第八話 臆病者
さあ、今から楽しいサプライズ!!BBQ大会の始まりだ!!肉と野菜はすでに試合前に届いていた。グラウンド横のスペースに、BBQセットがいつの間にか準備されている。どうやら先に、保護者の人達が準備してくれていたようだ。
「んじゃ、火をつけるぞ!」
「コーチ、これって・・・」
「お疲れ様を込めた、BBQ大会だ!!」
・・・・・・
《やった〜!!》
数秒の間を置いて、ちび達は歓喜の声を挙げた。一斉にセットに群がり、先生や親父から紙皿と紙コップを貰い、スタンバイOK♪
後は、金網がいい感じに熱くなってくれば、BBQ大会のスタートだ!!
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あれ・・・?なんか保護者の人達が持ってる物って・・・麦茶みたいな色をしてるけど、なんか泡だってる。
あれか?ビールか?麦酒といわれている、未成年飲用禁止のアルコール飲料か!!ってか、そんな物を頼んだ覚えは無いんだが・・・。
「涼、お前も飲むか?」
なんかビールを保護者の人に配り歩く人物が一名、名指して声をかけて来る。奴だ・・・。親父だ。
そういえば、親父の簡単な説明をしよう。名前は黒崎政次、某飲料メーカーの営業部長で、こういったイベント的なものがある時は、自社製品のPR活動と称していろんな飲み物を持って来る。今回無料で飲み物を手に入れたのも、親父に頼んだ為である。・・・ビールは余計だが。
それぞれの手に、飲み物が渡り、先生が乾杯の音頭をやるはずだった・・・。
「乾杯の音頭を黒崎崎くんにやって貰いましょう。あ、ちゃんと何か一言言ってねぇ♪」
面倒事を、押し付けられた・・・。うわぁ、なんかみんな期待してるよ・・・。
「えっと・・・、今日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。今回の試合、怪我も無く無事に終わり、俺自身もホッとしています」
ひと呼吸入れて、みんなの顔を見る。全員の視線が、俺に向いている。
「・・・正直、勝ち負けなんてどうでもよかった。ただ、楽しんでくれればいい。それだけでした。だから試合が終わった後、子供達の笑顔を見て・・・楽しんでサッカーをやっていた。それだけで満足です、何時までコーチを続けられるかわかりませんが、精一杯頑張るので、これからもよろしくお願いします!!」
パチ・・・パチパチ・・・パチパチパチパチ!!!!
どこからともなく拍手が沸き起こる。照れ隠しの為、紙コップを高々と掲げ、乾杯の音頭をとった。
「それでは・・・乾杯〜!!」
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あぁ、楽しいBBQ大会・・・。
「いやいや黒崎さん、結構イケる口ですな!!」
「なんの、仙道さんこそお強いですな!!」
親父どもは、勝手に仲良くなっているし・・・。
「黒崎くん、彼女はいるの?」
「うちの子なんてどうかしら?今高校一年なんだけど、男っ気がないのよね〜」
「あら、それならうちの娘も紹介するわよ〜♪」
「そういえば山上さん、最近お痩せになりました?」
「わかります?3キロ痩せたんですよ〜」
俺は俺で、奥様方の怒涛の質問攻め+いどばた会議に巻き込まれ・・・。
「美咲ちゃんは、彼氏いるんでしょ!?」
「えっ、いないですよ〜!」
「気になる人はいないの?」
「気になる人は、いますよ!!」
緋野さんは・・・なんか状況を楽しんでるし!!まぁ無理もないか。彼女は願掛けを成功させた。後は告白・・・その機会を伺うのみだ。
「よかったね、試合も勝ったし!」
「・・・うん」
賑やかな場所から少し離れた所にいた緋野さんに飲み物を差し出し声をかけるが、さっきまでの明るい雰囲気とは違い、心なしか、浮かない顔をしている。
「どうかしたの?」
「・・・あのさ」
「ん?」
「自信がないの・・・」
「何故?」
飲み物を受け取った彼女は、暑さでほてった額に冷たい缶を当てながら、本当に自信なさ気に呟く・・・。
「私、生まれて初めて好きな人が出来たの・・・。17年間で初めて・・・だからさ、怖いんだ。」
「・・・そっかぁ」
初めて見る、緋野さんの泣きそうな顔を・・・。
「でもさ、行動を起こさないと、何も始まらないと思う・・・」
「それは、私だってわかってるよ・・・でも、怖いんだ。フラれる事がじゃなくて、今までの関係が壊れてしまうんじゃないかって・・・」
彼女の肩が、僅かに震えていた・・・。どうしようもないくらいに、俺の心も締め付けられる。手を伸ばせば抱きしめる事だって出来る筈なのに、俺には出来ない。彼女の事が好きだからこそ、余計に・・・。
「ごめん、変な事言って・・・」
「・・・ただの気休めかもしれないけど、俺が同じ立場だったら、俺は告白する」
「どうして?」
「気持ちを伝える事は、とても勇気がいる・・・でも、伝える事が出来ないほうが、フラれる事よりもずっと辛いと思うんだ・・・」
静かに話を聞いていた緋野さんは、顔を上げて俺を見る。
「・・・黒崎くんは、強いね・・・」
「いや、そんな事はないよ・・・」
「私だったら、そうは考えなかった。だから、今の言葉はすっごく心に染みたよ!」
「そう?よかった。」
俺のほうに向き直った緋野さんは、迷いのない、清々しい表情だった。
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日も暮れ始め、BBQ大会もお開きになった。後片付けを済ませ、飲んでいない保護者の人達は、酔っ払いを車に乗せ、それぞれの帰路に着く。うちは、お袋が親父を連れてさっさと帰ってしまい、グラウンドには、先生と緋野姉弟、そして俺が残っている。
「終わったね〜♪」
「先生も、お疲れ様です」
「ほら、暗くなる前に緋野さん達を送ってあげなさい♪鍵は私がかけておくから」
「あ、はい・・・」
「赤凪先生さよなら〜」
「お疲れ様でした。それじゃ、家まで送るよ」
テンションの高い先生に見送られ、俺達は学校を出た。
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「ねぇ、黒崎くん」
「ん?」
「告白・・・上手くいくかな?」
「・・・きっと、上手くいくよ!」
根拠なんてなかった・・・。でも、彼女の顔を見ていると、こんな言葉しか出て来ない。
「ありがとう!!」
彼女は笑っている。その瞳に、俺はどう映っているだろうか・・・。うまく、笑っているだろうか?
「じゃあ、ここでいいから・・・」
「うん、それじゃ」
「コーチ、バイバイ!!」
二人に別れを告げ、俺は家へと続く一本道で、彼女へ言った言葉を反芻した。
『相手に気持ちを伝えないほうが、フラれる事よりもずっと辛い事なんだ・・・』
滑稽だ・・・
偉そうな事を言っておいて・・・
自分はなんにも行動しない・・・
俺は、臆病者だ・・・
俺に、彼女を好きになる資格はない・・・
傷つく事を恐れているのは彼女じゃない・・・俺自身だったんだ・・・。




