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第110話 帰途

 カーさんには陽天(ようてん)近くまで道案内と荷物運びをさせて別れた。その後、歩いて陽天(ようてん)まで行って船に乗る。徒人たちは約一日掛けて中央大陸の港町ジュノーへ戻ってきた。

 朝の潮風が涼しくて気持ちいいが魚の匂いが辛い。

 ラティウム帝國の衛兵たちの検閲を抜けてジュノーの別荘へ戻ると玄関前でメイド服のアニエスが腕組みをしていた。その姿は蜃気楼のように若干歪んで見える。原因は考えなくても分かった。トワのせいだろう。

 祝詞の様子を聞こうとした和樹がビビるくらいには怒っている。その迫力に全員が黙り込んでいた。

 終が興味なさそうにあくびをする。

 怒りの原因の当人はどうやって逃げ出すかを思案しているかのように目が泳いでいた。結局は逃げられずにアニエスの前まで行く事になってしまったようだ。この状況で逃げ出したら露骨に怪しいからか。


「トワ様、こんな話は聞いてないんですが」


 阿修羅の如く赤いオーラが見えそうなアニエスが口火を切った。


「それは言ってませんから。わたしが行った方が慣れてます」


 逃げるよりもトワは言い訳する方向で追求を逃れるみたいだ。それが余計にアニエスの尺に触ったのか眉間がピクピクしている。


「フィロメナが泣いてましたよ。書類仕事を押し付けられて」


「お陰でスケジュール全部が狂っててんてこ舞いでした。取り敢えず説教は他の方がしますので自分からはこれ以上言いませんが」


 アニエスの冷たい視線にトワは徒人を盾にするかのように隠れる。しっかりしてる時としてない時のギャップが凄い。


「取り込み中に悪いけどリーダーと言うか、祝詞はまだ修行中なのか?」


「はい。師匠。きっかけは掴めたみたいですけどまだそれを物にできなくて苦戦してますね。一週間以内にはコツが掴めると思いますが」


 アニエスの返答に和樹は顎に手を当てて考え込む。


「引き続きお手伝いしましょうか?」


 徒人の陰から顔を出す。だがアニエスが怒りの形相で睨み返したので再び徒人を盾にして頭を引っ込める。


「俺が賢者になって蘇生魔法を覚えるしかないのか。面倒だな。やるしかないのか」


 和樹がため息を吐いた。


「前にも言いましたけど上達が難しいですよ。それに蘇生魔法はあくまで保険ですから。どんなに手を付くしても死ぬ人は死にます」


 徒人の後ろから出てきたトワの言葉を遮るかと思っていたがアニエスは黙ってそのやり取りを見ている。


「でも覚えてないよりはマシだろうと思うんだよ。もっとも俺が回復しなくて済む状態が一番なんだし。それこそ保険としての話だし」


 和樹の意見をトワは黙って聞いていた。もっともアニエスの方が複雑そうな表情をしてたが。


「あとでウェスタの巫女神殿に来てくれたら転職できるように妾が取り計らっておこう」


「それで問題ないな。アニエス、祝詞の護衛はしてなくていいのか?」


 カルナの申し出が出た所に徒人が話題を変える。これ以上続けさせると暗くなりそうだ。どう考えても蘇生魔法に関しては深く突っ込むと闇を見てしまう気がして考えたくなかった。岳屋弥勒の妹である八雲も前の魔王の心臓と肺を移植して蘇生を封じてた。それにトワは前の南の魔王に関していい感情を持っていなかったように思う。


「護衛は置いてきましたら大丈夫でしょう。どうせ、ここの用事が済んだらすぐに戻りますし」


 アニエスが和樹の方を見ていた。今日は家に帰れませんよ。昼と夕食は自分でお願いしますとかアイコンタクトで会話してるのかと思わなくもない。


「護衛?」


「はい。土門さんと熊越さんに頼みました。あと中に食事を用意しておきました。冷めても味を損なわない物です。中に入って右の食堂で食べて下さい」


 そしてアニエスは徒人の方で一瞬視線を止めた。五星角の誰かが付いてるのかもしれない。

 アニエスの言葉に十塚とカルナが玄関から別荘の中へと入っていく。外で話していても仕方ないので全員で別荘の中へと入って右の食堂へと向かう。


「アニエス、金貨は持ってきてくれましたか?」


 食堂に全員が入ったのを確認してからトワがそう切り出す。


「はい。連絡のあったとおりに金貨を持ってきました」


 アニエスは金貨の入った麻袋をトワに投げる。トワはそれを慌ててキャッチした。


「わたしの扱いがぞんざいな気がします」


 トワが微妙に愚痴っている。魔王の仕事を放り出してやらかせばこんな風な扱いも受けるか。アニエスはトワの事を嫌ってそうだし。

 トワはそれを十塚に渡す。十塚は金貨を数え始める。金貨は5円玉や50円玉みたいに中央に空けられた穴に紐を通して幾つかに纏められているようだった。


「それと死神が動き出しました。また犠牲者です」


「誰が亡くなったん?」


 それまで黙っていた終が問う。それまで無反応だった彼方もようやく興味を示す。


「今度は元老院の方じゃなくて貴族の女性だそうです」


「何それ? 何かのお偉いさんだったの?」


「それが情報が出てきません」


 彼方の質問にアニエスは首を横に振る。


「バルカみたいに何かないん? 勇者に恨まれていたとか」


「そっち方面では出てきてません。ただ不審なお金の流れがあったとかそれを帝國に知られたくなかったとか言う噂があるけどかなり眉唾っぽいですね。でも不正に関して本当なら彼女が溜め込んでた金を奪う為かもしれません」


 なるほど。徒人が納得してると視界の端ではトワと十塚が金貨とネックレスを交換していた。和樹とカルナもそれに加わり報酬の話をしてるようだ。


「あ、精霊の雫に関してはこっちで引き取ります。加工してペンダントにした方が安上がりなんで」


 アニエスの声に徒人は竹製で大きめの水筒を渡した。


「これがネックレスになったらいよいよです。心の備えだけはしておいて下さい」


 小声でアニエスが言う。

 徒人は最悪の展開に備えて覚悟を決めてる。

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