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第六話 決戦前日

いよいよ佳境に入りました。なんか駆け足ですみません(汗

今日は試合前で練習もない金曜日。うだる熱さも慣れるといいのだが・・・。



「あーつーいー・・・」

「・・・・・・」



ただいまの状況だが、昼休み中であり、いつものように竜一と伶、そして俺の三人で飯を食っている。暑いと駄々をこねているのは竜一。何を言うでもなく黙々と弁当を食べているのは伶。最早、完全に無視を決めたようだ。



「涼!」

「何?」

「あーつーいー!!」

「・・・・・・」



時々、ホントにウザイと思う・・・。無視をして、伶同様に黙って飯を食う。



「・・・それより、明日は試合らしいな・・・」

「あぁ、まぁ何とかなるだろ」



伶の言葉に、あっけらかんに応える。実際、試合なんてものはやってみなければわからない。



「勝算は?」

「わかんない」

「わかんないって・・・」

「・・・今回の試合、勝ち負けは関係ないと思う。ちび達が楽しければ、俺はそれでいい」

「・・・しかし、それでは・・・」



言いかけた言葉を飲み込んだ伶は、しばらく無言だった。



「伶、どうかした?」

「いや、なんでもない・・・」



その後は一言も発さず、終始、無言のままだった。




???






→→→→→→→→→→→→




今日は練習はない。しかし、俺と緋野さんは今、小学校の職員室にいる。



「・・・という訳なんだ」

「なるほど!!」



緋野さんに説明したのは、『お楽しみ』。プリントの最後の項目だが、簡単に説明すれば、ちび達にお疲れ様の意味を込めた、BBQ大会だ。しかしこれは、あくまでもサプライズ!!ちび達には一言も喋っていない。



「という事で、この事は秘密で!」

「了解!!」



ビシッ!と敬礼をする緋野さん。なんか可愛い・・・。


それから明日の予定を確認。参加する保護者の了承も得た。後は、テントの設置・ライン引き・椅子とテーブルの設置だけだ。

BBQ用の肉と野菜は先生が既に手配済みだ。飲み物も、アルコール関係以外は俺が無料で手配した。その数なんと、100本!!



「後は生徒が帰ってから準備を始めましょう♪」



とりあえず話し合いは終わり、応接室でティータイム。ここの職員は、何かと気軽に声をかけて来る。黙って座っていたら、冷たい麦茶を持って来る。別にそういう心使いは無用なのだが、好意は甘んじて受ける。




キーンコーンカーンコーン・・・

《下校の時刻になりました・・・》


なんて放送が流れ、その10分後には、生徒はいなくなった。

ただいまの時刻、5時30分。門を閉め、準備に取り掛かる。



ライン引き・テント張り・テーブル、椅子の設置を終えた頃には、空はオレンジ色に染まっていた。



「終わった〜!!」



作業を終えた緋野さんが、小走りでグラウンドの中央にいる俺の元へと駆け寄って来た。



「お疲れ様」

「何を見てるの?」



グラウンドの中央、つまりセンターラインからまっすぐに見つめた視線の先にあるのは、サッカーゴール。


「いや、昔はここからあのゴールに向かってがむしゃらに走ってた。それがなんだか懐かしい・・・って気分かな?」

「ねぇ、よかったら少しだけサッカーを教えてくれない?」




突然の提案だった。グラウンドにいるのは俺と緋野さんの二人だけ・・・。先生はいつの間にかいなくなっている。



「少しだけなら・・・」



用具倉庫には鍵がかかっていない。おもむろに一つのボールを取り出し、グラウンドの中央で待っている緋野さんに向かい、ボールを蹴る・・・。



蹴り上がったボールは弧を描き、バウンドしながら彼女の足元へと転がっていく・・・。


ゆっくりと彼女の元へ歩いていたが、少し遠目の位置から、彼女は俺に向かってボールを蹴った。



転々とボールは転がって、俺がいる位置から少しズレた所に向かっていく。軽く早足でボールを追い、再び彼女にパスを出す。



「ねぇ」

「何?」



ボールを足で受け止めた彼女が声をかけ、俺も相手に聞き返す。



「黒崎くんって、好きな人はいるの?」

「いないよ」



ボールを蹴りながら、彼女は俺に問い、ボールを受け止めた俺も、彼女に言葉を返しながらパスを出す。


「気になる人は?」


「いない。緋野さんは?」

「いるよ!」


「・・・そっか」



少し浮かび上がったボールを足で止め、言葉を返した。




・・・少しだけ、ショックだった。ここ最近、彼女と過ごした時間を考えると、余計に・・・。でも、当たり前の事だと思う・・・彼女にだって、好きな人くらいはいるだろう。



「頑張って!」



今彼女にかけてあげられる言葉は、これくらいしかない。



「・・・ありがとう」



ボールを受け止めた彼女が、そう呟いた。そして、再びパスを出す。



「あのさ・・・」


「ん?」


「明日の試合、勝てるかな?」


「・・・わからない」


「私ね、願掛けしてるんだ」


「・・・うん」


「明日の試合に、もし勝つ事ができるなら、その時は告白しようって・・・」


「・・・」


「だから・・・」




真剣な表情だった・・・夕日を背にした彼女の顔なんて、よく見えない筈なのに・・・その瞳は、はっきりと見える。



「私は、勝って欲しい・・・」


「責任重大だなぁ」


「勝手な事だってわかってる。負けても別に、黒崎くんを責めたりしない」


「・・・緋野さんが願うなら、明日の試合・・・きっと勝つさ!」


「ありがとう!!」




気休めの言葉・・・。でも、微かにわかる彼女の笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも・・・ずっと綺麗だった。

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