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第13話

小学1年生の時、姉がラブレターを書いているのを見たことがある。


晩ご飯の時。


姉を呼びに部屋の扉を開けるといつも怖い姉が困ったり悶えたりにやけたり。


今まで見たことがない表情をたくさんしながら手紙を書いていた。


僕は「これは何だろう」と思い、何だか怖くなって母に姉の様子を伝えると、母は「あら」と嬉しそうな顔をした。


そして、僕に目線を合わせると大切なことを教えるように言ってくれた。


「巽、それはラブレターよ」


「らぶれたー?」


聞きなれない言葉にきょとんとする僕。


母は頷き、更に教えてくれた。


「それはね、好きな人について悩めば悩むほど素敵になるお手紙なのよ?」


「なやめばなやむほど……」


僕は「そうか」と思った。


姉が僕の見たことがない顔をたくさんしながら書いたあの手紙はきっととっても素敵なお手紙になっているにちがいない。


何だかワクワクしてきた僕は自分もラブレターを書いてみようと思った。


好きな人についてたくさん悩みながら。



「巽君、お母さん、こんなの見つけちゃった」


日曜日。午後。


自分の部屋で大学の課題をノートパソコンで作成していると母がウキウキ気分でそんな事を言いながら入ってきた。


「ん? 何それ」


母の手に持たれたくしゃくしゃの紙。


見ながら首を傾げていると母はにんまりしながら僕にその紙を近付けてくる。


「巽君の初めてのラブレター」


「!」


急速に甦る僕の記憶。


破った跡がある緑の線の方眼用紙。


マス目いっぱいに書かれた拙い鉛筆の文字。


「あ~……」


一気に顔がゆがむ。


「あら、どうしたの? そんな嫌そ~な顔して」


「母さんが息子の黒歴史を掘り出してくるからだろ? てか、それ、捨てたはずなのに何で持ってんの?」


あの後、姉は泣きながら帰って来て、全力でゴミ箱にラブレターを投げ捨てた。


それを見てショックを受けた僕もそっとゴミ箱に自分のラブレターを捨てた、はずだった。


「あら、息子の初めてのラブレターを捨てられるわけないじゃない。ちなみに、お姉ちゃんのもとってあるわよ?」


「母の愛情が重たいよ……」


頭痛がしてきて額を押さえる。


母はニコニコしながら机にラブレターを置いていく。


「見たら返してね。捨てちゃだめよ?」


入った時と同じくウキウキ気分で部屋から出ていく。


僕は1つ溜息をついて改めてラブレターを眺めた。


確か、かんじれんしゅうちょう、だったと思う。


それを破いて僕はこの手紙を書いたはずだ。


『ぼくのすきな人へ』


そんな言葉から小1のラブレターは始まっていた。



『たくさんたからものをみつけましょう。

 たくさんてをつなぎましょう。

 ぼくはあなたをたくさんたくさんたいせつにします。

 だからずっとずっといっしょにいてください。』



当時、好きな人がいなかった僕はいつか好きになる人を想像しながらこの手紙を書いたはずだ。


好きな人を想像しながらその人といっしょに何をしたいか、何をあげたいか、たくさん悩んだ。


当時、宝物だらけだった僕の世界で。


家族とばかり手をつないでいた僕の世界で。


たくさん大切にしながら、たくさんワクワクしてドキドキして、ずっとずっと一緒にいたいと思った。


消しゴムで消したあとだらけのラブレター。


バカだなって思う。


でも、


僕は携帯電話を取り出し、電話をかけた。


出ない。


あ。


出ない理由に気付いて慌てて電話を切る。


そうだ、今はあの頃の僕たちの時間だった。


反省しながらあの人を思い浮かべて思う。



小さな僕が想像の好きな人に贈りたかった「たくさん」を僕は本当に好きなあなたに贈れていましたか? と。



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