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第99話 助っ人は貴女だったのか!

 強い海風とカモメの鳴き声が響く中、徒人たちは港町ジュノーの別荘に来ていた。アニエスの紹介なので人間は来ないだろうと思っていたので待ち合わせの場所としては悪くない。

 別荘の玄関前には居るが待ち合わせの人物の姿は見えない。

 時間で言えば、今は午前7時頃だろうか。


「早すぎたか遅刻してるのか面倒だな」


 臨時でリーダーになった和樹がぐったりとした様子で海風を受けてフラフラしている。原因は転移陣の連続使用と慣れないリーダーの役のせいだろう。転移陣は前に来た時とは違い、パーティメンバーと共に来ている為に直通の転移陣を使う事が出来なかったせいだ。

 近いと思っていた為に徒人も精神的に堪えていた。


「中に居るんじゃないか?」


 徒人は海風に身を任せながら指摘した。この海風に吹かれてないと胃がムカムカして仕方がない。昨日のアニエスが微妙な態度が余計に不安を掻き立てた。


「そうやね。こんな風のきつい所だと外で待ってるのは嫌やな。中に入って待たせてもらおうか」


 終の言葉に彼方が頷いている。


「待つも何も誰か居る。入って左の部屋。寝てるみたいだけど」


 十塚がスキルを使っているのかそう告げた。


「寝てる? なんで?」


 彼方が意味のない問いをする。祝詞が居ないと彼女がツッコミ役になるのか。


「そんなのは知らない。でも寝息を立てて寝てる」


 当然と言えば当然だが十塚に中で寝てる人物の事情など分かる訳もない。


「入って確かめるしかないやんか。徒人ちゃんに先頭を頼んでいいかな。うちが獲物振り回すとここ壊れてしまうから」


 終が和樹の方を見てから頼む。一応、アイコンタクトで許可を取ったのだろうか。


「任せていいか。俺もアニエスに怒られたくはないんだ」


 和樹はそんな事を口にする。笑えない理由だがアニエスを怒らせたくないのは理解できる。


「分かった」


 徒人は玄関ドアのドアノブを回して開ける。確かに静かな寝息が聞こえてきた。その寝息を聞いてるとその人物が熟睡中なのが分かる。


「爆睡してはるね。徹夜明けだと変な所で寝ちゃうのよね。あ、男関連とちゃうで。仕事で徹夜しちゃって爆睡した経験あるんよ」


 終がどうでもいい会話を押し込む。それを咎めるように十塚が唇の前で右人差し指を立てた。

 徒人は言われた通り、左の部屋の、リビングのドアを開けて隙間から中を覗きながら中へと入る。床に転がった錫杖と床に置かれた冒険者用のバックパック。椅子に座って丸テーブルの上にうつ伏せで突っ伏してる人物が居た。

 容姿を確かめようとするが白地のフード付きマントを目深に被っていてよく分からない。たひゅと、たひゅととよく分からない寝言を呟いている。よく見れば、スノーホワイトの髪が丸テーブルの上に垂れている。この髪の色に物凄く見覚えがあるんですが。徒人はさすがにそれはないだろうと頭を振る。


「凄く気持ちよさそうに寝てるな。今すぐに代わって欲しいよ」


 和樹が恨み節を言う。昨日、寝れなかったのかしきりに目の下を擦っている。


「取り敢えず、起きてもらって確認しよう。ただの不法侵入者かもしれない」


 後ろを警戒する為に最後尾を歩く彼方が指摘した。

 徒人は振り返って和樹を見る。一応、リーダーの意志は尊重しなければならない。


「やってくれ」


 いちいち俺に振るなよと言いたげな和樹が一言で命令する。


「すいません。ここ、人の別荘なんで起きてもらえますか?」


 徒人はリビングで寝てる人物に話し掛けてみた。フード付きマントの頭部を見ると獣耳でも入るようにしてるのか頭頂部に三角形が2つ付いている。アニエスの言ってた人物は獣人なのかと推測する。


「徒人ちゃん、ちゃうで。駅員と違うんだから揺すって起こすんや。ここの管理人かもしれないやろ?」


 終が励ましてるのかおちょくってるのかよく分からないふりをした。同時に熟睡してるフード付きマントの人物が微かに身動ぎしたような気がする。よく見ると丸テーブルの上に撫子色の唇から垂れたヨダレらしき液体が落ちていた。


「すいません。熟睡してるところを申し訳ないんですが起きてもらえますか」


 仕方ないので徒人は今度は右手でフード付きマントの人物の左肩らしい部分を掴んで揺さぶってみる。この肩の触った感じ覚えがあるような──


「うーん。寝かせておいてくれませんか。夜遅くまで準備に手間取ってしまってあんまり寝てないので」


 そこまで言ってからフード付きマントの人物が徒人の方を向いた。虚ろな鴇色の瞳に光が宿る。フード付きマントの人物はトワだった。

 それから数秒、事態を把握したらしいトワは椅子から飛び上がる。その衝撃で被っていたフードがズレてスノーホワイトの髪がこぼれ落ちる。そして慌てて取り出したハンカチでヨダレらしき液体が付いていた唇を拭い、今度は手鏡を取り出して手櫛で寝癖を整える。


「す、すいません。頬についた跡は見逃して下さい」


「別にそれは構わへんけどあんたは誰なん? ここの管理人? それともアニエスの言ってた人なんかな?」


 トワの一言に終はボケてるのは本気なのか分からない聞き方をする。


「管理人じゃないですよ。わたしはトワ・ノールオセアン。アニエスさんの頼みでやってきました。職業(クラス)枢機卿(カーディナル)です」


 トワが自己紹介をするがアニエスと言う辺りでほんのちょっと嫌そうな顔をしていた。


「げぇ。枢機卿(カーディナル)? こんな若い人は見た事ないけど」


 終が毒気づく。


「言うほど若くは見えないけど」


 和樹がボソッと失礼な事を漏らす。徒人が睨みつけようとした瞬間、彼方と十塚が和樹の足を踏んづける。急所に入ったのか和樹の顔色が見る見るうちに変わっていく。


「と、取り敢えず、ふ、船の出る時間もあるから港に行きながら話そうか」


 和樹は痛みに堪えながら促した。

 アニエスが居ないところでは口が悪いんだなとつまらない事を思いながら徒人はトワに関してどうするかを考えないようにしていた。

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