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第111話 根回し

 その夜、アニエスが徒人の部屋にやってきて重要な話があると言ってきた。外で人に会うから着替えてくれと言われていつもの鎧姿に魔剣を持って準備をする。アニエスが鏡に寄る転移陣を使って道を開いた。

 トワの居る黒鷺城で話し合うのかと思って転移陣に入る。

 だがワープした先はジュノーの別荘の玄関で黒鷺城ではなかった。そして待っていたのは陰人間のカイロスだった。彼は左手を差し出してリビングの方を指す。

 徒人は先を行くアニエスの後を追う。後ろからはカイロスが着いてくる。リビングで待っていたのはシルヴェルストだった。心なしか眉間にしわができているように見える。そして家具を壊すのを懸念しているのか椅子などには座らずに佇んでいる。


「シルヴェルスト様、アニエス、いえ、ニース・セドゥム・ドゥハ。ご命令通り、神蛇徒人殿を連れてまいりました」


 普段と違い、アニエスはシルヴェルストの前に跪いて頭を下げる。徒人も真似すべきなのか悩んで固まる。


「止めぬか。わしら五星角の間には上も下もない。第一、お前は潜入している間はアニエスだろう。徒人殿にバラしてどうする」


「先にバラさなきゃいけない……」


 アニエスが睨んできたので徒人は黙った。余計な一言は慎んだ方が方が良さそうだ。それに今アニエスが五星角だと言ってるような──


「名に意味などないでしょう。大した出でもないのですから」


 立ち上がったアニエスはロングスカートに付いた埃を払う。


「俺が呼ばれた点から考えるにサキュバスの話なんだよな?」


 徒人は確認の為に聞く。


「勿論、その為の話し合いです」


「フレイア様が正気かどうか確かめるのが一番重要だ。故に真実の鏡を使って確かめる事が何よりも優先される」


 アニエスとシルヴェルストが話し始める中、カイロスはそれを黙ってみている。どうやら彼はアニエスが居る時は話すつもりがないらしい。


「トワ……さんは知っているのか」


 徒人は最初に一番肝心な部分を聞いた。


「閣下に知らせて最悪の状態だった時にはショックを受けるだろう。だからこそ極秘に行わねばならん」


「いい年なんだから過保護にしなくていいと思うけどね。第一、そんな程度でショックを受けてるようなら元々大将の器ではない。それにあのお方は先代が倒れた時に次の候補を探すまでの繋ぎだったのだから。本来はもう交代してなきゃおかしい」


 シルヴェルストとアニエスの意見は噛み合わない。同じ人物に忠誠を誓っているのにも関わらず。


「アニエス、貴公は辛辣すぎるのだ。理由と成り立ちはどうあれ一軍の長に取り乱されるような事態は極力避けねばならぬ」


 シルヴェルストは正論を言う。


「はいはい。でもフレイア様に見つかって交戦状態になった場合は? ご、徒人殿だけ行かせて返り討ちになりました。じゃ話にならない」


 アニエスが苛つきながら言い返す。


「ではどうする?」


「自分も同行する。その方が徒人殿だけ行かせるよりも周りの目も誤魔化せるでしょう。五星角筆頭さん、最悪の場合は倒してしまっても構わないのよね?」


 その提案にシルヴェルストはため息を吐く。


「それは私情混じりに徒人殿を炊きつけているのか?」


 徒人はそれを聞き、ギョッとしてアニエスを見る。その横顔からは表情が読み取れない。


「だとしたらどうする? 自分と一戦まみえる?」


 シルヴェルストとアニエスは身構える。同時にカイロスが足で床を蹴って音を出す。2人は戦闘態勢を解く。


「やめよ。わしが大人気なかった。最悪の場合はフレイア様を討て。ただし、徒人殿と貴公の安全を考慮しての事だ。第一の目標は戦闘状態に陥る事なく真実の鏡にフレイア様の姿を映し状況を確認する事だ。第二の目標はフレイア様に気取られずに撤収する事だ」


「分かった。善処はするけど交戦となった場合、手加減できるような相手じゃないからそのつもりで」


「それは理解している」


 徒人が口を挟まないまま、決まっていくがこれに関して文句を言う気はない。徒人にとって一番重要なのはトワにどう思われるかなの一点なのだから。それさえクリアできればサキュバスへの報復を行っても構わない。今回はそれを成す布石になる。彼女を倒せば息子も復活するかもしれない。


「もし、交戦状態になった危険性を考慮して決行は昼の方が良いだろう。普段は寝ている筈だろうからな。それにサキュバスの力が増す夜よりは戦い易いはずだ。あと最悪の状態に陥った時は魅了対策の関係上、わしらの支援を期待しないでくれ。下手に刺激して戦闘になった場合、彼女を解き放たれたら城の者が被害を被る可能性がある。そうなれば我が軍にとって最悪の事態だ」


「つまり、その時は俺とアニエスの2人でサキュバスを倒すしかないという事か」


 徒人は考えを口にしながら心中では別の事について考える。確かにそうなったら報復する機会ではある。そして言い訳も立つ。恐らく蘇生魔法と言う保険もあるだろう。問題はトワに嫌われないかと言う感情だ。曲がりなりにも義理の妹を手に掛けるのだから──


「その通りだ。徒人殿は何か質問はないか? わしらで答えられる事ならお答えしよう」


 悩んでいるとシルヴェルストから声を掛けられた。


「真実の鏡がどう反応したら洗脳されててるのか、されてないのか分かるんだ?」


 鏡の使い方は聞いたが判断基準を聞くのを忘れていた。


「正常は青。本人の意識が残っている場合は黄色。完全に何者かに意識を乗っ取られてる場合は赤。そして……滅多にない事だけど赤から鏡が砕けた場合は最悪の事態。その時、鏡に写っていた人物は魂を失っています。肉体が生きていようと殺して蘇生しようと回復魔法を掛けようと元には戻りません」


 アニエスは厳かに告げる。魂が失われる状態なら徒人にとっても有効打になりうると言う事ではないのか。殺し尽くす死神勇者に続いてまた厄介な技がと苛立つ。


「そのサキュバスの部屋どうやって入るんだ? 外壁をよじ登って窓から入るのか?」


「普通にドアから入ります。その方が気取られずに済むし、他の者に怪しまれずに用事を済ませる事ができるかと。他に質問がありますか?」


 アニエスはさらりと答える。


「決行はいつやるんだ?」


「明後日の昼となってます。師匠様には話をつけてあります」


 もういいと言って徒人は黙った。


「これが無心のペンダントだ。魅了や正気を奪う状態異常を防いでくれる」


 シルヴェルストがペンダントが入っているらしいを差し出す。早速開けてみるが六芒星のペンダントで随所に文字が彫り込まれ、その部分は淡く光っていた。


「貸して下さい。貴方が着けるよりはマシに取り付けられるでしょう」


 徒人の頼みを聞いてすぐにアニエスはペンダントを受け取り、簡単に徒人の首にぶら下げた。


「これで全部の準備が整ったのか」


 徒人は複雑な心境を抱えながらため息を吐いた。

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