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第12話 保身と遠慮で身を滅ぼす

 あれから三日後。徒人は剣騎士になって回復魔法を覚えてたまに回復補助に回っていたりして彼のパーティは森の回廊を大体制覇しつつあった。

 徒人の他に彼方が中級職である侍に転職し、他の4人は下級職で経験を重ねてスキルを取っていた。

 今はアニエスとレオニクスを警戒に立たせて昼飯を食べていた。こうしていると本当に森の中でピクニックへ出掛けているような錯覚すら受ける。


「この鮭の塩漬けみたいなのが入ったおむすびはいけるね」


 カルナが賭けの見返りと言うか詫びに置いていった鮭みたいな魚の塩漬け干しが入ったおむすびを頬張りながら祝詞は満足げにしている。その隣では彼方が新しい竹の皮の包みを我先にと開こうとしている。敵を倒す数も多いが食べる量も一番な彼女の食べっぷりにちょっと胸焼けがしてきた。

 そんな感情の動きを知らずに彼方は美味しい。美味しいと一心不乱におむすびを食べている。


「まだまだありますから大丈夫ですよ」


「そんなのよく食べられるな」


 見張りをしながらパンにカルナが持ってきた塩漬け干し鮭みたいな魚を挟んだサンドイッチを乱雑にかみ砕きながらぼやく。


「米が嫌いなのか?」


 徒人は竹の皮からおむすびを引き剥がしながら二つ目を頬張りだす。結構いけるのに──


「皆さんには大変言いにくいのですがそれは飼育用の米なのでレオニクス様が嫌がるのはそのせいかと……それにおむすびはオリタルでは携帯食なんで……」


「家畜パーティか」


 和樹が苦笑しながら自分の手に付いた米粒をペロリと舐めて飲み込み、おむすびが包んである新しい竹の皮を開く。

 パンばっかりの食事に比べたら飼育米だろうと日本人の味覚を満足させられるなら喜んで食えるレベルだと徒人は思う。


「こんなに美味しいのに。脱穀が不完全で三割くらい玄米だけどこのくらいの方が栄養価あるから平気だけど」


「すいません。脱穀が充分ではなかったですか?」


 彼方の言葉にアニエスが頭を下げる。

 棒と空き瓶でもあったらマシな脱穀が出来るかもしれないなと徒人は考えるが無い物ねだりしても仕方が無い。


「このくらい問題ないよ」


「ちょっと見直したくらいだ。それよりどうしておむすびなんか知ってるんだ?」


 土門の言葉に徒人は素直にアニエスを褒める。


「昔、戦場に居た時にオリタルの方に教わりました」


「なるほど。その頃から食事を提供していたのか」


 アニエスの言葉に和樹はさらりと返した。暗くなりかけた場の空気を変えてくれた事に徒人は密かに感謝する。


「そうですね。料理は嗜みですので……」


「おい、お喋りはそこまでだ。誰かが交戦してる」


 レオニクスの一言に徒人たちはそれぞれ武器を取る。


「どこだ?」


 徒人は辺りを探してみるが殆ど変化を感じ取れない。いつもの森のように思えた。


「ここから東に言ったところの広場かと。近くですがどうやら何者かと交戦中のようです」


 アニエスが淡々と告げる。気付いていてレオニクスよりも先に言わなかったのか。


「でリーダーよ、助けるのかい?」


「一応、借りを作っておきましょう。最悪、こっちに襲いかかってくる可能性もあるので余力を残して置いて下さい」


 指示を請うレオニクスに祝詞はさらりと答えた。

 全員が手早く戦闘準備に移る。なんだかんだ言って食事の支度を片付けていたアニエスが一番早く準備を終えるのを見ると徒人はこいつがただ者ではない事を改めて思い知らされる。


「後から追いますのでお先に」


「ありがとう。行くわよ」


 祝詞はアニエスをこの場を任せても大丈夫と判断して声のした方向へと森の奥へと視線を移す。レオニクスを戦闘に土門、徒人、彼方と続く。

 金属音や打撃音が響く中、森の広場へ向かうと角を曲がった瞬間、モンスターも嗅ぎつけたのか直立歩行する犬と言うか、大量のコボルトたちに森Gの群れが向こうからやってきた。

 数で押して来なければ徒人だけでも相手できる程度の雑魚なのだが道は広く1人で足止めするには不可能な地形だった。


「千客万来だな」


「氷の精霊たちよ。今、この場に冬の恐ろしさを体現させよ。《ブリザード!》」


 彼方のぼやきに被せるように和樹の氷結魔法がコボルトたちと森Gのど真ん中で炸裂し、そこを中心に急激に温度が下がり、不意打ちで逃げる間もなく氷の触手に絡められたモンスター軍団は足や全身を凍らせれて足止めする。森Gの何体かはそれで絶命したのかそのまま動くなくなった。

 それをチャンスと彼方が一瞬で間を詰める。


「旋風!」


 なまくらにも関わらず、そのかまいたちを思わせる一撃でコボルトが3体切り裂かれ、その内の2体が絶命する。徒人が飛び込もうと思った瞬間にレオニクスが放った矢が残っていた最後のコボルトの喉を貫いて絶命させる。

 徒人は気を取り直して彼方が飛び込んだ方向と逆側からコボルトたちに斬りかかり剣技スキルを使う。


「双牙!」


 左右の二連撃を2体のコボルトは一撃ずつ頸部に受け、頸動脈を切られ、万歳をするようにコボルトたちは凍り付いた地面へと倒れ込む。


「お前らちょっとは突撃する速度を加減しろよ」


 レオニクスがぼやきながら動き出そうとしていた森Gを矢で射貫く。


「退路だけは断たれるなよ」


 徒人は再び双牙で動き出そうとしていた大きめのコボルトの首を刎ね落とし、絶命させた。それを見て怯んだコボルトに彼方が容赦なく間合いを詰めて、その胴体をなまくらで薙ぐ。

 上半身と下半身を分割されたコボルトは何が起きたかを認識できない表情で宙を舞っていた。

 徒人も負けじと近くに居たコボルトの顔をブロードソードで斬る。勿論、抵抗できずに二足歩行の犬は口から上を失って氷が解除され始めた地面に倒れ込む。

 残った森Gにトドメを刺しながら徒人が森の広場を見ると早希とそのパーティが戦っていた。決して拙い訳ではないのだがどこかその戦い方には負担が掛かっているように見える。

 追いついた土門と祝詞がその様子を見ていたがすぐに徒人たちの方にいる敵の殲滅へと移った。

 残っていたコボルトと森Gはあっという間に壊滅した。


「……当方はブーツにした方が冬堂氏の魔法を活かせるか」


 彼方は草履は履いた足を気にしつつぼやく。袴から覗く足首に徒人は視線を移す。


「良いふくらはぎだ」


「ありがとう。でもあっちを見る方が先だと思うけど」


 的確なツッコミに徒人は慌てて早希の方を見る。既に敵を壊滅させていたのだが向こうは緊張を解いていない。


「さすがにあの数は捌ききれませんでした。ありがとう」


 早希はこちらを見つけて素直に頭を下げる。勇者候補だけあって人格者かやり辛いなと徒人は思う。


「何? 人の獲物横取りしに来た訳?」


 戦士らしき少女がこちらにガンを飛ばしている。別に素行が悪そうなタイプには見えない。


「止めなよ。純粋に助けてくれただけかもしれないじゃん」


「だって女1人のパーティだよ。怪しいじゃん」


 おっとり少女僧侶が止めるが魔術師がそう吐き捨てる。どうやら彼女は背の高くおかっぱで袴姿の彼方が男に見えたようだ。胸も殆ど平らと呼んで差し支えがないので余計に見間違えるのだろう。


「だってさ、当方を男と間違えるなんて酷くない?」


「返り血を浴びた彼方は何とも言えないエロスがあるのにな」


「神蛇さん、それって褒めてるのかな?」


 彼方の問いに徒人は少し黙り込む。


「一応」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 彼方は早希たちの方を見据えている。

 早希一行は少女僧侶と早希が他の4人を宥めていた。しばらくして2人でこちらにやってきて頭を下げてこちらを警戒する4人を呼び寄せてこちらの脇を通り抜けていった。

 祝詞は何も言い返す事なく、その行動を見送った。


「魔術師なんでよく分からないが前衛が、と言うか盾騎士が無茶してるみたいだな」


「神前とか言う子が1人でパーティの負担を被ってるように見えた」


 徒人も和樹の一言に頷く。


「保身の為に無理してる感が酷いね。あれだとそのうちに誰か死ぬわ」


 彼方もなまくらに付着した血をぼろ布で拭いつつ納刀してため息を吐く。


「リーダーさんは助けるのか?」


 土門が珍しく意見を出す。


「助ける理由はない。と言うよりは(わたくし)たちの助言は聞き入れないでしょうね。チーム毎の評価とランキング制が上手く機能してると言えるのかな」


 祝詞は諦めの込められた感想を口にする。


「だから当方は女だけの集まりとか嫌いなんだよ」


 彼方が珍しく悪態を吐いていた。

 徒人は勇者候補である早希が自滅して欲しいような、そうあって欲しくないような複雑な気分で彼女たちが消えた方を見ていた。

 そして彼女たちと入れ替わるようにアニエスが姿を現してこっちに歩いてくる。

 アニエスは手を振る和樹に応えて手を振り返していた。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)が15になりました。[剣技5]が6にレベルアップしました】

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