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第10話 サキュバス殺します?

 追っ手と悟をまいて一息吐いた徒人はアニエスに案内されてウェスタの巫女神殿へと向かっていた。

 西の空は茜色を帯び始め、漆黒の闇が近付いてきている。帝國に雇われているのか魔術師のような風貌の2人1組が街灯にロッドで火を灯して回っていた。


「ボコボコにされる奴を見るとちょっとすっとした」


稀人(まれびと)同士での喧嘩は御法度ですから見てるしかないですね」


「面倒だな。そこらへん上手くやれって事か……」


 スパイなんで目立つ訳にはいかない。せめてもう少し娯楽があればな──日本食が食べたい。


「本音を言うとちょっと見捨てるのが楽しかったです」


「酷いな。俺も楽しかったけど……女と逃げるって悪くないかも」


「自分はご主人様とは逃げませんから期待しないで下さいね」


 アニエスに対して思うところはないけどハッキリと言い切られるとキツい。


「いつになったら、あいつにやり返せるかね」


 徒人は現実逃避にサキュバスの件を呟いてしまう。呟いてからアニエスが隣に居た事に慌てて言い訳を考え始める。


「告げ口なんかしませんよ」


 アニエスは徒人の考えてる事を読んだような発言をしたが背を向けた前を歩く。殺されると考えていないのではなく、こっちに攻撃されても余裕で受け流せる実力差があるからだろうと徒人は思う。

 絶対なる力の差が悲しい。


「別に魔王様は策を持ってサキュバスを、フレイア様を謀殺するなら止めたりしません。そもそも自身の手で殺そうと思ってるくらいですし」


「ドライなんだな。魔族ってそういうモノなのか」


 周りを確認しながら徒人はアニエスにだけ聞こえる小声で問う。


「それはそうなんですが……それは魔王様が、トワ様の信仰してるのが伝統、戒律、規律、忠誠心、そして権謀術数とか邪悪な存在を崇めてるからですよ。それが酷すぎて今も独り身なんですけど」


「お見合いの話か……宗教チックな話だと相手が引くんだろうな。で俺であの女を殺れるの?」


 徒人は自分の口調が普通に戻っているのには気付いたがアニエスは不快な様子を示しているようには思えないのでそのままの口調で話す。


「でも今のご主人様には無理ですね。もっと強くならないと返り討ちです。自己回復に魅了耐性。弱点を突ける魔法剣の習得。課題はたくさんありますから今は力を付けるべきかと……」


「魅了耐性か。もうすぐ神殿に着くのか」


「もうすぐ着きます。質問の方は……そうですね。奇襲なら殺せる可能性はあります。上手く策を練りませんと……話題を変えましょう。剣騎士で良いんですか?」


 アニエスは前から巫女らしき女性が歩いてくるのに気が付いて話題を変える。


「取り敢えず、回復魔法使えないと話にならないだろう」


「単独行動するつもりならそうなりますね」


 坂を上りながらアニエスは全く呼吸を乱しては居ない。


「アニエスも単独行動出来るんだから回復する手段を持ってるって事だよな」


「企業秘密です。ご主人様と言いたいところですがあれの絡みもあるのでその通りですと言っておきましょうか。じゃあ、神殿に入りましょう」


 アニエスがウェスタの巫女神殿の前で止まった。

 その石で作られた白い建物は円形で神殿と言うよりは役所みたいな印象を受けた。

 徒人は言われるがまま、ウェスタの巫女神殿の中へと入っていった。

 内部も白い室内にはこの時間でも人が結構居た。正面に受付のような箇所があり、受付嬢ならず受付巫女らしき女性が座っていた。

 早く済ませようと足を踏み出した瞬間、声を掛けられた。


「やあ、徒人じゃないか。いきなり職業(クラス)を失敗したと思って転職かな?」


 右の奥から歩いてきたカルナだった。


「違うわ。15になったから中級職に転職だ」


「それはおめでとう。(わらわ)も心から歓迎するよ。丁度、暇な神官紹介できるから一緒に行こう」


 徒人は怪しんでアニエスと視線を交わす。彼女も何を感じ取ったのか微妙な表情をしてる。


「ほらほら、おめでたい事なんだから急いで急いで」


 カルナは徒人とアニエスの背中を強引に押して奥の方へと連れていた。



 カルナに案内された部屋にいた中年男性は呆れた表情で褐色の巫女を見た。


「相変わらず現金な奴よの。それで神蛇徒人殿、そなたは職業(クラス)は決まって居るのか?」


「ええ。決まってるので迅速にお願いします。宿舎に帰って休みたいので。あ、剣騎士でお願いします」


 徒人の返事に中年男性はそうだろうそうだろうと頷いている。


「そうそう。早く早く」


 カルナの反応に彼女以外の全員が微妙な反応を返す。


「では神蛇徒人よ、そなたは剣騎士となる事を望むか」


 はいと返事と共に魔方陣が徒人を包み、くるくると回った後、すぐに消えた。


「これでそなたの職業(クラス)は剣騎士のレベル1となった。ついでに回復魔術も習っていくといい。今日、中級職に上がったのは二人目だな。今回の稀人(まれびと)たちは忙しなくて困るわい」


「そんなに速いんですか?」


 徒人が何気なく聞いてみた。[魔王の蛇(サタンズ・スパイ)]を持っているのだから使わないと損だ。


「そなたも含めて速い速い。もう一人は神前早希とか言う子か。おやつの時間にはもう中級職になっておったよ。カルナ、その様子だとまた賭けでもしようと思ったな。本当にどうしようもない奴じゃのう」


 3時間くらいの差かと思いつつ、徒人はカルナを見た。指を折ってまるで金勘定のようだと思えばそういう事だったのか。


「だって有望そうな子を見つけたんですから賭けなきゃ損じゃないですか」


「相変わらずギャンブルが好きな奴じゃ。神蛇殿、すまぬのう。今日はこんなのしか居らんで」


 カルナの返答に中年神官が皺の寄った額を触る。徒人は適当に相槌を打つ。


(わらわ)はちゃんと還元しますよ」



「下手すると賄賂だと思われるからやめよ。オリタルの食材でも持って行ってやれば良かろう」


 カルナはその手があったかと手を叩いている。


「取り敢えず回復魔法を教えておこう。呪文は光の神への信仰が問われるが基本は癒やしと慈悲の精神があれば使える筈よ。《ヒーリング!》」


 中年神官は徒人に初級回復魔法を掛けた。治すほどではなかった擦り傷や打ち身がみるみるうちに治っていく。


「なるほど、おっさんに掛けたら良いんだな。《ヒーリング!》」


 徒人が中年神官に向けて右手をかざして同じようにやってみた。彼の反応は呆気にとられたように鈍い。光とかも出なかったからミスなのか。ヘマって発動しなかったか。それとも魔王様への好意の影響で光の神とやらに嫌われたか。


「まさか、見ただけで使えるとは……そなたは何者じゃ」


 中年神官が発言したかと思えばそこから出てきたのは褒め言葉だった。


「へぇ?」


「凄いな。見ただけって超人か」


 カルナは驚嘆の声を上げており、アニエスは口笛を吹いている。

 そう言えば、祝詞が使っているのやトワが使っていたのを見ていたのを無意識で学習していたのだろうかと徒人は考え込む。


『わたしの《ヒール!》を見たのを学習していたのでしょうか』


 いきなり心の中にトワの声が聞こえてきた。


『あ、指輪の効力です。一日一回通信できるんで暇なんで声かけてみました。……返事は心の中で思えば返答できますから』


『そういう事は早めに言って下さい。ビックリするじゃないですか』


『ご、ごめんなさい』


 徒人の頭の中に何度か頭を下げるトワの姿が見える。多分、本当に頭を下げているのだろう。この人、優秀なのかポンコツなのかよく分からない。


「失敗した訳じゃないんですね。ミスってヒーリングが発動しなかったのかと思ったんで……」


「いえ。むしろ、見事なヒーリングでした。感服致しました」


 中年神官が頭を下げる。徒人も反射的に頭を下げた。我ながら日本人的な反応しか返せないのが悲しい。ふんぞり返ってみたいのに──


「とにかく教えてくれてありがとうございました。兵舎に帰ります。カルナさん、お礼を楽しみにしてます」


 徒人は頭を下げつつ、カルナへの一言も忘れなかった。


「うぅぅ、高く付いたかもしれない。ま、(わらわ)の土産を楽しみにしてるといいよ」


 カルナは少しだけ嫌な表情をしたが観念したのか、胸を張って言った。


「では自分たちはこれで」


 アニエスが頭を下げてこの部屋を出た。徒人もそれに続いた。


『ポンコツでごめんなさい』


 通信と言うか念話が切れてなかったのか、会話中黙っていたトワがまた頭を下げていた。


『別に悪いとは言ってませんから』


 徒人は本音を隠してそう返した。思った事が直接通じるのはやり辛い。ヤンデレの気でもあるんだろうかと思う。


『ヤンデレってなんですか?』


『可愛いけど扱いにくい人の事です』


 徒人は適当に思いついて誤魔化した。間違っては居ない。


『可愛いは良いですけど扱いにくいは止めて下さい。地味に凹みます』


 徒人の頭の映像として映るトワはいじけているのか床に座り込んでいる。

 念話が切れるまでの間、徒人は出来るだけ何も考えないようにしていた。


【神蛇徒人は剣騎士の職業熟練度(クラスレベル)が1になりました。[剣技4]が5にレベルアップしました。単体回復魔法が使えるようになりました】

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