第三話 静けさは、何かの始まり・・・ 前編
長くなりそうなんで、分割しようと思います。
断末魔の叫びから3時間が経過した。今は昼休み中である。いつものように、友人の神崎竜一と、水川伶の三人で飯を食べている。こいつらとは、中学時代からの友人で、元サッカー部という繋がりがある。現在は二人とも美術部に在籍、理由は『可愛い女の子が沢山いるから』だそうだ・・・。
「そういや、お前!小学生にサッカー教えてるらしいな?」
購買で買った焼きそばパンを食べ終えた竜一が、開口一番に、そう尋ねて来た。
「・・・そうなのか?」
普段は余り喋らない伶までもが、意外なものを見るかのように口を開く。
「ああ。昔の恩師に頼まれてね」
「そうか・・・俺も何となくそんな噂を聞いたからな」
「まぁ、昔以上・・・とまではいかないが、涼が楽しそうなのは、そのせいだろうな・・・」
「そんなに暗かったか?」
「「うん」」・・・と、綺麗にハモった二人も、あの出来事を知っている。今の俺がこうして楽しく過ごしているのも、この二人のおかげと言っても過言じゃない。
「で、うまく教えてるのか?」
「何とかね・・・」
苦笑混じりに溜息を吐き出し、カフェオレを口に含む。
今日は六限で授業が終わるので、昼食を済ませた俺は赤凪先生にメールを送る。数十秒で返信がきた。どれどれ、内容は・・・・・・。
『OK♪早く来てくれなぃと、先生鳴いちゃうぞ!』
どう突っ込めばいい・・・?鳴いちゃうぞ!って・・・あれか?変換間違いか?泣いちゃうぞ!・・・か?いやいや、それだと文章自体に突っ込みをいれなければ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ〜もぅ、めんどくさい!!。こういった場合はあれだ!放置だな!・・・うん。
しばらくして、再び先生からメールが届いた。
『泣いちゃうぞ!』に変わって・・・。
歳を考えろよ・・・・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
現在、睡魔と闘いながら六限目を受けている。教科は『日本史』。幕末のどーたらこーたらを、老齢な先生が教えているのだが・・・・・・手、震えてませんか?
「あ〜タバコ吸いたい・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダメじゃん!!
どうやらあれが『禁断症状』と言うものらしい。震える手で黒板に字を書くから、何書いてるかもわかんねぇよ!
こうして、六限目は無駄に過ぎていった・・・・・・。ちなみに授業終了後には、他のクラスにノートを借りていった連中が、続出したとかしないとか・・・。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
現在4時36分・・・只今小学生に練習を教えています。赤凪先生からは、『メール無視したでしょ?』と、口を尖らせてそう言われたが、相手にしなかった為、拗ねて職員室ヘ戻って行った。
「よーし、それじゃあ昨日みたいにチームに別れて試合形式でやるぞ!!」
『ハイッ!!』
相変わらず元気がいいね。と、感心しながらグラウンドの中心線でホイッスルを吹く。
ピーーーッ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「DF!ボールをキープしたら周りをよく見ろ!味方の中でフリーがいたら素早くパスを出せー!」
昨日同様に、俺の激が飛び、形が徐々に出来てゆく。
「康人!そこでシュートだ!」
ピーーーッ!!
「はいそこまで!全員集合〜」
俺の掛け声に、全員が一斉に集まる。やっぱり息が上がってるみたいだな・・・。
「今日の練習はここまで何だが・・・明日はどうしようか?」
明日・・・つまりは土曜である。急遽試合が決まって、ちび達の予定も覚束ない。
「明日は練習しないんですか?」
「う・・・ん、俺は暇だからいいけど、用事がある子達もいるだろうから、明日はとりあえず自主練習だなぁ。俺は昼からここに来るから、それくらいの時間に学校ヘ来るなら学校で練習してもいいよ」
「はい!」
明日は自主に決め、ちび達とグラウンド整備。軽くアップ(体操)をして、本日の練習は終了した。
「お疲れ様で〜ス!」
「お疲れ様〜♪」
今日も今日とてにこやかに赤凪先生が手を振っているが・・・。
「仕事、増えたみたいですね・・・」
「・・・助けて〜♪」
「お疲れ様でした〜♪」
「薄情者ぉーーーっ!!」
全力で逃げた!!遠くで何か聞こえるけど、気にしない・・・。仕事をさぼった貴女が悪いんですよ・・・。
自転車に跨がり、一直線に進んでいるのだが・・・・・・
あれ?あれはFWの康人だよな・・・んで、隣にいるのは誰だ?ってかうちの制服着てるし・・・。
自転車の俺、徒歩で前を行く二人・・・。追い越す時に、声をかけてみた。
「康人、気をつけて帰れよ〜」
「ハーイ!」
「どうも・・・って、あぁぁぁぁーっ!!!!」
康人の隣を歩いていた高校生が大声を上げたので、びっくりして振り返ってみると、その声の主は、同じクラスの緋野美咲であった。
「姉ちゃん、知り合い?」
「同じクラスの友達だけど、何で康人が知ってるの?」
「前にも話したけど、この人にサッカーを教えて貰ってるんだよ!」「えっ・・・じゃあ康人が言ってたイケメンコーチって、黒崎くん?」
うぉぃっ!?なんかとんでもない噂が広まってるぞ!やめてくれ!こんな噂が広まったら、恥ずかしくて表を歩けねーよ!!!!
「意外だったよ!黒崎くんがサッカーのコーチをしてるなんて」
「イケメンじゃなくて残念だったね」
半ば皮肉った感じで言い放つと、緋野(姉)はケラケラ笑って、バシバシ肩を叩く・・・ってか加減してよ!
「ってか、なんで涙目なの?」
貴女がバシバシ叩くからですよ!!それにイケメンコーチはスルー!?むしろそっちに突っ込んでよ!!あれか?イケメンだからって言ってたのに、実際はこんな男だからツッコむのも面倒臭いってヤツか!?
「でもホントに意外だよ、黒崎くんがサッカーを教えてるなんて」
「元々サッカーをやってたからね。それに、子供好きだし」
「へぇー、でもサッカーやってたなら、何で今はやってないの?」
さも当然、と言わんばかりの質問だが、元来口下手な俺は、少し考えて、ズボンの左側を捲くった・・・。今でも左足には、斜めに入った大きな傷が残っている・・・。
「この傷痕って・・・」
「うん、中三の時、試合が始まる前に交通事故に遭ってね。靭帯を切った・・・それから、サッカーをやっていないんだ」
「そ、そうだったんだ・・・ごめん!」
心底すまなそうな表情で謝る緋野に、気にしてないからと笑って言ったが、彼女の表情は変わらない・・・少し、気まずい雰囲気が流れる・・・。
「で、でもあれからリハビリとかしたし、走っても今は平気だから、こうしてサッカーをちび達に教えてるんだよ!」
フォローになったかわからないが、気にしていない事を強調するように言った言葉で、ようやく緋野の表情が緩む・・・。
「・・・そっか」
「オゥ!ま、皮肉にも事故のおかげで、こうやって小学生達のコーチをしてる!だから少しだけ・・・不幸な出来事に感謝してる。ハハッ!」
俺が笑うと、つられて緋野笑う・・・。そんな俺達を見て、康人の顔も、僅かに綻ぶ・・・・・・・・・と、その康人が口を開いた。
「コーチ、今度の試合って何時からですか?」




