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第107話 死と言う手の慰撫 前編

 徒人は右に向かって走った。グリーンドラゴンのブレスを警戒して分散した方が良いと言う判断からだ。

 グリーンドラゴンは徒人の方に顔を向けたかと思うと前から走ってきた終の方へと向き直る。長い尻尾を使い、それを叩きつけようとする。

 終はその一撃を受ける瞬間に地面から身体を離してノートゥングで防いで威力を殺して後方に着地した。


「少々面倒やな」


 終が地面に赤い塊を吐いた。完全に威力を殺しきれなかったのか単に口の中を切っただけなのかは分からないがノーダメージとはいかなかったようだ。

 その間にグリーンドラゴンとの距離を詰めていた彼方が胴体と首の根元の部分に斬り掛かる。今まで幾度となく強敵を一撃の下に屠ってきた彼方と長船兼光のコンビが傷さえ付けられなかった。彼方の技量とフレイム・コクーンで長船兼光の切れ味を高めていたのにも関わらず。


「予想以上に堅いな」


 彼方はそれを想定していたのか慌てた様子もなく前足の攻撃を簡単に避けて軽くジャンプしただけなのに攻撃範囲から逃れ、距離を取り、グリーンドラゴンの右側に移動する。


「大気を覆う闇の力よ。今我が呼びかけし氷の精霊に力を分け与え給え。地獄の吹雪で大気を覆い、地を蹂躙し、敵を恐怖させて常世国を再現せよ。《ヘル・ブリザード!》」


 和樹の声に答え発動した氷魔法は不樹の海を黒い雪で覆い尽くし、奇妙な花々を黒い雪で覆い、グリーンドラゴンの足や尻尾を大地に縫い止め、各部分を黒い雪で覆う。

 グリーンドラゴンの動きを止めたのは良かったのだがこっちまで冷気の影響を受ける。もう少し考えて使ってくれないととてつもなく寒い。


「《ヒートライト!》」


 トワの声が響いて錫杖が光って赤い光が徒人たちを包む。その光に包まれた瞬間、体が寒さの影響を受けなくなる。

「皆さん、今のうちにやってしまって下さい。カルナさん、貴女と狼さんは離れて。巻き込まれますよ」

 その忠告に狼の獣人男性はカルナの手を引いて後方へと下がって行く。


「ダブル・クレセント!」


 徒人は魔剣を肩に担ぐ。そして右、左と魔剣を振るい、三日月型の光刃を2つ生み出す。2つの三日月型の光刃はグリーンドラゴンへと迫り、首に突き刺さり爆発する。だがグリーンドラゴンは首から多少の血を流しているものの致命的なダメージを受けた気配はない。

 グリーンドラゴンが咆哮を上げる。


「《ブルワーク!》」


 同時にトワの声が響く。青い繭がグリーンドラゴンを包んだ。耳を潰されるかと思った咆哮は蒼い繭にその大半が吸収される。

 振動で身体を衝撃が襲うが動けない程度ではない。


「みんな、攻撃するや。目と鼻と口を潰せ! ブレスを吐かせるな!」


 和樹が詠唱中なのを見計らって終が叫んだ。終自身は左前足に対してノートゥングで連撃を加えていた。その様子は本当に狩りゲーみたいだった。


「大気の炎よ。火球となりと我が敵を燃やし尽くせ! 《バーニング・コメット!》」


 和樹は借りたファイアーロッドの魔力を使って強引に炎魔法を行使した。グリーンドラゴンの頭上に火の玉が出現する。それはグリーンドラゴンの顔面に直撃して鼻と目を焼く。それも咆哮ですぐにかき消された。

 和樹は慣れない炎魔法を使ったせいで黒い雪の中に膝を付いてファイアーロッドを支えにして地面に倒れこまないようにしている。


「ダブル・クレセント!」


 徒人は再び三日月型の光刃を2つ生み出す。今度はグリーンドラゴンの鼻を狙って放つ。だがグリーンドラゴンは動きを止めていた雪を振り払う仕草をした影響で2つの三日月型の光刃の1つは外れて何処かへ飛んでいき、もう1つは目に当たりはしたが分厚い瞼に遮られて眼球を破壊するに至らない。

 当然だがグリーンドラゴンは徒人を睨みつけ、怒りの形相で向かってこようとする。だが足を拘束している雪の塊を壊しきれていない。

 徒人はパーティメンバーから離れるように黒い雪の積もる不樹の海の右側へと移動していく。だが黒い雪の影響で早く走れない。

 グリーンドラゴンはそれにつられて動こうとするが向こうもヘル・ブリザードの影響で足を雪に取られている為に動きは鈍い。

 その間も右側に取り付いている彼方が長船兼光で攻撃し続けているが大した効果は上がってない。傷は負わせているもののグリーンドラゴンは無視している。


「でりゃああああ!」


 グリーンドラゴンの左膝の関節を潰した終が足を踏み台にその背へを駆け上がった。そして、グリーンドラゴンの脳天に一撃を加えようとした瞬間、尻尾が鞭の如くしなって襲い掛かる。

 徒人はブラッド・クレセントを放つ体勢に入るが間に合わない。

 終は舌打ちを鳴らしつつ、ノートゥングの腹で尻尾による一撃を防御する。そのまま尻尾は上からハエ叩きを思わせる鋭い追撃を加えようとする。


「ブラッド・クレセント!」


 徒人は三日月型の光刃を尻尾に向けて放つ。終を攻撃しようとしていた尻尾の先端に当たり爆発。尻尾の先端が引きちぎれて飛んで行く。そしてそれは黒い雪の中へと落っこちた。尻尾の先端だけでもかなりの質量があったのか微かに振動で地面が揺れる。


「もうちょっと手加減してな。うちが吹っ飛ぶところだったわ。でもありがとうな」


 ブラッド・クレセントによる爆発の影響でグリーンドラゴンの足元に落ちた終が抗議と礼を言う。どっちなんだと思わなくもない。


「深遠なる闇の下僕たるトワ・ノールオセアンが命じる。この場で傷付き倒れたこの者たちに安息たる闇の祝福を与えその傷を癒やし給え! 《エリア・ヒール!》」


 トワの回復魔法の光が不樹の海全体を包み、全員の傷が回復する。そして無理やり炎魔法を使って休憩を取っていた和樹も体力が回復したのか攻撃に加わる。

 和樹が攻撃魔法の詠唱に入った瞬間にグリーンドラゴンが徒人の方を向いて大きく息を吸い込んで口を開く。どう考えてもブレスを予備動作にしか思えない。

 少しでも威力を相殺しようとブラッド・クレセントの構えを取る。


「皆さん、近くの岩陰に隠れて!」


 危険を察知したトワが悲鳴に近い声で叫ぶ。十塚は和樹を助けようと飛び出している。ほぼ全員が隠れようとした同時にグリーンドラゴンが風のブレスを吐いた。徒人は肩に担いで居た魔剣を振り下ろす。生み出された三日月型の光刃はブレスと縦にぶつかる。そして誘爆した。

 それで風のブレスの威力は若干削がれたものの徒人はその余波を食らって吹き飛ばされた。だが風のブレスは止まらずにそのまま不樹の海全体を薙ぎ払うように左から右に襲い掛かってくる。


「《ガーディアン!》」


 トワが防御魔法を発動するが彼女を中心にした範囲だったせいで僅かなラグがあった。その隙にブレスはみんなを巻き込むように薙ぎ払った。


「トワ! みんな!」


 魔剣を杖代わりに徒人は立ち上がって叫んだ。


「わたしは大丈夫。ちょっと痛いだけ」


 防御魔法のお陰でトワは立っていたが白磁を思わせる右手の指が何本か変な方向に曲がっている。

 最後にブレスを食らったと思われる彼方は黒い雪が吹き散らされた植物のベッドの上に横たわっていたが左手を上げて生きてるとアピールしていた。だが今のブレスでかなりの重症を負って動けないらしい。

 和樹とカルナと十塚は動かない。先程のブレスが致命傷になったのか。狼の獣人男性は岩陰で隠れていて助かったようだ。

 終は咄嗟にノートゥングを盾にして防いだみたいだがフルフェイスの兜は飛ばされて顔も含めて身体の右半分から出血しふらついていた。額から流れた血が鼻筋を伝わって涙のように見える。


「しょうがないな。使うか」


 終がそんな事を呟き、左手でノートゥングを構え直す。そして右手で傷だらけの顔の右半分に付いた血を拭う。グリーンドラゴンはさっきのブレスで終わらせたつもりだったのか不愉快そうに咆哮を上げた。


「徒人、蘇生しますから時間を稼いで下さい」


 トワが急いで回復魔法を唱え始める。


「必要ない。蘇生よりも2人は自分の身を守るのと死なない事を優先して。復讐の恩寵を発動」


 言うだけ言って終はゆっくりとグリーンドラゴンの方へと近付いていく。そんな彼女を見てグリーンドラゴンは頭にきているように牙を見せた。

 終は笑い返してノートゥングを両手で構えて走りだした。グリーンドラゴンは先端を失った尻尾を叩きつけようとする。

 それすら簡単に避けて牛若丸のようにグリーンドラゴンの前足、背中、頭と軽々と飛び移る。


神零断罪撃(しんれいだんざいげき)!」


 終はグリーンドラゴンの頭にノートゥングを垂直に振り下ろした。

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