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ブラックワークス 魔王に勇者を倒してきてと泣きつかれました  作者: 明日今日
Chapte4 絡みあう愛憎と選択と裏切り
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第120話 横隔膜の回廊

 徒人たちが魔骨宮殿上層を目指して上り始めて5日目に入った。

 地図を書きながら疲れ果てる前に和樹の魔法で転移できるように撤退して次の日にそこから攻略する。これで5回目の突入だった。上層階に行けば行くほどデュラハンにヴァンパイアなど悪魔系の強敵モンスターに襲われてなかなか進まない。

 今は17階に相当する横隔膜の回廊で足止めを食っていた。


「こいつら強すぎるよ。悪魔を斬るのも飽きてきた」


 彼方は先頭から三番目を歩きながら周囲を見渡してぼやく。雑魚の強さもそうだがそれぞれの回廊に付けられた人体の名称とそれに合わせた薄気味悪さが正気を奪い、精神の安定を狂わせるトラップの役目をしていた。

 そのせいで攻略に5日も掛かっている。こんな所を1人で歩ける奴が居たらそれはもう人間じゃない。魔王側の人間だと言いたくはなるがアニエスのここ5日間の反応を見るとどうやら北の魔王の感覚が完全におかしいと分かる。

 アニエス曰く、北の魔王は意図して作った訳ではないと説明していたがとてもそうには見えない。確かにこんな建造物を作る狂人とは仲良くしたくはないのは分かる。

 この回廊は横隔膜と呼ばれているだけあって黄色い壁が呼吸しているかの如く動いている。正直、この回廊の空気は吸いたくない。


「ラスダンかよと思わんでもない」


「いやこれは中盤の山場くらいでしょう。海外のを取り込んだゲームならこのくらいの強さの雑魚が出て来るのはよくある事」


 和樹の嘆きに十塚はツッコミを入れる。ツッコミと警戒時など必要な時以外は話さないので彼女の興味がある事だとすぐに分かる。


「誰かがヘルワイバーンを倒したからでしょう。それでアラートが鳴ってるんですよ。ここでヘルワイバーンを倒してはいけないのは常識なのに。どうせ、時間が経てば復活するのに」


「ヘルワイバーンは倒すなと言っていたな」


 理由は敵が警戒態勢に入って魔骨宮殿上層の敵が強化されるからと以前にアニエスが言ってた気がする。ここまで厳重に警備された上にここまでの布陣なら絶対に倒すなと言う教訓は骨身に染みる。倒した馬鹿をぶん殴りたい。


「よく知ってるわ。さすが魔族やな」


「ハーフ魔族ですけどね」


 アニエスが答えて足を止めて体を横に向ける。それと同時に終がノートゥングを抜いて先程までアニエスが背を向けていた壁を突き刺す。

 斬撃の衝撃でアニエスの前髪の幾筋かが切れて落ちる。返り血で染色された赤いレインコートを着た女性と思しき影が悲鳴を上げて消えた。本当にテレビから出てきたりするヤバイ奴みたいに見えるから困る。

 こんな歓迎は要らない。


「自分でなんとかしましたのに」


 不愉快そうにアニエスが眉毛をしかめる。

「でもこれ魔王の影やと思うけど。うちがぶっ潰した方が早いと思うけど」


 アニエスが非生物を苦手にしているのはクラスの影響だろう。それを見抜いていて終は自分で始末したのだろう。


「そうですが魔王の影ならあまり良い兆候ではないでしょう。早めに棺の間がある心臓の回廊まで辿り着いた方が良さそうですね」


「魔王の影は魔王に比肩するレベルの実力者が生み出した影でこの世界に来たばかりの人間では太刀打ちする事も感知することも出来ないだったけ?」


「あと斬撃と突攻撃が効きにくいですかね。だから打撃と言うか殴打属性が含まれる大剣とかで攻撃した方が楽なんですが……」


 アニエスが徒人の独り言に答えたが機嫌は悪そうだった。

 徒人は後ろを向いていた祝詞と視線が合う。


「あの時は、2週間前のあの日の事だけど悪かった。冷たくしてごめんなさい。どうかしてた」


「あれの事か」


 祝詞が急に謝りだしたので徒人は戸惑う。あの時とは祝詞が戻ってきた日の話か。


「修行の時から変だったのよね。徒人君に対して妙に怒りっぽくなってた」


「なんだよ。それ」


 いつもの祝詞から想像できない要領を得ない言葉に徒人は不審に思う。彼女自身も飲み込めてないのかもしれない。


「土門と熊越のパーティーだから変なのは入ってこないと思ってたんだけど1人だけよく分からない子が居たんだよ。日本人離れしたアルビノみたいな女の子。と言っても(わたくし)たちよりは上みたいに見えた。その子に触られてから変だった。それが原因かな?」


「触られた?」


 その会話を聞いて終が探るように後ろを見ていた。心なしか複雑な表情をしている。


「握手してくれと言われただけよ。変だなと思ったんだけど」


「敵だった?」


「どうなのかな。たまたま機嫌が悪かっただけかもしれないけど徒人君に対して怒る理由がないしね」


 祝詞の返答はやはり曖昧な点が多い。相手が幻術でも使っていたのだろうか。


「昔、昔、人の感情を操るスキルの話を聞いた事がある。そのスキルを使える人間は人の、他者の感情をコントロールする事が出来ると。本当かどうかは知らない」


 終は前を向いたまま呟いた。徒人からは表情が読めない。


「京都弁じゃないのは珍しいね」


 彼方が長船兼光の柄に手をやる。


「たまにはね。……そう言えば話の通じる魔族と話の通じる悪魔とここに居る連中の差はなんなの?」


「正気かどうかじゃないですかね」


 終の問いにアニエスは投げやりに答える。理由はすぐに分かった。正面と後ろに敵だ。姿は見えないが気配を感じる。

 徒人は魔剣を抜く。


「早く棺の間に辿り着いて確かめようよ」


 彼方は鞘から長船兼光を抜き放つ。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は212になりました。魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は325になりました】

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