の中央にその棺の間らしき部屋が存在していた。


「これ以上グロいのは勘弁して欲しいな」


 和樹が呟く。ここでボスが居ますとか北の魔王と強制戦闘ですとか言われたらこっちは持たないだろう。

 十塚が戦闘で罠と気配を探りながら先頭に立って棺の間の扉に辿り着いた。その扉だけは無機質な扉で生物の体的な模様も特徴もなかった。逆にそれが不気味さを引き立てている。


「鍵は掛かってるけどこれなら開けられる」


 十塚はすぐに道具を取り出して解錠を始める。

 徒人は扉と何も存在しない空間を見渡す。

 天井に床に壁、全てが微妙に動いているように見える以外は何もない。その時、カチャと金属音が響く。祝詞がボイス・ウォールを使用しているのにも関わらず、音に反応して悪魔とかが出て来るのかと思ってしまう。


「開いたよ」


 十塚が祝詞に確認を求める。


「開けて」


 祝詞の硬い声と共に十塚が扉を押す。扉が呪いの声でも上げるかの如く軋んで音を響かせる。扉の向こうにあったのは今までとは違う普通の玉座の間を思わせる部屋でそれなりの広さがあった。

 その中央に玉座の代わりに黒い棺が垂直になっており、四方八方から鎖に繋がれて底を鬼かガーゴイルかよく分からない3体の石像に支えられて担がれていた。吸血鬼が入っているかのような棺で不気味な事この上ない。


「これでお棺だったら笑ってやったのに」


 彼方が相当苛立っているのか笑えないジョークを飛ばす。全員笑えずにただ黙っている。


「これ棺を開けるのに難儀する展開なのかな」


 祝詞がゆっくりと棺の間に入りつつ頭を掻く。


「確か鎖は飾りと聞いています。棺を持って行こうとしなければ……」


「これ確か透明になる仕掛けがあったような気がするけど」


 アニエスの言葉を遮って終が発言した後、気が付いて押し黙る。


「いえ。仰って下さい。自分の話が間違っているのなら訂正してくれた方がいいかと」


 徒人はその一言に微妙な違和感を覚える。アニエスよりも詳しいのはどうしてだろうかとも思わなくもない。


「あまり気が進まない提案だけどそこの扉を閉めてもらえば分かると思う」


 終が微妙な表情で指示する。

 全員が棺の間に入ったのを確認してから十塚が扉を閉めた。同時に音が鳴り響き、全員が一斉に武器を取り出して戦闘態勢に移る中、天井が開いて血のような赤い液体が棺に降り注ぐ。流れでた赤い液体は石像を伝って床の一部に飲み込まれ、棺の色が漂白されるように流れでた黒色も同様に飲み込まれていく。


「これ、この部屋に人が居ないと起きない現象だよね」


「毎回、これが起きてたら北の魔王は生きてる事になるよな」


 祝詞の問いに徒人は魔剣をいつでも抜けるように柄を右手で握る。


「じゃあ、これ保存液とかそんなのなのかな?」


「起き上がってくるのか?」


 全員が緊張する中で天井から流れ出る赤い液体は止まり、棺は脱色されたかのように黒色は全て抜け落ち透明の棺へと入れ替わったのかと見間違えるように中身が見えていた。

 棺の中に入っている人物はネグリジェみたいな服装で白すぎて色素が抜けてピンクにも見える肌に長身で柘榴(ざくろ)色の腰まである髪に開いたままの瞳はアメジストが収められている。


「これが北の魔王?」


「間違いないよ。確かに北の魔王や」


 徒人の言葉を肯定するように終が声を絞り出した。


「柘榴色か。当方、柘榴は嫌いなんだよね。種がキモくて」


「人体を模した宮殿に人肉に置き換えられた柘榴の髪を持つ主か。因果なのかそれとも……」


 彼方に十塚が口々に感想を述べている。


「真実の鏡を使います」


 アニエスは真実の鏡を取り出して北の魔王に単独で近付いていく。そして魔王の映る角度に鏡を掲げる。だが幾ら待っても何も反応は起きない。本当に北の魔王はここでずっと眠りについているのだろうか。だとしたサキュバスを操っていた人物が北の魔王だと言うのはアニエスの勘違いなのか。


「何も起きないな」


「ご主人様が代わりますか?」


 アニエスの言葉に徒人が真実の鏡を受け取り、角度を調整して北の魔王が映るように前へ移動する。微かに音がしたと思えば、棺にヒビが入り始めた。


「俺、なんかまずい事をしたかな」


 徒人は真実の鏡を落とさないように左手で持ち、魔剣を右手だけで抜く。


「徒人ちゃん下ろすな。もう少し様子見よ」


 振り返ろうとすると終に止められた。その間にも棺は崩れ落ち、床に落ちて砕ける。北の魔王が棺とそれを繋いでいた鎖から解放されていく。


「絶対戦うパターンだよな?」


 和樹がロッドを構えて呟く。その顔には汗が滲んでいる。最後の欠片が床に落ちた。そして北の魔王が完全に解放された瞬間にその体は棺を支えていた像から滑り落ちて像に首をぶつけて首から上が飛び、体は床に叩きつけられてガラスの如く砕けて四体がバラバラになる。

 その余りに予想外の出来事にその場に居た全員が凍りつく。


「えっ!? え!? 何? 何が起きたの? 幻影? それとも油断させる為の罠?」


 祝詞が反応するが誰も答えられない。

 いち早く行動を開始した終が手に持っていたノートゥングでバラバラになった身体の一部、大腿部を突いて確かめている。だが芯まで凍り付いていたのかあっさり砕けてしまった。

 アニエスは手袋を取り出し嵌める。確認の為に北の魔王の身体に触れているが無表情で感情が読み取れない。


「……これは恐らく北の魔王ではありません。他人の人体を組み合わせて作った偽物でしょう」


 アニエスは魔王の身体の一部を拾い上げて術符らしき物で包む。そしてそれをワープポットらしき布袋にしまい込んだ。


「アニエス、呪われたりしてないよな?」


「大丈夫ですよ。対策は過剰なまでにやってきましたから。とにかくどんな罠があるのか分かりませんから魔骨宮殿から離れましょう。これが罠でない可能性は捨てきれないのですから」


 徒人の心配にアニエスは腕にしている退魔護符やらなんやらを見せる。お前はどこの宗教を進行してるんだとツッコミを入れたくなった。


「和樹君、脱出魔法をお願い」


 祝詞が素早く指示を飛ばす。


「地の底より陽光を望む。我らに見えざる道を示し、この迷宮より解き放て! 《エスケープ!》」


 和樹の脱出魔法により近くに大きな楕円形の穴が出現し、魔骨宮殿の外らしい風景が見た。棺の間からは直接出れないとかそういう魔法が掛かっては居なかったようだ。


「一応、うちから行こ。なんかあった時の為に」


 終がノートゥングを持ったまま、楕円形の穴に飛び込んだ。他の全員は反応を待つ。


「大丈夫や。ちゃんと外に繋がってるわ」


 その言葉に続いて徒人たちは全員魔骨宮殿から外に出た。

 外は雨が降っており、空はドス黒く厚い雲に覆われていてあまりいい状態ではなかったがそれでも棺の間に留まるよりはマシだった。


「普通に襲われた方がマシだな。なんでこんなにモヤモヤして気持ち悪いんだ」


「師匠、それは北の魔王は何よりも人を恐怖させ不安に陥れるのが大好きだったそうです」


 アニエスの返答にその場の全員が黙り込んだ。

 魔骨宮殿の作りを見たらそれだけは絶対に間違いないと確信させられる。

 取り敢えず、北の魔王がこの世界から居なくなったと言うのは確実に嘘なのは分かった。問題はそれが徒人呪いを掛けた理由、サキュバスの魂を砕いた理由に繋がるのかさっぱり分からなくなってしまった。

 今の時点で分かった事は北の魔王は偽装を凝らしてまで自分が活動してる事を知られたくなかったくらいか。

 凡庸に棺の間で襲い掛かられた方が気楽だっただろう。

 徒人は雨に濡れながら天を仰いだ。解決するどころか謎が増えてしまった。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は214になりました。魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は327になりました】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ