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第102話 東の大陸

 船に乗って8時間。東の大陸の西側、通称双子の片割れにある港町泰平(たいせい)までやってきた。アジア風の港でジュノーの港に比べたら建物も汚れていて歩いている人間の格好も見窄らしく柄も悪い。

 絡まれないのは終がフルフェイスの兜に全身鎧を着ているのとその彼女が放つ剣呑な雰囲気がチンピラを寄せ付けないでいた。

 ジュノーでは熱を取ってくれた海風もここでは湿気を含んだベトベトした嫌な風としか受け取れない。全員がそう感じているのか早歩きで町外れにある鎮守の森への転移陣へと急ぐ。

 先頭は終でその後ろを彼方。その後を徒人とトワが歩き、その後ろにはカルナと和樹。最後尾に十塚が歩いていた。


「妾はここ嫌いなのよね」


 カルナがボヤく。十塚は臭いがキツイのか鼻を抑えて険しい表情をしていた。


「帰りは鎮守の森を出て北へ足を伸ばして陽天(ようてん)の港町まで行けばここに戻ってこなくて済みますよ」


 船室で説明し続けたお陰か機嫌を直したトワが説明する。


「トワさん、船の中でずっと考えてたんだけどその廃都にどうして魔王神は現れたの?」


「時の皇帝が不老不死を求めたからと言う説が有力と聞いています」


 不老不死か。徒人の能力とは似ても似つかない。自分のユニークスキル[死と再生の転輪]とは一体何なんだろうか。徒人はそんな事を思う。


「時の権力者が求める物はいつだろうとどこだろうとどんな世界だろうと変わらんのやね。一緒に巻き添えにされた民が可愛そうやわ」


 終が付け足すように下らないなと呟く。


「不老不死と魔王神? 話が通じないんだけど」


「魔王神と契約を結べばどんな願いも叶えられると言う伝承があります。それを聞いて行動に移したのでしょう」


 彼方の問いにトワは普通に答えた。


『魔王神の話について喋り出すと暴走するかと思ったけど普通の会話ですね』


『徒人、女相手に自己アピールしてどうするんですか? それに今はわたしの傍に徒人が居てくれるじゃないですか。だから誰かにアピールする必要なんてないですよ』


 正論過ぎて徒人は何も言う気が起きなかった。それに機嫌を直して喜んでいるのだから余計な失言を言うべきではない。


「割とつまらない理由で吹っ飛んだりしてるんですね。ここも」


 彼方がぎょっとするような発言を口にする。


「かなり不吉な発言なんだが何か思うところがあるのか?」


 船室で眠りこけてた和樹は元気を取り戻していたがそれをぶち壊すような発言に眉を潜める。


「別に大した事じゃないよ。ただの感慨」


 そんな彼方にどんな過去があるのかは分からないが時折見せる横顔が妙に老成してて恐ろしいと思う事はある。

 そんな会話を続けているうちに徒人たちは街外れまできていた。目の前には針葉樹林の黒い森が広がっている。背は高く森の中に入れば日光が届かないかもしれない。


「街は抜けたか。転移陣から飛ぶ前に聞いておくが鎮守の森と言う名称が付けられているけど実際はどういう場所なの?」


 十塚が切り出す。

 確かに鎮守の森と言っても徒人には神社裏やその周囲にある森くらいしか想像ができない。


「これから行く所なので行けば分かりますが……森に鳥居と言う物が多数放置されていて森の迷宮と化した所です。そこの奥に精霊の雫を入手できる泉がありますがわたしには別の目的があります。ついでに終わる事なのですがこちらの用事で少々お時間を取られるかもしれません」


「出て来ると言うか、襲ってくる魔物は?」


 彼方が話に割り込んでくる。何を斬らせてくれるんだと言わんがばかりに目が輝いていた。完全に危ない奴だがこういう世界では頼りになる。いや、正確にはこんな時代ではか。


「植物系にそこに住んでいる獣人系。それにドラゴンが出て来ると言われています」


 トワは思い出しながら語る。どこが座学苦手なんだろうか。バリバリな気がするが。


「ドラゴンなんて見た事ないな。斬れるかな」


「そうやね。うちは一度見た事あるけどその経験から言わせてもらうと徒人ちゃんが剣魔法使ってくれるやろうから物理に寄る攻撃は楽に通ると思うけどね」


 終の一言に彼方が徒人を見る。毎度の事ではあるが。


「神様、徒人大明神様。お願いしますだ」


「うちらを見捨てねぇでくんろ、徒人大明神様」


 彼方と終が徒人を拝むようにして両手をこする。


「何故訛る? 気持ち悪いし吹くからやめろ」


 徒人が笑ってるのに釣られてトワまで笑っていた。


『徒人、誤解のないように言っておきますがわたしは座学苦手ですからね。単にダンジョンとかそういうのは趣味で覚えただけですので誤解のなきように』


 徒人の体に穴が開きそうなほどの熱視線がトワから放たれていた。


「もう15時過ぎてると思うがこれから夜になるのに行くんだろう? その精霊の雫とか言うのは夜間じゃないと取れないのか?」


「はい。だから今回は夜間行軍です」


 和樹の言葉にカルナがげっそりした様子で答える。船酔いらしい。


「長丁場になりそうだな」


「途中で野宿でもして休めば問題ないと思います。元々結界があった区域なので結界のロープを繋ぎ直せばある程度の安全は確保できるでしょうし」


 トワがフォローしてるが余り嬉しくない。


「そうこう言ってるうちに転移陣か。では行きますか」


 和樹の指示を受けて徒人たちは先頭から鎮守の森への転移陣に入っていた。

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