最終話 終わる夏、始まる夏
最終話です。駄文ながらも完結させる事が出来ました!!読者様、ありがとうございます。
決意から四日が経った・・・今日が・・・全てを終わらせると誓った、決戦の日曜日。
黒いTシャツに黒いデニムジーンズを着込んだ俺。見た感じはラフな格好だが、この季節を考えると、ちょうど良いのだ。黒に統一したのには、別に理由は無い。ただ、好きな色が黒・・・なにものにも染まらないこの色が好きだ。
たった一言で、全てを終わらせる事が出来る。
わかってはいるが、まだ少しだけ、戸惑う自分がいる。鏡に写された、もう一人の自分を見て、情けない表情に苦笑しつつ頬を軽く叩く・・・。
これは、情けない自分に気合いを入れる為に行った事。
痛い・・・でも、目は覚めた!己自信に言い聞かせる・・・
『臆病者は、もういない』
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美咲視点−−−
「私の気持ちを、全て伝える・・・」
部屋の中で独り言を呟きながら、私は机に突っ伏している。
康人が持ってきた、一枚のプリント。
『秋槻校区主催の夏祭り』
私はここで、想いの全てを伝えるつもりだ・・・。もしフラれる事があっても、後悔はしない・・・。その時は、こう言うんだ。
『私の気持ちを聞いてくれて、ありがとう』
ハハッ、なんかネガティブな事を考えてしまった。
時計を見れば、もう2時を回っている。約束の時間まで、後3時間を切った。
『私は、後悔しない・・・』
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涼視点−−−
約束した場所・・・学校へと向かう。すでに辺りは露店が並び、囃しが遠くから聞こえて来る。
「黒崎くん!」
背後から聞き慣れた声がする。
「あ、緋野さん。こんに・・・」
言いかけた言葉が、思わず喉元で止まった・・・。
「ごめん、待った?」
「・・・」
「どうかしたの?」
無言の俺に、戸惑う彼女。俺自身は、その姿に呆然と・・・いや、見惚れてしまったのだ。
その姿は、別人・・・。淡い青の浴衣姿に、ストレートの黒髪を結ってある。普段の活発な感じとは違い、大人しい雰囲気を感じる・・・。
「もしかして、変?この格好・・・」
「い、いや、そんな事ないよ!凄く似合ってるよ!!」
「ホント!?うれしい!!」
やっぱり外見だけだった・・・。中身は普段通りの緋野さんだ。少し、ホッとした。
「とりあえず、ちょっと見て回らない?」
「うん、いいよ」
学校から近くの小さな神社まで続く道の両脇に露店が並び、ソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。遠くで聞こえた囃しの音も、神社から聞こえて来るものだろう。
「あ、これ食べない?」
「ここ寄ろうよ!!」
「あ、杏飴食べよ!!」
「やっぱり祭といえば、焼きそばだよ!!」
「タコ焼きも外せないよ!!」
上記の台詞は、全て緋野さんが言ったものです。それにしても、よく食べるな・・・。
1kmも離れていない神社まで行くのに、かかった時間は、1時間。決して人が多いからという理由からでは無い。確かに人は多いが、混雑する程のものじゃない。ただ単に、寄り道ばかりしていたからである。
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ようやく辿り着いた神社。小さい頃は、この神社の境内で総踊りがあったのだが、人口の増加と交通障害の恐れにより、場所は小学校へと移されたのだ。
神社へ来たのは、特別に意味がある訳じゃない。何となく歩いていたら、着いた。という感じだ。
「せっかくだから、お願い事でもして行かない?」
「そうだね」
賽銭箱にお金を入れて、彼女は手を合わせて目を閉じ、並んで俺も手を合わせる。
「じゃ、学校へ戻ろっか?」
「うん」
ほんの少し、この瞬間が続いて欲しいと思った。
「黒崎くんは、何をお願いしたの?」
「まぁ、秘密・・・緋野さんは?」
「私は、もしフラれても、友達としていさせて欲しいってお願いした!!」
「緋野さんだったら大丈夫じゃない?綺麗だし明るいし!」
「アハハッ、ありがとう!!」
屈託の無い笑顔・・・。この笑顔を見るのが、今日で最後になるだろう。
夜空を煌々と照らす、屋台や提灯の明かりに、軽く後押しされる・・・。
この人なら、大丈夫。結果がどうであろうと、きちんと受け止めてくれるだろう・・・。
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小学校グラウンド−−−
グラウンドの中央には、大きなステージがセッティングされており、四方からグラウンドの四隅に電線が伸び、幾つもの提灯が明るみを増している。既に多くの人々が集まっており、中には見覚えのある顔(サッカー部の保護者)やちび達。そして、中学時代の旧友がいる。勿論、伶や竜一も来ていた。
「お、涼じゃないか!久しぶりだなぁ」
「黒崎くん!?うわ、格好よくなったね〜」
「やだ、全然わかんなかったよ!!」
俺の存在に気付いた旧友達が集まって来た。上から順に、周防、唐沢さん、溝部さんだ。
「久しぶり、みんな元気そうだな!!」
「んな簡単に病気なんかなんねぇよ。それより、後ろの美人はどちら様?」
後ろ・・・あぁ、緋野さんか。
「この人は同じ高校の友人で、緋野美咲さん」
「はじめまして、緋野です!」
「もしかして、彼女?」
「だから友達だって言ってるじゃねえか!お、おま、緋野さんも迷惑するだろ!!ね、ねぇ緋野さん?」
「わかります〜?」
この後に及んで妙なボキャブラリーはやめて!!そして緋野さん、距離が近いよ!!ってかお前ら、ニヤニヤしてんじゃねぇ!!やばい、顔が熱い・・・もしかして、赤くなってる!?
「邪魔者は消えるよ!んじゃ、ごゆっくり〜」
「黒崎も遂に彼女が出来たか・・・」
「・・・せめて卒業前に、告白すればよかった・・・」
足早に人込みの中に消えて行った三人は、弁明の余地を与えてくれなかった・・・それより溝部さん、意味深な発言を残して消えるのはやめて!!
「面白い人達だったねぇ」
「俺は面白くなかった!それより、なんであんな事言ったの?」
「ん〜、流れで!?」
「・・・・」
なんか、告白する勇気が無くなった・・・。
「ん、どうかしたの?」
「・・・なんでもない」
「そう?あ、そろそろ始まるよ!!」
彼女が指指したステージの上に、続々と統一された浴衣を着込んだ人達が上がって行く。
いよいよ、町民総踊りが始まる。ステージの下でも、既に大勢の人々が、今か今かと待っている。
「ねぇ、せっかくだから踊らない?」
「俺は・・・遠慮しとくよ。ここで見てるから、踊ってきなよ」
「黒崎くんが踊らないなら、私も踊らない!」
「拗ねてない?」
「拗ねてない!!」
「・・・わかった。一緒に踊ろう?」
「うん!」
表情をコロコロ変えて、拗ねた表情からすぐに笑顔になる。少し子供っぽい感じが、更に俺を惹きつける。
ステージに上がった人の挨拶が始まり、太鼓に合わせて踊り出す。俺は生まれてずっと、この秋槻校区で育って来たので一通り踊れるが、彼女は一度も参加したことがないらしく、踊りもぎこちない。
「黒崎くん、上手いね!!」
「緋野さんは、下手だね」
「軽く傷つくんだけど・・・」
「冗談だよ」
さすがは運動神経のよさ。踊り始めて十分もしないうちに、一通り踊れるようになってる・・・。
「楽しいねぇ」
「そうだね」
それ以上の言葉はなかったが、なんだか温かい気持ちになる・・・。
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町民総踊りに続き、子供会の踊りがあっている。グラウンドに敷かれたブルーシートに座り、近くで売ってたタコ焼きを頬張っているのだが・・・。
「もう一個食べていい?」
「もう、全部食べなよ・・・」
「マジ!?ありがとう!!」
十二個入ったタコ焼きは、あっという間に無くなった。その殆どを、緋野さんが食べたのは言うまでもないのだが・・・。
「ちょっといいかな?」
「ん?」
グラウンド横を流れる小川に、俺は彼女を呼び出した。
「どうしたの?」
「少し、聞いて欲しい事があるんだ・・・」
聞いて欲しい事、それは・・・今の気持ちを正直に伝える事だ。
「この前、サッカーの試合に俺が言った言葉、覚える?」
「・・・私が告白するって言った時の事?」
「そう。『気持ちを伝えない方が、フラれる事よりも辛い・・・』あれは、自分に言い聞かせるつもりで言った事なんだ・・・」
「黒崎くんも、好きな人がいるって事?」
「ハハッ・・・俺の好きな人は、他に好きな人がいるんだ。・・・そして、その人は、俺の隣で話を聞いてくれている・・・」
「それって・・・」
「最後まで聞いて欲しい。・・・俺が好きな人、それは緋野さんなんだ」
言った・・・。黙り込んだ彼女に、俺は再び口を開く。
「緋野さんに好きな人がいる事は知ってる。でも、気持ちを伝えたかったんだ。臆病者から卒業したい・・・だから、告白した」
「・・・・」
本当に、呆気ない・・・。これだけの言葉を言う為に、どれだけ悩み、苦しんだのだろう・・・。次に俺を待っているのは、『失恋』の二文字・・・でも、なぜだか心は落ち着いている。
「話を聞いてくれて、ありがとう!・・・俺、帰るよ・・・」
「・・・ずるいよ・・・」
立ち上がった俺のジーンズを引っ張り、彼女は小さく呟いた。
「緋野さん?」
「黒崎くんは、ずるいよ・・・。言いたい事だけ言って、私の返事も聞かないで・・・」
泣いていたのだ・・・緋野さんは・・・。
「私の・・・好きな・・人は・・・サッカーが好きで・・子供が・・・好きで・・少し強引な私に・・・素敵な言葉を、教えてくれた・・・」
「・・・・」
「黒崎くん・・・私の・・好きな・・・人・・は、キミだよ」
頭が、真っ白になった・・・。しかし、彼女は言葉を紡ぐ・・・。
「嫌われたく・・・なかった・・・避けられたく・・なかった・・・だけど、私も・・後悔・・・したく・・なかっ・・た」
「それじゃ・・・」
言いかけた言葉を飲み込む・・・。彼女の目に、涙はもう無い・・・。その瞳はまっすぐに俺を見据え、僅かに口元が綻ぶ・・・。
「もう一度言う・・・俺は、緋野さんが好きだ!!」
「私も、黒崎くんが・・涼くんが好き!!・・・だから、美咲って呼んで・・・」
「美咲・・・・」
遠くで、祭囃子が聞こえる・・・。
「全ては俺の勘違い・・・だったのか?」
「フフッ・・・。そうかもしれないね。でも、本当の気持ちを伝えてくれて、嬉しかった。まだ、実感湧かないよ・・・」
「じゃあさ、手・・・繋がない?」
「・・・うん!!」
キスなんて、恋愛初心者の俺達にはまだ早い・・・。手を繋ぐ事が精一杯だ。でも、それでいい・・・今、この瞬間が、最高に幸せなんだから・・・。
「あの時、神社で何をお願いしたの?」
「あぁ、あれはね・・・」
『少しでもいいから、彼女の側にいられますように・・・』
この作品は、こちらのサイト様に登録する以前から執筆していたもので、私としても思い入れのあるものでした。短編で投稿しようとも思いましたが、それでは途中途中の行程に誤差が生じてしまう。皆様に、よりわかりやすく表現出来るよう、連載に致しました。無事に完結させる事が出来て、大変嬉しく思います。御意見・御感想をよろしくお願いします。 真稀




