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第105話 中間地点

 何度か植物系の魔物との戦闘を繰り返してそこら中に仕掛けられた罠をかい潜って中間地点へやってきたが獣人たちの姿はなかった。主だった道の脇にある小さな広場だった。そこに結界である事を示しているのか注連縄(しめなわ)で句切られている。そしてその中央には焚き火をしていた跡らしき煤の地面と石で作られた仕切りがあった。

 和樹には見られている事と中間地点で待ち伏せする話は伝えておいた。


「中間地点と言ってもただの小さい広場なんだな。俺はもう少し何かあるのかと思ってたよ」


 和樹がぼやきに近い愚痴を呟く。


「特にRPG的な物がある訳はないんよ。一応、現実だし」


 終の発言に微妙に構えてしまう。ここが地球らしいと頭で分かっていてもどうしても納得出来ない。そんな事を考えている内に十塚がテキパキと焚き火の準備を始めている。彼方は近くにあった枯れ木を集めて十塚の傍に置いた。

 決して手際が悪い訳ではないがそれを見ているとアニエスが手馴れていたかを思い知らされる。

 和樹は切り株に腰を下ろし、瞑想してるのかそのまま動かない。カルナは地面にマントを敷いてそこに横たわっている。恐らく疲れて動けないのだろう。終は背を向けて辺りを警戒していた。


「どのくらい休むんだ?」


 徒人は近くの切り株の前にマントを敷いてビニールシートの代わりに敷く。カルナではないが眠気に襲われる。一応、起きていないといけないので切り株を背もたれ代わりに使う。


「精霊の雫が取れるのは日を跨いだ頃から夜明け前までですね」


 トワが徒人の隣にマントを敷いて座る。離れる気はないようで隠す気もないようだった。既にパーティメンバーにはバレバレなのでもう何も言わない。


「深夜に着くようにしたらいいのか」


 徒人は天を仰ぎ見る。木々の間から星が見えるがまだ日は沈みきっていない。3時間位は休めるかもしれない。

 トワが腰につけていたポーチから取り出した魔法の地図を開いて確認し始める。指で魔法の地図の階層を切り替えていく様子はスマホを弄っているように見えた。この世界の真相を知ってから見るとこの手の道具は実は魔法じゃなくて電子機器なんじゃないかと思ってしまう。


「魔法の地図によると……大体全工程の7割くらいは進んでますね。何もなければ泉に1時間もしない内に着くんじゃないでしょうか」


 そして魔法の地図を再びポーチの中に戻す。


「見てると本当にコミデみたいな魔法の地図だね。と言うか、当方には科学の産物にしか見えないよ」


 彼方は近くにあった岩に腰掛けてトワを、トワが持っていた魔法の地図を見ていた。


「コミデ? それはなんですか? 科学とはなんですか? 冷蔵室とかの親戚ですか?」


 トワの反応はイマイチだった。徒人たちでもコミデと言われて分からなかったのにトワに理解できるとは思えない。彼方の方はその反応に黙っていた。


「当然と言えば、当然か。トワさん、耳が柴犬っぽいとか言われた事ないですか? 柴犬と言うのは賢くて可愛い犬の種類で──」


 彼方は気まずい雰囲気だと感じたのか更に話しかける。


「この倒れてる耳が犬っぽいとは言われましたね。そう言えば、エルフ耳とはなんですか? たまに稀人(まれびと)たちに言われたりするのですが稀人(まれびと)たちの世界には存在していたのですか?」


「エルフと言うのは耳が長くて魔法に長けている言う森の種族です。この世界には居ないんですか?」


 和樹が魔法で火を起こしたのを確認してから十塚が口を挟んだ。


「見た事も聞いた事ありませんね。そんな物が存在していたのですか?」


 その問いに微妙な沈黙が流れる。本当はおとぎ話に出て来る架空の存在ですなんて言えないわな。


「伝承に出て来る架空の人種がエルフと呼ばれてるんや。創作で耳が長いのが特徴で後世のイメージで語られてるんやけどな」


 終が助け舟を出したのかそう説明した。だがトワの表情は硬い。ちょっと怒っているようにも思える。


「お客さんです」


 トワのその言葉に本道の方から狼と思しき獣人の男性が姿を現した。手には白旗を握り締めている。他にも居るみたいだが彼らは姿を晒す事なくこれから起こるやり取りを黙ってみているつもりらしい。

 代表らしき狼の獣人男性は警戒しているのか注連縄(しめなわ)に近付こうとはしない。


「待ってくれ。我々は戦うつもりはない。貴方たちの腕を見込んで頼みたい事があるのだ」


 こっちが立ち上がって剣を抜こうとしたのを見て狼の獣人男性は慌てて両手を上げて恭順の意を示す。


「ただで?」


 終がツッコミを入れる。そんな終はどこか機嫌が悪そうに見えた。


「ただとは言わんよ。ここに精霊の護符がある。貴方たち人間の間では高く売れる筈だ。勿論、先払いで構わん」


 狼の獣人男性は白旗を持っていた手と逆の方に袋を取り出して中身をこちらに向けて見せる。パワーストーンみたいに色とりどりの石が混じったブレスレットが幾つか入っている。目利きの素人である徒人から見ても高くは売れそうである。

 確認の為に近寄った十塚が本物かどうか確かめる。狼の獣人男性が差し出したので彼女はそれを受け取った。


「本物で罠もない」


 十塚が袋を覗き込んで確かめている。


「うちらがトンズラすると思わないのか?」


 終の問いに狼の獣人男性が首を横に振る。


「泉に用がある人間が途中で帰るとは思わん。それにこのままだと泉には近付けん。最近になって泉の近くでグリーンドラゴンが暴れてるからだ」


 終はその単語に表情を険しくする。ドラゴンと聞くだけで嫌な気分に離れるが──


「嫌な予感。そいつを倒せと言う話になる訳か」


 瞑想していたはずの和樹が目を開けていた。


「嫌な予感の通りで悪いが貴方たちに頼みたいのはそういう話だ。それに泉へ行く為には避けては通れない不樹の海と呼ばれる位置に生息している。貴方たちはグリーンドラゴンと聞いたらどう戦えばいいか分かるほどの手合と見た。是非、グリーンドラゴンの討伐をお願いしたい」


 トワと終と十塚の表情が変わった。かなりまずい相手のようだ。


「仕方ない。でも道案内に人は出してもらう。討伐後の陽天(ようてん)への近道もだ。あとこれは前金だ。分割でもいいから追加分を支払ってもらう。報酬は……苦労した分だけ頂く。苦戦しない事を祈ってくれ。それと3刻ほどしたら迎えに来てくれ」


 和樹の言葉に狼の獣人男性は苦い顔をしていた。臨時リーダーは報酬に関しては祝詞よりもシビアかもしれない。

 狼の獣人男性は分かった。全て手配すると言って森の奥へと姿を消した。


「取り敢えず、休みましょう。徒人、膝を貸して下さい」


 そう言ってトワは徒人の膝の上で上半身を投げ出して猫のように丸くなってしまう。そんな彼女につられて徒人は瞼を閉じてしまった。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)は112になりました。魔法騎士の職業熟練度(クラスレベル)は104になりました。神蛇徒人は[対植物特攻1]は2にレベルアップしました】

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