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第100話 仕事はどうした? 魔王様

 全員で別荘から出て港へ向かって丘を歩いて降りていく。

 髪の色が珍しいからなのか耳を隠したいのかトワはフード付きマントを被る。かなり怪しいけどフード付きマントは白地で豪華な刺繍が施されているのでお偉い人のお忍びに見えるかもしれない事を祈る。


『なんでそんな表情をしているんですか?』


 トワが心の中で話し掛けてきた。彼女の方を見ると彼女だけスキップしている。コケて下まで落っこちたりしないだろうなと思わなくもない。


『トワさん、いやトワが来るなんて聞いてませんよ』


 さんを付けようとしたらスキップから普通の歩き方になってトワの頬が微かに膨らんだので徒人は慌てて訂正した。


『そりゃ当初はフィロメナが来る予定だったのですが徒人と一緒のパーティで戦うとか最高の出来事を他人に任せるとかあり得ないですから』


『でも書類仕事とかあるんですよね?』


 前に居たトワが徒人の方を向く。右手でフードを上げて睨んでいた。深夜に子供がプリンを食べようとして親に怒られたのに反抗してるそんな表情に見える。


「和樹、足の傷は大丈夫か? 治そうか?」


 徒人はトワから目を逸らしてすぐ手前を歩く和樹に振ってみた。


「駄目」


「ちょっと反省してなさい」


「駄目です。絶対に。徒人に治されるなんて……そんな至高の施し受けるなんて許せません」


 彼方、十塚、トワと三重に否定されて和樹がうなだれていた。


「臨時リーダーの和樹ちゃん、散々やな。うちが後で治したげるよ。頑張って船まで行こう」


 徒人の隣にいた終だけが同情してたのか、和樹に慰めの言葉を掛ける。


「ありがとう。剣峰さん」


「名前にさん付けでええよ。ところで会ったばっかりやのにトワさんはえらい徒人ちゃんにご執心やな。前に会ったことあるん?」


 スルーされると思ったがそんな訳もなく終にツッコミを入れられた。


「徒人には以前お世話になってそれからの縁です」


 トワはシレッと嘘を吐いた。男の徒人から見ればごく自然に言った気がする。具体的には何も言っていないが。


「ふーん。意外に垂らしやったんやな。うちと言う者がありながら徒人ちゃんもいけずやな」


 その返答に納得した訳ではなく終はからかい半分にそんな冗談を言う。徒人は確認するのが怖いと思いつつ、トワを見る。再びフードを被り直して顔を隠していたので見えている口元でしか表情の変化が分からない。


『彼女の言ってる事は本当でしょうか?』


 心の中に淡々と聞こえてくる声が怖い。語りかけてくる当人が目の前にいるので包囲されている気分になってくる。


『そんな訳ないです。トワをからかおうと彼女が言ってるだけですよ』


『彼女、彼女、彼女』


 言い方が悪かったのか、その部分だけ呪詛のように繰り返す。周りもトワの雰囲気が段々暗くなっているのを感じ取っているのか微妙に距離を置いている。


『ごめん。言い方が悪かった。剣峰氏が人をからかうのはいつもの事だから』


『事実ですか? 違ったら徒人を許しませんから』


『事実ですから剣峰氏の玩具にならないで下さい』


 その言葉でようやく我に返ったのか目の前を歩いていたトワから暗い空気が消えていく。


「もうあんまりからかわないで下さい。剣峰さん」


 トワは口元に笑みを浮かべているが纏っている雰囲気は怒りと抗議を含んでいるように感じた。

 その一言に和樹と彼方がちょっと反応して身を震わせる。先頭を歩く十塚は反応せずに我関せずと無視を決め込むつもりらしい。


「嫌やわ。軽い冗談やんか」


 それに対して終は余裕綽々と言った感じでトワの怒りを受け流していた。まるで蛇対マングースだ。


「監査役のアニエスが居ませんがどうやって船に乗って東の大陸に渡るんですか? そこは聞いてないのですが」


 彼方が平然と2人の間に割って入った。空気を読んでないのか読んでるのか、それとも彼方の度胸の問題なのか。とにかく喧嘩になりそうな雰囲気に水を差した。


「裏技を使うから問題ありません」


 トワは平然としている。目の前に街が迫り、そろそろこういう会話も控えなければならない。


「うちは物凄く嫌な予感しかしないんだけどホンマに大丈夫なん?」


「賄賂とか色々複合的な手段ですから大丈夫ですよ」


「随分とハッキリと言いはったし」


 さすがに終もトワの返答に多少引いていた。


『上手くいくんですか? 捕まりましたじゃ笑えないとか』


『そこは色々と根回ししてますから』


 不安になって聞いてみた徒人はトワが笑って返した事に更に不安を覚える。人間の闇を利用した脅しとかやってるのだろうが聞かないでおこう。


『わたしも具体的には聞いてないので分かりません。やってるかもしれませんね』


 徒人はそこで考えるのをやめた。よろしくない思考のループに陥りそうなので。それにもう町の包装された石畳の上に入ろうとしている。心の中の会話に気を取られ集中力を欠いて人にぶつかったら笑えない。


「オリタルに向かうんですか?」


 彼方が先頭を歩きながら聞く。確かに船での行き先を聞いてない。街中に入ったが活気のある時間からズレているのか人通りは少ない。


「オリタルは結構遠いので行きませんよ。行くのはゾディアック大陸の近くにある双子の片割れです」


「双子の片割れ?」


「1000年前に、今は廃都と呼ばれてる場所に魔界の神と称される魔王神が降臨した時、オリタルの大陸は真っ二つに分断されました。わたしたちが行くところは西に分かれた大陸の方です。その時に付いた名称が双子の片割れと言われています」


 トワの説明に殆どのメンバーが納得していた。無反応なのは終くらいだった。


「オリタルに行けば業物とか見れると思ったのに。クソ」


 彼方は別の意味で反応している。


「取り敢えず、船着き場は任せるわ。アニエスが居ないのを誤魔化して頂戴な」


 終はそれだけ言って黙る。それはお手並み拝見といこうじゃないのと言う態度に見えた。

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