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第117話 祝詞の帰還

 徒人は黒鷺城から自室へ戻ってきた。毎度の事だが靴を履いたまま戻ってくるので畳が汚れるのは避けられないのが難点だ。そもそも転移陣は日本家屋を想定してないのかもしれない。

 行きと違ってアニエスが居ないので靴を脱いで自分で廊下の様子を窺う。誰も居ない。忍び足で歩いて階段を降りて1階の廊下に出る。素早く玄関の土間に靴を置いて素早く離れる。

「あ、徒人ちゃん。帰ってたんか?」

 引き戸が開くと同時に終が入ってきた。いつもと違って眉間に皺を寄せて少々イライラしていた気がする。


「あ、ああ。終さんも出掛けてたんだ?」


「ちょっと野暮用やね。昔の知り合いに呼び出されてねぇ。ホンマに最低ぇやったわ。徒人ちゃん聞いてくれる? 勿論、お酒の席で」


 終が額の皺を消してニコニコと笑ってみせた。獲物を見つけた豹だ。いつもと違って全身鎧は着てなかった。


「いえ。未成年なんで飲むのは遠慮しておきます」


「和樹ちゃんだって飲んだんだから1回飲もうよ。ちょっとだけやから。な? な?」


 案の定、通じなかった。ズイッと終は顔を近付けてくる。目の前にある終の顔はトワと違って若干肌が傷んでるように見えるのは何故だろうか。人間と魔族の差ではあるのかもしれないが。或いは前衛と後衛の差だろうか。


「それで未成年潰して頭抑えて帰ってきたのは誰ですか?」


「酷いな。徒人ちゃんのいけず。でもそれはうちやけどな。仕方ないやん。成り行きでアニエスと勝負する羽目になってしもうたんやから」


 終はおちゃらけた仕草で自己ツッコミを入れてる。聞いているこっちが恥ずかしい。


「何でそうなったんですか?」


「それがイマイチ分からないんよ。記憶があやふやで。なんでやったかな?」


 式台に腰を掛けてブーツを脱ぎながら終は必死に思い出そうとしている。


「2人で何をやってるんだよ? 居間に来てくれ。祝詞が帰ってきた」


 廊下の奥から和樹が顔を出す。そして手招きしている。祝詞は1週間は掛かるんじゃなかったのか。


「あ、思い出したわ。和樹ちゃんを潰そうとしたらアニエスちゃんが怒って飲み勝負になったんだったかな? そうやったけ? 和樹ちゃん?」


 終がニヤニヤしながら話を振る。和樹はいつもとは違い、仏頂面をして返答しない。

「もう祝詞は戻ってきたのか? 1週間は掛かるんだろう?」


「アニエスは1週間以内と言ってなかったか? 徒人の聞き違いだろう」


 なるほど。と言い返しながら終が黙っている事を不審に思って玄関の方を見る。終は土間に落ちた土を眺めているように見えた。

「そんな事を言ってたな。切り上げて逃げ帰ってきた訳じゃないだろうし……居間へ行くか」


「せやな。うちもご尊顔氏に行こ」


 ブーツを脱いだ終が立ち上がって廊下へ上がる。そして今の方へと歩いて行った。


「あんなに女子を気にする人だったけ?」


「さあ、取り敢えず来てくれ。待たせるとリーダーが鬱陶しいから」


 和樹の返答に徒人も居間に向かった。



 居間に着くと祝詞が定位置に正座して座っていた。いつもの巫女装束で。久しぶりに見たような気がする。


(わたくし)、白咲祝詞は無事帰還致しました」


 祝詞は立ち上がって大げさに頭を下げた。旧帝國軍人かいとツッコミを入れたくならんでもない。


「帰還兵みたい」


「あまり笑えないな」


 勝手な感想を述べる彼方と終に祝詞が微妙な表情を浮かべながら着席して正座し直す。他には彼方が定位置に座って湯呑みでお茶を啜っていた。


「ところで真打ちが居ない間に苦労を掛けたね。回復は大丈夫だった?」


 祝詞は自信満々で言い放つ。(わたくし)が必要だろうと言わんがばかりに。


「そうだな。寂しいと言えば寂しかったかな」


 和樹が平坦なトーンで返す。トワの力を見せつけられればそういう反応にもなるか。


「なんかノリが悪いな」


「東の大陸から帰ってきて時差ボケとかそういうのの疲労から回復しきってないんだ。責めないでやってくれ」


 徒人は祝詞をなだめようとする。祝詞は何かを感じ取ったのか黙っている。


「取り敢えず報告するわね。汚れへの忌避のマイナス効果は[常なる清浄]で打ち消せる事が分かったから何とか習得して戻ってきた。疲れたから2日くらい寝ててもいい?」


 祝詞は掻い摘んだ報告を行う。何となく眠たそうだった。


「土門たちが護衛してくれたんだろう? あいつらは帰ったのか?」


 徒人はアニエスの話を思い出して彼らの状況を聞く。


「徒人君はそっちを気にするのか。……彼らは(わたくし)をここまで送り届けてくれた後に自分たちの家に帰ったよ。彼らにはゾンビドラゴンを一緒に倒しに行ったりしてかなり助けてもらった。お陰でレベルもかなり上がったしね」


「いや、確認の為だ。かなり助けて貰ったのなら礼を言わないといけないな」


 祝詞は言葉の真意を探るように徒人を見ている。


「アニエスにも礼を言わないといけないか。珍しくこの場に居ないけど」


「そのアニエスの事だが」


 徒人は口を開いた。かなり言い難い事だが話すしかない。


「どうした?」


「道具袋に入っていた物が悪さして爆発に巻き込まれて怪我を負った。でもその場に居た回復系の人が治して面倒見てるから大丈夫だ。命には別状ない」


 徒人は和樹の反応を見る。仏頂面で何の表情も浮かんでないようには見える。


「無事なら問題ない」


 怒るかと思われた和樹は冷静に返す。そう返されるとこっちの方が落ち着かない。


(わたくし)は疲れたから部屋に戻るわ。今日は出掛けないでいいかな」


「最初からそのつもりだったし、十塚も居ないからな。徒人が言ったように疲れが取れてないんだ」


 和樹の言葉に納得した訳ではないが祝詞は立ち上がって1階奥の自室へと向かって歩き出す。


「何かがあってショックを受けてるのは察するけど(わたくし)は貴方の精神の支えじゃないから」


 すれ違う瞬間、祝詞は徒人の耳元でそう言って奥へ消えていった。

 祝詞にはトワとのすれ違いを見抜かれていたようだ。


「神蛇さんお通夜みたいな顔して大丈夫? 当方で良ければ相談に乗るよ」


 さすがにバレたのか、彼方がフォローを入れてくれた。


「ありがとう。でも大丈夫だ」


「うぉ、当方、信用ないな」


 彼方は大げさに落ち込むふりをする。


「なら彼方の胸を借りたくなったらしゃべるよ」


 言葉通りではなく勿論、断る為の方便だ。


「げぇ、神蛇さんガチでセクハラだよ」


「徒人ちゃんは浮気症やね」


 2人共、冗談だと分かってるのか徒人を弄りにきた。最悪の状況になっても心の支えに出来るこいつらが居ると徒人は自分に言い聞かせようとした。

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